Yahoo!ニュース

北は函館ラ・サール、南は筑紫…。指導者たちの花園。全国高校ラグビー大会2日目【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
30日には2回戦がある(写真はイメージです)(写真:アフロ)

大阪は花園ラグビー場に、いま、自分がいる。チームのトレーニングウェアを着用した痩身の体育教諭は、そのこと自体を幸福だと感じた。

「開会式も、ウォーミングアップも、噛みしめるように1分1秒を大切にしているという感覚ですね、はい」

声を絞ったのは西村寛久だ。福岡県立筑紫高校ラグビー部の総監督である。2015年冬。場所は「花園」こと、全国高校ラグビー大会の会場である。

監督を務めた2013年度までの19年間、西村はずっとこの地を目指していた。ここ10年で5回も優勝した東福岡高校の壁を、ついに、破れなかった。今回は第95回の記念大会での特別枠設置に伴い、ステージに誘われていたのだ。「24年ぶり5回目」。各種観戦ガイドに書かれた出場回数の裏に、豊穣な史実を堆積させてきた。

「たった1つですけど、花園で勝つというのには感動があります」

徹底的なスパルタ指導で知られた。試合前の円陣では、真ん中の指揮官の言葉に選手が「ハイ」「ハイ」「イイエ」「ハイ」と揃って反応する。「エンジョイ」を部是とする東福岡高校との対極なさまは、テレビのバラエティー番組でも取り上げられた。

「西村先生は、僕たちの心の中心です。常にメンタルの部分を支えてもらっている感じです」

現代の少年にカルチャーショックを与えうる指導者について、現キャプテンの武谷京佑はこう語る。印象的な場面を問われれば、「個人で話す時は優しい方で、笑顔が素敵です」。背筋の凍る思いと、心温まる思い。その振れ幅が感情を揺さぶり、師への畏敬の念に昇華される。

――厳しさへの反発は。

「それはそれで、また指導されるので。それに、指導を受け入れること(自体)も、自分たちの成長する点なので」

2015年12月28日、東京朝鮮中高級学校との1回戦を26―19で制した直後でのことだ。現監督の中村英行がインタビュールームで取材を受ける傍ら、名物コーチである西村も記者に捕まっていた。自分は監督ではないのに、といった遠慮がちな顔つき。それでも目の前の人に、真摯に応対していた。

函館ラ・サール高校の荒木竜平監督が、3つあるグラウンドのうち最も大きな「第1グラウンド」を出た。ベージュのロングコートを羽織り、目元まで前髪を流し、繊細に言葉を選び、時に笑みを交える。

1回戦を12―42で落とした。パスでゲインラインを切るシーンを幾度も演出したが、準優勝経験のある長崎北陽台高校の規律とフィジカルに屈した。「モールディフェンスの準備が不足していたという部分は、あると思います」。ゲームを誠実に観た結果、敗因を情緒でなく現象に求めた。

――大きな相手とのぶつかり合い、どうご覧になりましたか。

「予想通りというか、想定内でした。こういうレベルで勝つために1年間、やってきましたから。ただ、ファーストコンタクトの時のうちの選手の当たりが、ややソフトだったかな、と、思います」

――この大会での収穫は。

「そうですね…収穫…うーん…。これから整理しないと。いくつかポッポッとキーワードは出るのですが、いまお答えできる内容のものはないですね」

――では、反省は。

「あいつにああ言っておけばよかったとか、あいつにはあれを1回ではなく2回、3回も言っておけばよかったとかね…。こんなこと、ばっかりですね。毎回」

中高一貫の全寮制の男子校で、全国有数の進学実績を誇る。創立49年目のクラブへ荒木が赴任した2002年は、部員はわずか7人だった。強化への道筋を、美しいユーモアで言い当てた。

「コーヒーメーカーを勝手に学校へ持ち込んでコーヒーを淹れている先生と同じように、僕も勝手にラグビー部をやっています」

11年前に付属中にもラグビー部を作った。長期的に競技理論を涵養させる枠組みを、いまのチームの強化に繋げた。今回の登録メンバー25人中14人が、付属中出身だ。

――初めての花園。どんな気持ちですか。

「こいつら(選手)、いいなぁ、第1グラウンドで…と。それに相手が北陽台だったのもよかったと思います。いいチームですしね。出てくる選手の個人個人の理解度も高く、クリーンなラグビーをされる。私も好きなチームです。花園の一発目が北陽台で、よかったと思います」

日本の高校スポーツ報道は、現象よりも「ドラマ」に重点を置く傾向がある。日本代表キャプテンのリーチ マイケルが卒業した札幌山の手高校を破った進学校は、ただそれだけでスポットライトの対象だ。多くの10代が浮足立つかもしれぬ晩秋から冬にかけ、部員たちは皆、その状況を俯瞰していたようだ。荒木はこんな風景も語った。

「全国大会が決まってからも、本当に落ち着いて生活を送っていました。ラ・サールという名前だけで色々な取材をしていただくわけですけど、それを非常に冷静に見ていますね。『○○新聞はこう言っていたけれど、△△新聞はああだよね』『あの人の取材は、こういう切り口なんだね。もっと突っ込んでくるかと思ったけど、そうでもない。逆にそこがいい』と」

同じ競技であっても、そのおこない方や捉え方には多様性がある。全国高校ラグビー大会の参加者は、それを無意識的に具現化する。1月11日の決勝戦まで、芝の上でのプレゼンテーションは続く。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

すぐ人に話したくなるラグビー余話

税込550円/月初月無料投稿頻度:週1回程度(不定期)

有力選手やコーチのエピソードから、知る人ぞ知るあの人のインタビューまで。「ラグビーが好きでよかった」と思える話を伝えます。仕事や学業に置き換えられる話もある、かもしれません。もちろん、いわゆる「書くべきこと」からも逃げません。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

向風見也の最近の記事