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【四国リーグCS 第4戦】「じゃあ、勝つしかねえんだよ」伊藤翔、香川を完封!徳島が年間総合王者に!

高田博史スポーツライター
徳島ISの選手たちがマウンドに集まり、歓喜の輪を作る(写真/高田博史)

2017.10.1 四国アイランドリーグplus 2017 チャンピオンシップ第4戦

香川オリーブガイナーズ(後期優勝) 0-4 徳島インディゴソックス(前期優勝)【レクザムスタジアム】

徳島 000 010 003|4 H5、E1

香川 000 000 000|0 H3、E1

勝 伊藤翔 2勝

敗 原田 1勝1敗

バッテリー

徳島 伊藤翔 ‐ 垂井

香川 原田、リチャードソン、浜田 ‐ 高島

本塁打

香川 

徳島 生田1号ソロ(5回、原田)

 1日、四国アイランドリーグplus チャンピオンシップ(CS)は第4戦を迎えた。徳島インディゴソックス(前期優勝)が香川オリーブガイナーズ(後期優勝)に対し、2勝1敗と王手を掛けている。

 試合は第2戦で勝利投手となった香川OG・原田宥希(高島ベースボールクラブ)と、第1戦で完投勝利を挙げた徳島IS・伊藤翔(横芝敬愛高)両先発の投手戦となる。

 5回表、七番・生田雄也(旭川大)が初球を右翼スタンドにたたき込む1号ソロを放ち、徳島ISがリードする。好投を続ける伊藤の前に、香川OG打線は8回まで散発3安打と打線がつながらず、無得点を続けた。

 7回まで1失点と好投した原田に代え、香川OGベンチは8回にリチャードソン(米独立)、9回に浜田智博(中日育成)を送る。9回表、徳島ISは先頭の一番・橋本球史(城西国際大)が右前安打で出塁すると、一死二三塁のチャンスをつかむ。四番・小林義弘(東洋大中退)の遊ゴロの間に橋本が還り2点目を挙げると、五番・ジェフン(元ヤクルト/韓国)が左翼に豪快な2ランをたたき込み、この回3点を追加した。

 最終回のマウンドに登った伊藤は最後の打者、四番・クリス(稲垣将幸/中央学院大)を空振り三振に切って獲る。徳島ISが4対0で香川OGを下し、3勝1杯でチャンピオンシップを制覇、四国リーグ年間王者の座に就いた。

 大会最優秀選手として徳島ISよりCS2勝を挙げた伊藤翔が、敢闘賞に香川OGより、4戦で二塁打を含む4安打を放つなど好守に貢献した小牧泰士(ジェイプロジェクト)がそれぞれ選ばれている。

 年間王者に輝いた徳島ISは、10月7日より行われる「日本独立リーグ・グランドチャンピオンシップ2017」に四国アイランドリーグplus 代表として出場し、BCリーグ王者と日本一の座を争うことになる。

徳島IS先発・伊藤翔が全力投球を続ける(写真/高田博史)
徳島IS先発・伊藤翔が全力投球を続ける(写真/高田博史)

「じゃあ、勝つしかねえんだよ」

 立ち上がりから伊藤翔は全開だった。

 先頭の岡村瑞希(クラーク記念国際高)を143キロのストレート、1球で中直に打ち獲る。二番・松村翔磨(広島商)へ投げる球のスピードガン表示が143、145、146と1球ごとに上がって行く。

 いつも通り、朝の散歩にも出た。先に行われていた高校野球が延長戦となり、試合開始が20分遅れたが、まったく影響はない。不安要素は特になかった。

「逆にすごく開き直って。僕がきょう負けても、あした(第5戦)があるってプラス思考に考えて、いつも通りやっていこうって。後ろの中継ぎ陣も、結構早い回から準備してたので。出し惜しみすることないな、下手に出し惜しみしていくことないなと思って」

 先頭打者は出さない。カウント3ボールになっても粘る。無駄な四球を与えない。いつもと同じ注意事項を心に留めながら、自分のピッチングを続けた。

 CS第1戦(9月23日、JAバンク徳島スタジアム)で、香川OG打線をたった2安打に封じ込めている。シーズンを通し、対香川OG戦での登板は、アイランドリーグ初登板となった4月3日(前期1回戦、JAバンク徳島スタジアム)以降、3試合すべてで勝ちを収めていた。CS第1戦まで含めれば、4試合で計30回を投げ、2点しか獲られていない。被安打14に対し34個もの三振を奪っている。

 自分は香川OGに負けていない――。その心の余裕は確かにあった。

「いい意味で火がついた。負けられないなって」

5回表、生田の本塁打がチームに力を与えた(写真/高田博史)
5回表、生田の本塁打がチームに力を与えた(写真/高田博史)

 試合が動いたのは5回表である。2人が倒れ、六番DH・生田雄也(旭川大)の前に走者はいない。

「ツーアウトだったので、単打はいらないと思って。フルスイングしました」

 144キロのストレートを一振りではじき返した打球が、高く夜空に舞い上がる。二塁ベースを周ったあと、三塁側ダグアウトに向かって拳を突き出した。

「完ぺきです。気持ちええ! と思って。ベンチに『やってやったぞ!』って」

 生田のソロ本塁打が、流れを大きく徳島ISに傾ける。それは伊藤にも大きな力を与えていた。

「いつもそうなんですけど、味方が点獲ってくれるまで獲られないことを目標にしているので。最初にホームランで点獲ってくれたのは、僕にとってもいい意味で火がついたというか。負けられないなって」

 5回裏、八番・高島優大(徳島野球倶楽部)をストレートで見逃し三振に獲る。香川OG打線をきょう早くも4度目の三者凡退に抑え、前半が終了した。

本当にかけがえのない経験になる

 第3戦(9月30日、レクザムスタジアム)の試合後、養父監督は「勝ちゲームなら大藏(彰人/愛知学院大)の登板もある」と話していた。

 第2戦で8回3分の1を投げ3失点と、試合を作りながら負けが付いた。6日後、第3戦の8回にリリーフとしてマウンドに登り2奪三振、9球で三者凡退に抑えている。あの場面で大藏をマウンドに送ったのは、第5戦にもつれ込んだ場合の先発起用、さらに盤石を期して、第4戦でのリリーフ登板のために悪いイメージを払拭しておく狙いがあった。

 1点リードを守ったまま、8回の攻防が終わる。ここで大藏に代えるのか。だが、伊藤は養父監督に続投を申し出ていた。

「『どうする?』と言われて、しんどかったんですけど『出して下さい』とは言いました。養父さんも『行くぞ!』とは言ってたので。それをふまえて、あとはタルさん(捕手・垂井佑樹(大阪教育大))と話し合えって言われて『行かせて下さい』と言いました」

 9回表、三番手・浜田智博(中日育成)を攻略し、五番・ジェフン(元ヤクルト/韓国)の左越え2ランなどで3点が入る。4点をもらい、9回のマウンドに伊藤が向かった。

 養父監督は、この経験が伊藤にとって貴重なものになると思っていた。

「最後は4点入ったので代えてもいいかなと思ったんですけど、やっぱり人生のなかで、こうやって自分が優勝に貢献できる。彼はまだ若いので、まだ当分先があると思うんですけども、最後までマウンドにいたというのは、本当にかけがえのない経験になる」

 球数は100球を超えたところだが、頭から全開で飛ばしているため疲れが見える。一死から二番・具志堅竜馬(中央学院大)を歩かせたところでタイムを取り、マウンドに向かった。

「ランナーは気にしないでいいよ。1球1球、間隔を開けて投げて行こう」

 タイムが解かれる。三番・三好一生(駒澤大)を見逃し三振に、四番・クリス(稲垣将幸/中央学院大)を外角へのストレートで空振り三振に獲った。

 駆け寄ってきた垂井に飛び付く。三塁側ダグアウトから一斉にチームメートたちが飛び出して来る。マウンドに歓喜の輪が広がった。

「優勝しないと誰も話、聞いてくれないぞ」

 CSを前に、養父監督はレギュラーの1人である橋本球史(城西国際大)と2人で食事をする機会を設けている。昨年、年間2位で出場したCSには、愛媛マンダリンパイレーツの前に0勝3敗で敗れていた。

「どうなんだ。やっぱり優勝したいって思ってんの?」と尋ねると「絶対、優勝したいです」と答える。チームリーダーである球史が、そう言ってくれた。

 四国王者の座を確実に獲りに行く。第1戦を前に、全員の前でこう告げている。

「ホントに優勝しないと誰も話、聞いてくれないぞ。優勝したらいい思い出にもなるし、自分にとってプラス材料しかないじゃん。負けたら、ああ、また負けちゃったなって。去年負けてんだろ? めちゃ悔しいと思うよ。じゃあ、勝つしかねえんだよ」

就任1年目で四国を制覇し、養父監督が宙に舞う(写真/高田博史)
就任1年目で四国を制覇し、養父監督が宙に舞う(写真/高田博史)

 養父監督自身、初めて「監督」という立場で迎えるシーズンだった。「プロ野球」と言ってもNPBとは違う。米国の独立リーグなら所属していた経験もあるからイメージは分かるが、日本の独立リーグは初めてだ。決して経験が豊富にあるとは言えないなか、ここまで選手たちを育て上げている。

「僕が考えてること、やって来ていることは間違いじゃないなって、あらためて認識もできましたし。こういうふうにみんなを盛り上げていくっていう。監督の役目としては物足りないかもしれないけれども、みんなが成長してくれたことが、僕は良かったなと。僕自身もすごくいい経験になりましたし」

 常に「挑戦者の気持ちで」と言い続けてきた。口に出せない苦労はたくさんある。だが、本当に勝てたことで、ここまでやって来たことは間違いじゃなかったんじゃないか。少しそう思ったと言う。

「まだ、全部終わってないからアレなんですけど……」

 そう、まだ終わっていない。2017年の四国王者として臨む、独立リーグ日本一への挑戦が待っている。

スポーツライター

たかた・ひろふみ/1969年生まれ。徳島県出身。プロ野球独立リーグ、高校野球、ソフトボールなどを取材しながら専門誌、スポーツ紙などに原稿を寄稿している。四国アイランドリーグplus は2005年の開幕年より現場にて取材。「現場取材がすべて」をモットーに四国内を駆け回っている。

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