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流行語大賞2022「SPY×FAMILY」のノミネートが示すもの

小新井涼アニメウォッチャー
AnimeJapan2022展示(筆者撮影)

今年で第39回を迎える「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞。

そのノミネート語が発表され、アニメ第2クールも好評放送中の「SPY×FAMILY」が選出されたことが注目を集めました。

ご存知の通り、この新語・流行語大賞にアニメや漫画関連のワードがノミネートされること自体は珍しくありません。

しかし今回の「SPY×FAMILY」の選出には、これまでノミネートされてきた言葉達とは、少し違った特徴も含まれているように思います。

■大衆化のスピード

まず特徴的なのは、本作の名前が流行語として、アニメ・漫画ファンのみならず、世間一般にまで浸透し、ノミネート語として選出されるまでの時間の速さです。

前述の通り、アニメや漫画関連のノミネート自体は珍しくありませんでしたが、本大賞はあくまで広く大衆を賑わせた流行語が選出されるため、中にはアニメ・漫画ファンの間での盛り上がりと、それ以外の層にまで言葉が浸透するまでとに時差があることもありました。

例えば、2016年にノミネートされた「聖地巡礼」は、その年の「君の名は。」や「逃げるは恥だが役に立つ」などをきっかけに一気に大衆化された言葉とはいえ、アニメや漫画ファンの間では、2000年代後半頃から既に定着していた言葉です。

2017年に選出された「刀剣乱舞」も、2015年に関連ワードの「刀剣女子」が一度選出されていたとはいえ、2017年に流行というより既にすっかり人気も定着しており、ファンの中には『今なんだ?』と、少し不思議に感じた方もいたのではないかと思います。

また、2019年4月からのアニメ放送がブームの火つけ役となった「鬼滅の刃」も、ノミネートされたのはその2019年ではなく、ブームがより大衆化していった2020年のことです。

そう考えると、今年4月のアニメ放送をきっかけに大きな盛り上がりをみせ、その人気がアニメ・漫画ファン以外にまですっかり浸透したうえで、流行語としてその年の内にノミネートされた本作の、大衆化するまでのスピードの速さというものが窺えます。

■当事者意識の強さ

もうひとつの特徴が、本作のノミネートに対する、世間一般的な当事者意識の強さです。

これまでにも、たとえば2016年の「おそ松さん」や2017年の「けものフレンズ」、2021年の「ウマ娘」など、アニメ化やアプリリリースといった、盛り上がるきっかけがあったその年の内にノミネートされた作品もありました。

しかしこれらの作品は、本大賞にノミネートされるだけあって様々なメディアでも取り上げられ、世間一般的な認知度もそれなりに高いものの、アニメ・漫画ファン以外の人にとっては、『そういえばよく耳に(目に)したな』と、盛り上がりをどこか外側から眺めているような距離感があったようにも思います。

それと比較すると、本作「SPY×FAMILY」は、「鬼滅の刃」ブーム以降のアニメ・漫画作品の大衆的な浸透、それに伴う広報や商品展開の広がりもあり、実際に作品に触れたことがある・キャラの名前を知っている・お菓子やグッズなどを手にしたことがあるという人が、アニメ・漫画ファン以外にも少なくないのではないでしょうか。

そう考えてみると本作のノミネートは、これまでと比べてそのノミネートが、盛り上がりを外側からみていた他人事ではなく、より流行語の実感もある、当事者意識の強い出来事として広く大衆的に受け取られているようにも思います。

  • ※上記は、直近10年のノミネート語より、アニメ・漫画とも関連の強いと思われる語を筆者の独断と偏見により選出した以下を参照

2021年  ウマ娘

2020年  あつ森、鬼滅の刃

2019年  ドラクエウォーク

2018年  君たちはどう生きるか

2017年  けものフレンズ、刀剣乱舞

2016年  おそ松さん、君の名は。、聖地巡礼、ポケモンGO

2015年  刀剣女子、ラブライバー、

2014年  ありのままで、レリゴー、妖怪ウォッチ

2013年  パズドラ

2012年  ―

前述の通り、これまでにもその盛り上がりが社会的に取り上げられ、アニメや漫画関連のワードが本大賞にノミネートされること自体は、特に珍しいことではありませんでした。

そのため、今回の「SPY×FAMILY」のノミネートについても、『あれだけ盛り上がったし』と、極めて普通のことのように思えるかもしれません。

しかし実はこの選出は、近年(殊更「鬼滅の刃」ブーム以降)さらなる大衆化と世間一般への浸透を経てきたアニメ・漫画作品の、現在の社会的な位置付けを色濃く反映した結果でもあるように思います。

アニメウォッチャー

北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院博士課程在籍。 KDエンタテインメント所属。 毎週約100本以上(再放送、配信含む)の全アニメを視聴し、全番組の感想をブログに掲載する活動を約5年前から継続しつつ、学術的な観点からアニメについて考察、研究している。 まんたんウェブやアニメ誌などでコラム連載や番組コメンテーターとして出演する傍ら、アニメ情報の監修で番組制作にも参加し、アニメビジネスのプランナーとしても活動中。

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