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サッカーは監督で変わるという事実に遭遇したことがない日本の悲劇。

杉山茂樹スポーツライター

ウルグアイに対して2対4。この2点差負けは、内容的には4点差に相当した。中立地で、もう一人の強力FWカバーニを加えたウルグアイと真剣勝負をすれば、2対4では済まないだろう。

ザッケローニは、ウルグアイ戦後の記者会見の冒頭で「私は、世界のトップに立てとの要請は受けていない」と語った。ウルグアイに2対4で敗れたからといって、そう騒がないでくれと言わんばかりに、記者団を牽制した。

「日本代表監督就任に当たり日本サッカー協会から課せられたのは、アジア予選を突破することと、世界の強豪に近づくことだ」と。

そしてこう続けた。

「実際、ウルグアイに2点差をつけられるほど、実力差はない」

「相手の方がフィジカルコンディションが良かった。身体の小さな日本人が、(ウルグアイのような)世界のトップクラスと対戦するとき、コンディションで劣れば、体力差はもっと生まれる。ミスも出やすくなる」

「我々はウルグアイ相手にミスを重ねた。ウルグアイの前線の選手は、ウチのミスを見逃さなかった。彼らは逆にミスをしなかった」

「ミスの原因はコンディションの悪さにあり」と、ザッケローニは言うわけだ。そして「コンディションが伴ったときは、実際、我々は良いサッカーをしてきた」と胸を張った。

「問題なし」。ザッケローニの言葉を一言でまとめればそうなる。

突っ込みどころ満載である。この弁明には隙がありすぎる。

「コンディションが伴ったときは良いサッカーをしてきた」と言うが、それはいったい、いつ行われた試合なのか。少なくとも、世界の強豪に近づいたことを実感した試合はない。強いて挙げるなら、フランスのサブチームに対して収めた勝利(2012年10月)になるが、この件でもし日本が胸を張れば「勝手な解釈をするな」と、フランスに一喝されることは見えている。

アジア予選は通ったが、世界との距離は縮まらず。これこそがザックジャパンの現状になる。

なにより、強豪相手に番狂わせの可能性を感じない。日本はそれなりに巧いが、怖さがない。パスワークと俊敏性には優れているが、嫌らしさがない。絶対的な武器がない。

本来、監督采配も武器の一つになる。最も重要な武器と言っていい。それなしに、世界の強豪に一泡吹かせることは難しい。代表監督を外国人に求めたくなる一番の理由は、その可能性を日本人監督に感じにくいからだ。

ザッケローニにはそれを感じる。不足している選手の自力を補う力がある。40対60の関係を、ザッケローニなら45対55に持って行ける。30対70を40対60に持って行けると期待したからこそ、推定年俸2億円で招いたわけだ。

しかし、ブラジル、イタリア、メキシコ、ウルグアイと、日本は最近対戦した強豪に、いずれも順当に敗れている。もう一度戦ったら、一泡吹かせることができるかもしれないという期待感をまるで抱きにくい敗戦を、立て続けに喫している。それは、40対60の関係を、むしろ35対65にされたような、悲しい敗戦に見える。

ザッケローニに向けられる目が懐疑的になるのは致し方ない。そこでコンディションの話を言い訳がましくされると、懐疑的な目は、絶望的な目に変わる。

ジーコジャパンも岡田ジャパンも、この頃から怪しくなった。4年周期の3年目を過ぎた頃、すなわち予選突破を決めた後ぐらいから失速モードに入った。

ザックジャパンも、いままさに同じ道を辿ろうとしている。そう思わずにはいられない。上がり目が感じられない。監督采配への期待値も低い。閉塞感に覆われつつある。

監督交代を叫びたいところだが、これもまた期待薄だ。日本サッカー協会が、代表監督を、不振を理由に任期の途中で解任した例は、97年の加茂サンまで遡らなければならない。その時、加茂サンに代わったのは岡田サン。2007年にオシムが倒れた時も、ピンチヒッターは岡田サンだった。

それなりのレベルにある外国人監督を起用できない理由は、危機管理の意識が低いからだ。備えができていない。探す力がない。もっと言えば、代える力がない。

責任者は誰なのか。監督の仕事内容を評価する人物は誰なのか。海外の動向を探る人は誰なのか。

組織が整っていないのだ。代える仕組みがない。日本サッカーは、日本代表を中心に回っているというのに、だ。

もしいまザッケローニに自ら身を引かれたら、協会は真っ青だろう。できるだけ代えたくない。4年間何事もなく経過して欲しい。協会の本音は恐らくコレ。好成績をどん欲に追求する態勢になっていないのだ。

どんなに危惧したところで現状に変わりなし。打つ手なしだ。

さらにいえば、監督交代を叫ぶメディアはほとんどない。ダメ元でもいいから言えばいいのに言おうとしない。代表監督交代劇に、エンターテインメント性を見いだそうとしていない。

同様にファンも大人しい。夢を抱けずにいる。それもこれも、成功例を見た試しががないからだ。監督交代による戦力アップをイメージできないからだ。イメージするのは前述の加茂サン→岡田サンで、その記憶すら薄れている。それを知らない若いファンも数を増やしている。

サッカーは監督で変わるという事実を知っている人が少ない。

というわけで、日本に漂い始めている閉塞感は、いっそう増していきそうである。

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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