「仕事で食べ物を捨て、店から出ればさっきまで捨てていた商品に金を払う」スーパーで働くパート主婦の叫び
2018年11月24日付の朝日新聞の「声」(投書)欄に、スーパーマーケットでパートとして働いている50代女性の声が載っていた。
スーパーでは、消費期限や賞味期限の近いものを、商品棚の手前や上に置いている。だが、お客がわざわざ奥から新しいものを引っ張り出すため、期限が迫ったものが隠れてしまい、そのまま売れずに廃棄になってしまうことが多いのだという。
全国で食品ロスの講演をしながら一般の方の声を聴いてみると、「家では、買い物の時に奥から取るよう、親から習った」という人や、「学校の先生から、奥の新しいものを取るように教えられた」という声を聴く。ある都道府県では、教育現場で、新しいものから選んで買うように教えている、と伺った。
筆者が行なったアンケートでも、1,594名中、89%に当たる1,414名が「買い物のとき、奥から新しい日付のものを取ったことがある」と回答している(2017年9月19日〜2018年11月20日までの調査による)。
店頭に残して捨てる分だけ食料品価格は高くなっていることに気づかない消費者
無理してまで、全ての食品を手前から取って買う必要はない。投書した女性も書いている通り、「その日に消費する食品」なら、手前や上から取ればよく、数日かけて消費するのなら、その分だけ残っているのを買えばいい。
怖いのは、「店に古いのを残していけば自分が得する」と信じている消費者だ。
事業者は、捨てるためには廃棄コストを負担する。捨てる食品が多ければ多いほど、廃棄コストは多額になる。その廃棄コストはどこから捻出されるのだろうか。来店するお客が払っていく金から捻出される。廃棄コストを出すことで赤字になっては経営し続けられない。
ある高級食材店で働いたことのある女性に聞いたところ、毎日のように売れ残りを捨てているという。この店は知名度が高く、店名は一種のブランドにもなっている。店頭には、日持ちのしづらい、見た目も綺麗な食品ばかりが並んでいる。捨てるのを見越して高い価格設定がされている。店の経営を続けていくためには当然のことだろう。
メーカーが作った食品を小売(スーパーやコンビニ)が売り、それを消費者が買い、消費者が払ったお金のおかげで、メーカーや小売は商売を続けていくことができている。
「仕事では食べ物を捨て、一歩店から出れば、さっきまで捨てていた食品にお金を払う」
スーパーマーケットの多くは、パートやアルバイトなどの非正規雇用の職員で成り立っている。働く人全体の70%以上を非正規雇用の職員が占める場合も多い。2018年3月27日付、東洋経済オンラインの記事「非正社員の多い会社 トップ500ランキング」を見ると、26万2,772人の非正規雇用職員のいるイオンを筆頭に、86,490人の非正規雇用職員のいるセブン&アイ・ホールディングスなど、スーパーやコンビニエンスストア関連の企業が上位に入っている。
筆者が食品メーカーを辞めてフードバンクで広報として働いている時、スーパーマーケットの社員の方から伺った話だ。パートとして働いている主婦から、こんな声が聞かれたという。
さっきまで、商品だった食べ物を捨てる作業をしていた。食べ物を捨てることでパート代を得ていた。ところが、一歩、店の外に出れば、もう職員ではない。いち主婦として、今度は、わざわざお金を払い、さっきまで山のように捨てていた食品(と同じ、新しい日付のもの)を買わなければならない。
食べ物を捨てることでお金を得て、そのお金で、捨てていた食べ物と同じ、より新しい日付の商品を買う。毎日それを繰り返していて、そこで働く人はどう感じているのだろう。
食品を工業生産すれば、製造ラインが止まるなど、様々な理由で、廃棄をゼロにするのは難しい。全国で大量に販売しようとすれば、需要と供給の差をゼロにするのは困難で、廃棄はまぬがれない。ただ、現代は、その廃棄の量がとてつもなく大きく、そこで働いている人の精神状態にすらダメージを与えているように思える。経済成長と効率化の名のもとに、「働く人がそこで働くことを幸せに感じる」という、大事なものを失ってはいないだろうか。