老舗は横浜家系をどう見ているのか? 一流ラーメン職人が“我流”横浜家系ラーメンにこだわる理由(後編)
横浜家系ラーメンがここに来てまた面白い。
1974年創業の「吉村家」(当時は新杉田駅近く)を総本山とし、その直系店や弟子、孫弟子の出店で広がってきたが、近年は大手外食系企業によって運営される「資本系」の家系ラーメン店が増殖し、全国的に一大ブームとなった。さらには、この数年で一流のラーメン職人が新ブランドとして“我流”の家系ラーメン店をオープンする流れが広がってきている。
前回の前編(ミシュラン店主の挑戦! 一流ラーメン職人が“我流”横浜家系ラーメンにこだわる理由(前編))に引き続き、今回は老舗の挑戦を紹介したい。
2022年9月7日、東急目黒線・武蔵小山駅から徒歩4~5分のところに一軒の横浜家系ラーメン店がオープンした。その名も「ラーメン家 がんくろ」。駅前から続くアーケード街であるパルム商店街の中にオープンしたお店。
実はこのお店、2000年オープンの老舗「せたが屋」の手掛ける家系ラーメンブランド。
「せたが屋」は2000年代初頭のラーメンブームを牽引し、「ひるがお」「ふくもり」など時代とともに各ブランドを成功させてきたお店。店主の前島司さんは今年還暦を迎えるが、まだまだ現役で「ミスターラーメン」とも呼ばれるラーメン職人である。
20年以上トップを走り続けてきた前島さんがなぜ今横浜家系ラーメンなのか?
「本流、亜流、我流、チェーン店も含めて家系ラーメンの裾野がどんどん広がり、その山が大きくなってきたのを感じ、その山を登ってみたくなったという感じですかね。20年前に塩ラーメンのブランドを作った時(『ひるがお』)もそうでしたが、ラーメンを作る職人として家系は避けて通れませんでした」(前島さん)
コロナでの業績悪化の起爆剤が欲しかった
前島さんにとっての家系ラーメンは、まだ開業前に食べ歩きをしていた頃、初めて「吉村家」(当時は新杉田)で食べた時に衝撃を受けた思い出の味だという。前島さんはここから更にラーメンの魅力に引き込まれた。とはいえ、20年以上手を付けていなかった家系ラーメンにこのタイミングで挑戦したのはなぜだったのか?
「コロナでなかなか会社の業績もままならない中、ブレイクスルーとして何らか起爆材が欲しかった。それが家系をやりたい気持ちとリンクしたんです。でもやるからには絶対失敗は許されないという覚悟でオープンしました。『頑張って黒字にしよう!』という意味を込めて、『がんくろ』と名付けました。
ただ、作るのは本当に大変です。この業態だと店舗展開が難しいのは実際にやってみて分かったことです」(前島さん)
セントラルキッチンでスープを仕込んで各店に配送しているチェーン店の存在も家系の文化の中では大きいが、前島さんはそうではなく、オールドスタイルの家系ラーメンにこだわった。
そう、「がんくろ」のラーメンは本気で店舗で手作りする家系に向き合って作った一杯なのだ。前島さんも厨房に立って、寸胴のスープと向き合う日々だ。
憧れの家系に新鮮な気持ちでチャレンジ
「家系のラーメン屋って何かカッコ良いんですよね。ユニホームや所作も含めて。なんか子供がパイロットに憧れるような気持ちとでも言いましょうか。
そして、お店によって見た目も味もさほど変わらないラーメンなのに、お客さんの層やお店の層が分厚く、世界観が大きい。
作ってよし、食べてよし、語ってよし! 作る方もなかなかの緊張感があって良いですね」(前島さん)
「せたが屋」の開業前からの憧れだった家系ラーメンの世界に飛び込んで、イチから新人のような気持ちでラーメン作りに向き合う前島さんの姿は実に清々しい。そして、そのラーメンは家系ラーメンの老舗へのリスペクトをこれでもかと感じる一杯だ。
「今後も“我流”の家系が増えてきそうですね。家系の山はどんどん大きくなるので、その分登るのも大変になってくると思います。でも食べる側は楽しい登山になるでしょうね。家系は永遠に不滅です」(前島さん)
もちろんビジネス的な観点から家系ラーメンを選択するということも大事な視点だが、そこに家系ラーメン愛が見えることで新たな美味しい一杯が生まれる。“我流”家系ラーメンに今後も注目していきたい。
ラーメン家 がんくろ
東京都品川区荏原3-3-20
※写真はすべて筆者による撮影
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