冷気で起こる咳は「咳喘息(せきぜんそく)」の可能性 喘息との違いは?
呼吸器内科では、ゴホゴホと咳を訴えて来院される患者さんが多いです。中には喘息(ぜんそく)や咳喘息(せきぜんそく)の患者さんがいます。「喘息と咳喘息って何が違うの?」とよく聞かれるので、両者の違いを解説させていただきます。
「ぜえぜえ・ヒューヒュー」がない
まず喘息というのは、アレルゲンなどの外的な要因によって、気管支がキュっと縮んでしまう病気です。気管支が縮まると、咳が出たり、「ぜえぜえ・ヒューヒュー」という喘鳴(ぜんめい)が出ます。患者さんの胸に聴診器をあてると、小さな笛のような音がします。
しかし、咳喘息は、「ぜえぜえ・ヒューヒュー」がなく、肺機能はほぼ正常です。聴診器をあてても異常がありません。病態は喘息と非常に似ているのですが、咳喘息は「コンコン」と乾いた咳だけが続きます。
乾いた咳には色々な病気が含まれるため、なかなか咳喘息と診断されません。慢性の咳があり受診した患者さんの3人に1人以上が咳喘息という報告もあり(1,2)、見逃されやすい疾患であるため注意が必要です。
咳喘息は、喘息の前段階という側面もあり、実は3~4割が喘息に移行するとされています(図1)(3)。そのため、早期診断・早期治療によって喘息への移行を予防することも重要です(4)。
冷気で咳が出る
咳喘息は、子どもでは男の子に、成人では20~40代の女性に多いとされています。乾いた咳が8週間以上続く場合に疑う必要がありますが、特に咳喘息らしいのは、冷気に接したときや会話時に悪化する咳があるときです(図2)(5)。
ちょっとした刺激ですぐ咳が出るので、かなりメンタルがやられることもあります。
喘息と同じような原因で咳や発作が悪化するため、花粉症や秋口に急に気温が低下する時期に咳が出る場合、喘息や咳喘息を疑います。
咳喘息の治療は?
市販の風邪薬や咳止めはほとんど効果がありません。咳喘息では、気管支の炎症をおさめてあげる吸入ステロイドを主に使います。治療効果があると、まず、夜の咳がかなり減ります(6)。
実は、喘息の治療も吸入薬です。え?じゃあ、喘息と咳喘息の治療が同じなら最初から両者を区別しなくてもいいんじゃないの?という意見も出てきそうですが、確かにその通りです。
一般的には、喘息と咳喘息は似たような疾患と理解してもらってよいと思います。ただ、研究レベルでは別の疾患と捉えるべきだという見解があり、医学の世界では分けて考えられています。
咳がよくなったと思って吸入薬をやめてしまうと、また咳が出ることがあり、季節ごとに再発を繰り返すこともあります。そのため、喘息と同じように年単位で経過をみる必要があります。
まとめ
咳が8週間以上長引いたり、冷気・会話で誘発されたりする場合、それは咳喘息かもしれません。
長引く咳を放置していると、「咳スパイラル」が悪化して症状がとれにくくなるため、早めに呼吸器内科を受診するよう心がけてください。
(参考)
(1) Fujimura M, et al. Respirology. 2005 Mar;10(2):201-7.
(2) Niimi A, et al. J Asthma. 2013 Nov;50(9):932-7.
(3) Spector SL, et al. Ann Allergy Asthma Immunol. 2004; 93: 232-6.
(4) Matsumoto H, et al. J Asthma. 2006; 43; 131-5.
(5) Kanemitsu Y, et al. Respir Investig. 2016;54:413-8.
(6) Fukuhara A, et al. J Allergy Clin Immunol Pract. 2020 ;8(2): 654-661.