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「仕事で食べ物を捨て、店から出ればさっきまで捨てていた商品に金を払う」スーパーで働くパート主婦の叫び

井出留美食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)
(ペイレスイメージズ/アフロ)

2018年11月24日付の朝日新聞の「声」(投書)欄に、スーパーマーケットでパートとして働いている50代女性の声が載っていた。

私はスーパーでパートをしています。毎日、期限切れになった食品を捨てています。規則なのですが、毎回心が痛みます。

出典:2018年11月24日付 朝日新聞朝刊「声」より53歳女性の声

スーパーでは、消費期限や賞味期限の近いものを、商品棚の手前や上に置いている。だが、お客がわざわざ奥から新しいものを引っ張り出すため、期限が迫ったものが隠れてしまい、そのまま売れずに廃棄になってしまうことが多いのだという。

少しでも新鮮なものを選ぶことが、お母さんや奥さんたちの「賢い主婦の常識」なのでしょう。しかし、その日に消費する食品はそこまで新しいものを購入しなくてもよいはずです。

出典:2018年11月24日付 朝日新聞朝刊「声」欄より53歳女性の声

全国で食品ロスの講演をしながら一般の方の声を聴いてみると、「家では、買い物の時に奥から取るよう、親から習った」という人や、「学校の先生から、奥の新しいものを取るように教えられた」という声を聴く。ある都道府県では、教育現場で、新しいものから選んで買うように教えている、と伺った。

家庭ごみの現場。全国の廃棄物行政は、いかにごみを減らすかに苦慮している。ごみの大部分を占める食品ごみを減らすことは喫緊の課題だ(筆者撮影)
家庭ごみの現場。全国の廃棄物行政は、いかにごみを減らすかに苦慮している。ごみの大部分を占める食品ごみを減らすことは喫緊の課題だ(筆者撮影)

筆者が行なったアンケートでも、1,594名中、89%に当たる1,414名が「買い物のとき、奥から新しい日付のものを取ったことがある」と回答している(2017年9月19日〜2018年11月20日までの調査による)。

店頭に残して捨てる分だけ食料品価格は高くなっていることに気づかない消費者

無理してまで、全ての食品を手前から取って買う必要はない。投書した女性も書いている通り、「その日に消費する食品」なら、手前や上から取ればよく、数日かけて消費するのなら、その分だけ残っているのを買えばいい。

怖いのは、「店に古いのを残していけば自分が得する」と信じている消費者だ。

事業者は、捨てるためには廃棄コストを負担する。捨てる食品が多ければ多いほど、廃棄コストは多額になる。その廃棄コストはどこから捻出されるのだろうか。来店するお客が払っていく金から捻出される。廃棄コストを出すことで赤字になっては経営し続けられない。

ある高級食材店で働いたことのある女性に聞いたところ、毎日のように売れ残りを捨てているという。この店は知名度が高く、店名は一種のブランドにもなっている。店頭には、日持ちのしづらい、見た目も綺麗な食品ばかりが並んでいる。捨てるのを見越して高い価格設定がされている。店の経営を続けていくためには当然のことだろう。

メーカーが作った食品を小売(スーパーやコンビニ)が売り、それを消費者が買い、消費者が払ったお金のおかげで、メーカーや小売は商売を続けていくことができている。

今、食品ロスが大きな問題になっていますが、私たちの買い物の仕方も大きく影響しているのです。ロスになる分だけ食品も上乗せされた価格になっています。知らず知らずのうちに資源の無駄使いをして、値上げさせてしまっているのです。

出典:2018年11月24日付 朝日新聞「声」欄より53歳女性の声

スーパーでは、廃棄する前に見切り(値引き)販売をし、売り切る努力をしている。消費者にできる食品ロス削減対策は、これら期限の迫った見切り食品を買うことでもある(筆者撮影)
スーパーでは、廃棄する前に見切り(値引き)販売をし、売り切る努力をしている。消費者にできる食品ロス削減対策は、これら期限の迫った見切り食品を買うことでもある(筆者撮影)

「仕事では食べ物を捨て、一歩店から出れば、さっきまで捨てていた食品にお金を払う」

スーパーマーケットの多くは、パートやアルバイトなどの非正規雇用の職員で成り立っている。働く人全体の70%以上を非正規雇用の職員が占める場合も多い。2018年3月27日付、東洋経済オンラインの記事「非正社員の多い会社 トップ500ランキング」を見ると、26万2,772人の非正規雇用職員のいるイオンを筆頭に、86,490人の非正規雇用職員のいるセブン&アイ・ホールディングスなど、スーパーやコンビニエンスストア関連の企業が上位に入っている。

筆者が食品メーカーを辞めてフードバンクで広報として働いている時、スーパーマーケットの社員の方から伺った話だ。パートとして働いている主婦から、こんな声が聞かれたという。

「仕事では毎日、食べ物を捨てている。それなのに、一歩店の外に出れば、さっきまで捨てていたその食品に今度はお金を払い、買わなければならない」

出典:大手スーパーでパートとして勤める主婦の声

さっきまで、商品だった食べ物を捨てる作業をしていた。食べ物を捨てることでパート代を得ていた。ところが、一歩、店の外に出れば、もう職員ではない。いち主婦として、今度は、わざわざお金を払い、さっきまで山のように捨てていた食品(と同じ、新しい日付のもの)を買わなければならない。

食べ物を捨てることでお金を得て、そのお金で、捨てていた食べ物と同じ、より新しい日付の商品を買う。毎日それを繰り返していて、そこで働く人はどう感じているのだろう。

食品を工業生産すれば、製造ラインが止まるなど、様々な理由で、廃棄をゼロにするのは難しい。全国で大量に販売しようとすれば、需要と供給の差をゼロにするのは困難で、廃棄はまぬがれない。ただ、現代は、その廃棄の量がとてつもなく大きく、そこで働いている人の精神状態にすらダメージを与えているように思える。経済成長と効率化の名のもとに、「働く人がそこで働くことを幸せに感じる」という、大事なものを失ってはいないだろうか。

食品ロス問題ジャーナリスト・博士(栄養学)

奈良女子大学食物学科卒、博士(栄養学/女子栄養大学大学院)、修士(農学/東京大学大学院農学生命科学研究科)。ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11食料支援で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力した。著書に『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てないパン屋の挑戦』他。食品ロスを全国的に注目させたとして食生活ジャーナリスト大賞食文化部門/Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。https://iderumi.theletter.jp/about

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