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専門家が教える「うまくいっている親子関係」とうまくいっていない親子関係の決定的な違い

ひとみしょう哲学者・作家・心理コーチ

世の中の親子関係は2つに大別することができます。すなわち、うまくいっている親子関係とうまくいっていない親子関係です。その違いはどこにあるのでしょうか? それについて本稿は、哲学の視点から考えてみたいと思います。

まず結論

うまくいっている親子関係はうまくいく構造をもっており、反対にうまくいっていない親子関係は、うまくいかない構造をもっている。哲学的にはこういうことが言えるように思います。

構造は〇と×で表すことができます。うまくいく親子は、親子共に〇をもっている。他方、うまくいかない親子関係は、親が〇をもっており、子は×をもっている。あるいは親が×を所持し、子は〇を所持している。

〇か×を持っていることは、例えば夏目漱石の『こころ』に見ることができます。

何をもって生まれてくるのかは選べない

『こころ』は、ひとりの女性をめぐって「先生」と「Kくん」が互いにひそかに葛藤するお話です。その前段として、「先生」は子どもの頃、親戚の女の子を「道具」として叔父に騙されます。つまり、子どもの頃、「先生」は叔父に騙された。後年「先生」は「Kくん」を結果的に騙す立場に立ってしまう。

つまり、ひとりの女性をめぐって、騙される立場から騙す立場へと変化した。これが「先生」の人生の構造です。

つまり「先生」は、騙し騙されるという構造に支配される者としてこの世に生まれた。夏目漱石はそれを「選べないもの」として描いています。「先生」はどんなに注意深く暮らしても叔父に騙され、「Kくん」を騙してしまったと漱石は書いています。

あなたは何をもって生まれてきたのだろう?

同様に、例えば、あなたの親はもしかしたら、血縁関係の薄さという要素をもっているのかもしれない。他方あなたは、血縁関係の濃さという要素をもっているのかもしれない。互いに正反対のものを所持するふたりが仲良く暮らせるのか?

あるいは親は、好きとか嫌いとかに関係なく、身体を動かすことに生きている実感を覚えるといった要素をもってこの世に生まれたのかもしれない。他方あなたは、勉強することに生きる悦びを見いだす要素をもって生まれたのかもしれない。だから親は「大学に行きたいのなら自分でアルバイトしてお金を貯めろ」と言い、子は親の無理解に絶望しているのかもしれない。

人生を支配するもの

私たちの人生は好むと好まざるとにかかわらず、なんらかの構造に支配されているという考え方は、哲学の世界では例えば、メルロー・ポンティが主張しています。その源流にはキルケゴールがいます。

性格の遺伝に関して、科学はそれをある程度解明しているそうです。しかし、漱石が言うレベルにおける構造を、おそらく科学はまだ解明していないし、これからも解明できないように思います。それは、なぜかはわかりませんが、完全に言葉や数字で表せないからです。もし表せるのなら、キルケゴールやメルロー・ポンティの哲学は明快に人生を照らすものとしてすでに、人口に膾炙しているでしょう。

生まれもった目に見えない構造が親子関係を良好なものにしたり、反対にそうではないものにしたりしている可能性があります。私たちにできることは、親やあなたがどのような構造に支配されているのかを知ろうと努めることだけかもしれません。

哲学者・作家・心理コーチ

8歳から「なんか寂しいとは何か」について考えはじめる。独学で哲学することに限界を感じ、42歳で大学の哲学科に入学。キルケゴール哲学に出合い「なんか寂しいとは何か」という問いの答えを発見する。その結果、在学中に哲学エッセイ『自分を愛する方法』『希望を生みだす方法』(ともに玄文社)、小説『鈴虫』が出版された。46歳、特待生&首席で卒業。卒業後、中島義道先生主宰の「哲学塾カント」に入塾。キルケゴールなどの哲学を中島義道先生に、ジャック・ラカンとメルロー=ポンティの思想を福田肇先生に教わる(現在も教わっている)。いくつかの学会に所属。人見アカデミーと人見読解塾を主宰している。

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