なぜバルサは調子を落としていたのか?響いたヤマルの不在...ハンジ・フリックの戦術と進む対策。
タイトルを獲得するには、ここから、復調していく必要があるだろう。
シーズン前半戦のクラシコで、バルセロナは敵地サンティアゴ・ベルナベウを征服した。ロベルト・レヴァンドフスキの活躍もあり、4−0でレアル・マドリーに快勝。戴冠に向け、その筆頭候補である事実を、存分に見せつけた。
だが最近のリーガの試合では、レアル・ソシエダ戦、セルタ戦、ラス・パルマス戦と3試合未勝利が続いていた。せっかく、クラシコで勝ったのにーー。そのような嘆きが聞こえてきたところ、第19節マジョルカ戦で勝利を取り戻している。
■相次ぐ負傷離脱とヤマルの存在
バルセロナは今季、負傷者が続出している。ロナウド・アラウホ(コパ・アメリカで負傷)、アンドレアス・クリステンセン、マルク・ベルナル、マーク・アンドレ・テア・シュテーゲン、アンス・ファティといった選手たちが、次々に「故障者リスト」に名を連ねた。
とりわけ大きかったのはラミン・ヤマルの負傷だ。先のラス・パルマス戦で復帰した17歳のアタッカーだが、まだ本調子ではない。何より、ヤマルの在・不在がチームに大きな影響を及ぼしている。
ヤマルは【4−3−3】の右ウィングあるいは【4−2−3−1】の2列目の右サイドで起用される。ヤマルのドリブル、突破力、個人技はバルセロナの大きな武器となっており、ここを起点に局面打開が図られるシーンも多々ある。
今季のバルセロナは、前線からのプレス、ショートカウンターが売りのチームだ。
一方で、ビルドアップの構築というのは、さほど上手くない。そのなかで、ヤマルのような選手がいれば、サイドに「ボールの出口」をつくり、外側からプレス回避が可能になる。「ヤマルのような選手のクオリティを失えば、どんなチームであれ、それが恋しくなるだろう」と語ったのはハンジ・フリック監督だ。
「だが我々は、十分なチャンスをつくれなかった。良い形でポゼッションしながら試合に入れたが、我々の日ではなかったということだ」
ヤマルは今季、公式戦18試合に出場して6ゴール9アシストをマークしている。そのヤマルがいないのは、もちろん、チームにとって打撃だった。
■攻撃パターンの不足
他方、ヤマルの不在の期間、露わになったのは、攻撃パターンの不足だ。十分なチャンスをつくれていない。指揮官の言葉を借りれば、そういうことになる。
今季、ハンジ・フリック監督の下、覚醒したのがラフィーニャだ。
ラフィーニャは2022年夏に移籍金5800万ユーロ(約92億円)でバルセロナに加入した。しかしながら、シャビ・エルナンデス前監督の指揮下においては、最後まで完全に信頼されるに至らず。22−23シーズン(公式戦50試合10得点)、23−24シーズン(37試合10得点)とパフォーマンスを落としていたが、今季(21試合16得点10アシスト)は調子を取り戻した。
そのラフィーニャとて、一人でプレーするタイプの選手ではない。左ウィングあるいはトップ下で、「シャドー役」として活きる。そのためには、ヤマルの突破力が、いみじくも必要だった。
■バルセロナ対策が進む
ヤマルの復帰で、ラフィーニャが再び好プレーを披露できれば、よい。だがその間も「セカンド・クライシス」に備えて攻撃の構築を確かにするアプローチは必要になる。
また、ここにきて、ラ・リーガで「バルセロナ対策」が進んでいる。
今季のバルセロナのもう一つの特徴として、ハイライン・ハイプレスが挙げられる。この戦術を実践するには、高いラインコントロールが必須になる。
パウ・クバルシ、イニゴ・マルティネスが、ハンジ・フリック監督の命を受け、そのタスクを担っている。だが対戦するチームは、徐々に「オフサイドライン破り」を意識的に行うようになってきた。具体的には、(1)アタッカー陣のプルアウェイの徹底、(2)2列目・3列目の飛び出しの強化、である。
33歳を迎えているイニゴ・マルティネスに関しては、スピード不足という欠点がある。このポイントをひたすら突く、というのは、対戦相手からずれば効率が良い。実際、ソシエダ、セルタ、ラス・パルマスといったチームは、このやり方で勝ち点をもぎ取っている。
「失望している。何をすべきか、我々は分かっている」
「私はバルセロナの選手たちを信じている。だが、物事というのは、こういうものだ。シーズンがスタートした時に、私は言っていたはずだ。言い訳はない、と。チームとして戦った時、我々はどんな相手にも勝つことができる。しかし、それができなければ…」
これはハンジ・フリック監督の言葉だ。
スペイン国内でバルセロナ対策が進む。それはバルセロナが「強い」という証左でもあるわけだが、ここを乗り越えなければ、タイトル奪取は難しい。
訪れた最初のクライシスーー。この峠を越えた先に、間違いなく、光はある。