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当たり前だった結婚や出産が叶わない世代ではなかったか?就職氷河期、現在40代女性に想いを寄せて

水上賢治映画ライター
「女たち」の斎藤文撮影監督  筆者撮影

 現代を生きる女性ならば誰しもがいつ直面してもおかしくない現実を逃げずに見据えた、現在公開中の映画「女たち」。

 本作については、先に内田伸輝監督のインタビュー(前編後編)を伝えた。

 それに続き、斎藤文撮影監督のインタビューを届ける。(全三回)

 撮影監督の立場からの話をきくことで作品世界を紐解く。

 はじめに、結婚、介護、仕事、いずれもままならずに追い詰められる40代女性の物語である「女たち」の脚本は内田伸輝監督による。

 ただ、その脚本作りには、ふたりの女性が参加している。ひとりは主人公の美咲を演じた篠原ゆき子。そしてもうひとりが斎藤だ。

最初に社会に出るところで躓いて、その後なかなか事態が好転していかない。

そうした状況は就職氷河期世代にはあったのではないか

 脚本作りについてまずこう振り返る。

「まず40代の女性の物語を作るということが前提としてあって、わたし自身がまさに同世代にあたる。

 内田監督がインタビューで答えていると思うんですけど、この世代は『就職氷河期』なんです。

 そこがひとつ作品の中でテーマとしてあがったのですが、わたし自身は、就職氷河期を実感していないといいますか……。

 ベビーブームで学生時代から競争社会で揉まれてきました。個人的にはカメラマンになる為にバイトを掛け持ちしたり、カメラマンになってもフリーランスで安定しない厳しい状況は常にありますが、正社員になれるとかなれないとか関係ないところにいたので正直なことを言うと身をもってその厳しさを体験していない。

 ただ、周りの友人からは、就職先がまったく見つからないとか、正社員では働き口がないとか話はきいていた。

 その最初に社会に出るところで躓いて、その後なかなか事態が好転していかない状況は、確かにこの世代はあったなと思いました。

 あと、もうひとつこの世代の女性を描くなら外せないことは結婚かなと。

 わたしたちの親の世代は、結婚して子どもをもつことが当たり前というか。自然な流れだった。

 でも、今の時代は、独身でいることを選ぶ人、結婚しても子どもをもたないことを選択する夫婦も珍しくなくなってきた。

 ただ、その選択も自ら望んでそういう選択をした人がいる一方で、経済的理由で結婚できないとか、子どもをもつことを諦めたという人も多くいた。

 そういう厳しい現実がある中で、ある種の古い価値観、これまでの当たり前だった、女性だったら結婚して子どもを産むことを身内からも漠然とした社会からも求められる

 そこで感じる生きづらさや苦痛は確実にあった。ここは作品の欠かせない要素になると思いました。

 それまでの当たり前だった結婚や出産が叶わないことへの苦悩や、将来が見通せない不安といったことは盛り込まないとと思いました

 あと、女性って選択というか決断しないといけないことがいっぱいある。

 たとえば、結婚して姓を変えなければならないとか、出産にしても年齢のリミットがあって、産むならばどこかで決断しなければならない。

 出産後に仕事に戻るか、育児に集中するのかとか、そういう選択と決断の連続が30代から40代にかけてずっと続いている気がするんです。

 その過程で、私もそうですけど、なにかを手にする一方で、捨てたくなくても捨てないといけないことが出てくる

 そういう岐路に立たされることが、もしかしたら男性よりも実は女性の方が多いのではないかと思いました。

 そこを物語のひとつ土台であり、基軸にしていったらいいのではないかと思いました」

「女たち」より
「女たち」より

美咲と美津子のような母娘関係はけっこう生まれるのではないか

 このような考えのもとで生まれた主人公の美咲は、40歳を目前にした独身女性。

 東京の大学を卒業したものの、就職氷河期世代で就職もままならなかった彼女は、いまは地元に戻って、地域の学童保育所で働きながら、時々友人の香織が営む養蜂園を手伝っている。

 家で待っているのは体の不自由な母だけ。

 最近、結婚まで考えていた男に騙されていたことが発覚し、鬱屈とした日々を送っている。

 作品は、こんな八方ふさがりの現実の中を生きるしかない女性の追い詰められていく心境が克明に綴られる。

 その中で、美咲を追い詰めるひとりが母親だ。

 最後に美咲の母・美津子への感情は爆発。本作におけるクライマックスのシーンへとつながっていく。

 母と娘の関係ではどういったことを考えたのか?

「美咲の置かれる立場についてはかなり考えて、内田監督と篠原さんを交えてアイデアを出していきました。

 美咲にとって母・美津子の存在は大きい。影響大。

 昔は、勝手に自分の夢を娘に押し付け、高学歴を望んでお受験に励んだタイプだったが、そのどれも上手くいかず、娘に過度な期待を諦め、今では自身の価値観の中での評価で娘を責めるというか。

 たとえば、『わたしの若いころのほうが美人だった』とか、『あんたは器量がない』とか、『わたしはできたのに、なんであんたはできないかね』みたいなことでチクチクと責めたてる。

 これはきついですよね。母親がいう当たり前ができない自分はなんなんだろうとへこむ。

 ただ、美津子は介護される側で、美咲は介護する側となったとき、こういう歪んだ上下関係がけっこう生まれるのではないかと。

 美津子としては介護に感謝はしているんだけど、体の不自由さに苛立ち、つい娘だから当たる。

 美咲もそのことがなんとなくわかっているから、辛くてもやり過ごす。

 でも、それが繰り返されるうちにエスカレートしていってしまって、いつからか逆らえない上下関係が生まれてしまう。

 そういうことが美咲と美津子の母子関係には反映されているところがあります」

こうした田舎において、同じ時間を過ごして、友人と呼べる存在が

いるかいないかは、かなり大きい

 美咲を結果的に追い詰めてしまうもうひとりの人物が無二の親友の香織。

 美咲が深い友情で結ばれていると信じていた彼女は、ある日突然、この世から去ってしまう。

「この物語において、やはり女性同士の友情は大きなテーマになるなと。

 とくに、こうした田舎において、同じ時間を過ごして、友人と呼べる存在がいるかいないかは、かなり大きい。

 そういう存在が突然目の前から消えてしまったときの衝撃ははかりしれない。

 自分はなにかできたのではないかと深く考え、後悔もする。

 でも、この年齢になってくると、そういう悲しい別れとも無縁ではない。

 そこをどう乗り越えるのか。

 これもまた40代女性のリアルを描く上で大きいのではないかと考えました」

(※第二回に続く)

「女たち」ポスタービジュアル
「女たち」ポスタービジュアル

「女たち」

監督:内田伸輝

出演:篠原ゆき子、倉科カナ、高畑淳子、サヘル・ローズ、筒井茄奈子、窪塚俊介

全国順次公開中

筆者撮影以外の写真はすべて(C)「女たち」制作委員会

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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