なぜ「地球の酸素20%供給」のアマゾン熱帯林が焼き尽くされているのか-日本もアマゾン破壊に関与
「私達の家が燃えている」-ブラジルを中心に南米のアマゾン熱帯雨林で大規模な火災が同時多発、観測史上最悪の規模となっていることについて、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はツイッターに投稿。今月24日から26日までフランスで開催されたG7(主要7カ国首脳会議)でも最重要テーマとして各国首脳が対応を協議した。地球で最大の熱帯雨林であるアマゾン熱帯雨林は「大気中の酸素の20%を供給」「地球の肺」と言われ、また全世界の生物種の約1割が生息する生物多様性の宝庫とされている。900~1,400億トンという膨大な炭素を固定しているアマゾン熱帯雨林の破壊は、既に深刻な地球温暖化の進行をさらに加速させることにもなる。マクロン大統領が「国際的危機」と強調するように、アマゾン熱帯雨林の危機は日本とも無関係ではない。今回の史上最悪の森林火災の原因は何か、日本は何をすべきなのか。南米の環境問題に詳しいエコロジストの印鑰智哉さんにお話を聞いた。
○史上最悪の大規模火災、原因は「ブラジルのトランプ」
アマゾン熱帯雨林での観測史上最悪の大規模火災は、国境を超えた危機的な状況として世界の人々の関心を集めている。映画『タイタニック』の主演で知られる俳優のレオナルド・ディカプリオさん、「史上最高のサッカー選手」と呼ばれるクリスティアーノ・ロナウドさん、人気歌手のアリアナ・グランデさん、カミラ・カベロさんらもアマゾン熱帯雨林での大規模火災に悲しみや怒りを表明。世界的な自然保護団体「WWF(世界自然保護基金)」も、「670万平方キロの熱帯雨林」「17~20%の水資源」「世界の生物多様性の10%」「20%の世界の酸素」「3400万人以上の生活」がアマゾン火災によって失われているとツイッターで警鐘を鳴らした。
ブラジル国立宇宙研究所(INPE)の人工衛星での観測によると、同国では今年1月から今月21日まで7万5000件以上の森林火災が発生。2013年の観測開始以降で最大を記録したという。アマゾンでは、7月から10月の乾季にかけ森林火災が起きやすいのではあるが、南米の環境問題に詳しいエコロジストの印鑰智哉さんは「むしろ、これはボルソナロ政権による環境犯罪だと言えるでしょう」と強調する。「ブラジルのトランプ」とも呼ばれるジャイル・ボルソナロ大統領は、アマゾン熱帯雨林や、その中にある先住民族保護区域の開発を公言してきた。そのボルソナロ大統領が今年1月に就任してから状況が大きく変わったというのだ。
「ブラジルでは、アマゾンの原生林を直接、農地に転換することは法律によって大きく制限されています。その法律、森林法は近年、大幅に緩和されてしまったのですが、それでも原生林を直接破壊することは犯罪行為となります。しかし、火災などで燃えてしまったあとの土地は規制の対象外なのです。そのため、牛肉のための牧草地や大豆畑のために土地を使いたい業者達や大地主達が原生林に火を放つことが横行しているのです。無論、原生林に火を放つことも、ブラジルでは違法であり、厳しい罰則が課せられますが、ボルソナロ政権は、取締まりを担当するブラジル環境省の機関IBAMAの予算を大きく削減したのです。そのため、ただでさえ困難であった取締まり活動が一層、困難なものとなりました。ボルソナロ政権下であれば罰せられることがないと判断した業者達や地主が人を雇って火をつけさせ、環境団体やアマゾンで暮らす先住民族達が通報しても当局が動かない。その結果、かつてない規模での森林火災に拡がってしまっているというのが現状でしょう」(印鑰さん)。
今回の大規模森林火災について、ボルソナロ大統領は「環境NGOが森に火をつけた」と主張しているが、その根拠は示していない。これに対し、約118団体の現地NGOが連名で抗議。その抗議文の中で、印鑰さんが述べたボルソナロ政権による政策の問題も、火災の原因としてあげられている。また、国際署名サイト「AVAAZ」では、ブラジル政府にアマゾン破壊をやめるように求める署名*が開始され、既に231万人以上の人々が賛同している。
*ブラジル政府、壊滅的なアマゾン破壊に終止符を!
https://secure.avaaz.org/campaign/jp/amazon_apocalypse_loc/
○アマゾン破壊に日本も関与
アマゾン熱帯雨林での大規模森林火災はフランスでのG7の最重要テーマとされ、世界の主要メディアが連日トップニュースで報じているにもかかわらず、日本のメディアでの扱いは小さい。だが、アマゾン熱帯雨林の破壊のルーツは日本の開発支援にある上、今後もアマゾンの破壊に日本が関与する恐れがあると、印鑰さんは指摘する。
「1974年、日本のJICA(独立行政法人国際協力機構)が作成したものであり、日本の融資によるアマゾン開発が、大カラジャス計画でした。巨大鉄鉱山の開発を中心に、これに伴う鉄道や道路網、ダム開発、アルミ工場建設、林業・農業生産のための入植などを含む巨大なものであり、環境や社会開発の視点を欠いた計画でした。例えば、世界最大規模のダムの一つであるトゥクルイダムが大カラジャス計画によって建設されましたが、それにより広大な面積の森林が水没しました」(同)。
トゥクルイダムによる水没面積は約2000平方キロ、東京23区の約3倍もの面積におよんだという。やはり日本が主導して行ったアマゾンの水源である高地セラードの開発も、熱帯雨林破壊につながってしまっている。
「セラードは、ブラジル中央部にある広大なサバンナ地帯で、アマゾンほか南米大陸の水源地です。1977年から1999年にかけ、JICAによるセラード開発『日伯セラード農業開発協力事業』がすすめられ、同事業はブラジルを世界有数の大豆生産国に押し上げました。その実績をJICAは『ブラジルの緑の革命』『不毛の大地を穀倉地に変えた奇跡』と自画自賛しており、確かに一時的な経済効果という点では大きな成功だったとは言えますが、その一方で、独自の進化を遂げ、世界で最も豊かなサバンナ地帯といわれるセラードの生態系が危機にさらされています。さらに、セラードで大豆畑の生産が行われることにより、そこから追い出された牛の牧畜がアマゾンで行われるようになり、熱帯雨林の破壊が進行するという弊害も生まれています。セラードの水の枯渇も深刻です。8割もの木々が伐採され、大豆を育てるために川や地下水から大量の水をくみ上げているからです。これは、アマゾンの乾燥化の原因の一つとなっており、今後、地球温暖化の進行も相まって、アマゾン熱帯雨林への深刻なダメージを与えることになりかねません」(同)。
現在、日本政府は、頭文字をとってMATOPIBA(マトピバ)と呼ばれるブラジル4州での開発プロジェクトを推進しており、アマゾンと接しているセラード地域で、日本の面積の2倍もの広大な面積での農業開発を行おうとしているのだ。印鑰さんは「これ以上のセラードやアマゾンが破壊されるなら、それは人類の生存をさらに困難にするでしょう」と危機感を募らせる。
○アマゾン破壊を止める意志を示そう
アマゾン熱帯雨林の危機は地球規模の問題であり、本稿で述べたように日本の動向も深く関わっている。日本のメディアが今回の大規模森林火災を黙殺するか、扱っても小さいものだったのに対し、モデルのローラさんやお笑いタレントのブルゾンちえみさんがSNSでいち早く危機への警鐘を鳴らした。日本のメディア関係者らは、自身の不見識を恥じるべきであるし、「公器」としての自身の責任・役割を果たすべきだろう。
また、日本政府も、これまでアマゾンやセラードの破壊に加担してきたことを直視し、ボルソナロ政権との経済協力も見直すべきではないか。フランスはブラジルを自由貿易協定からの除外を警告、ドイツも賛同、EUでのブラジル農産物の拒否も検討されている。「そうした中、日本政府の対応が問われている」と印鑰さんは言う。日本がボルソナロ政権に甘いスタンスをとるならば、日本に対する批判も避けられないだろう。「ブラジルの人々も大多数がアマゾンが守られることを望んでいます」(印鑰さん)。「地球の肺」「生物多様性の宝庫」であるアマゾンを国際社会全体として守っていくことが重要なのだ。
(了)