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「利用者激減騒動」から8カ月の特急すずらん号 停車駅無人化でえきねっと予約の特急券、受け取れない現実

鉄道乗蔵鉄道ライター
789系電車でも運行される特急すずらん号(写真AC)

 2024年3月のダイヤ改正で、全席指定席化と窓口での往復割引切符の廃止を行った札幌―室蘭間を結ぶ特急すずらん号。ダイヤ改正以降は、この影響で利用者が激減し、空席の目立つ車内の様子が相次いでSNS上に投稿され、大きな注目を集めた。筆者はこのダイヤ改正から8カ月余りが経過した11月下旬、札幌―室蘭間で特急すずらん号を乗り通したが、空席の目立つ車内の様子は変わらなかった。この様子については筆者の記事(札幌―室蘭結ぶ「特急すずらん」 ダイヤ改正で「利用者激減騒動」から8ヵ月の現状は…室蘭駅は無人駅に)でも触れている。

登別・室蘭の市街地はこまめに停車

特急すずらん号の停車駅のひとつの鷲別駅。周辺は住宅密集地で室蘭工業大学の最寄り駅でもある(筆者撮影)
特急すずらん号の停車駅のひとつの鷲別駅。周辺は住宅密集地で室蘭工業大学の最寄り駅でもある(筆者撮影)

 特急すずらん号の利点については、車両が快適で停車駅が多いことにある。札幌―東室蘭間では、特急北斗号の途中停車駅が新札幌、南千歳、苫小牧、白老、登別(一部列車を除く)であるのに対して、特急すずらん号は新札幌、千歳、南千歳、沼ノ端、苫小牧、白老、登別に停車し、幌別から先の区間は鷲別駅、東室蘭駅を含めて終点の室蘭駅まで各駅に停車する。これは、登別市の中心市街地がある幌別駅から、室蘭駅までは市街地が連続していることから沿線住民の利便性に配慮した結果であると思われる。

 登別市内や室蘭市内の停車駅が増えることで、本来であれば、沿線住民に対する利便性が向上し、こうした地域から札幌方面に向かう利用者の需要が掘り起こされてもおかしくないはずであるが、そうはなっていないのが現状だ。

 北海道の室蘭登別エリアを拠点に活動するフリーライターの日下部千里さんによると「自由席がなくなり予約が煩雑になったことや、えきねっと割引でも高速バスと比較して割高になった」ことから、JRに乗りたくてもやむなく高速バスを利用せざるを得ない現状があるという。料金面では、ネット予約なしに当日乗ると東室蘭―札幌間では乗車券と特急券で片道5,220円かかるが、高速バスであれば片道2,500円で利用できるうえ、室蘭市内ではこまめに停留所が設置されている。

 なお、JRのえきねっと割引では、前日までに予約できる特急トクだ値1であれば3,380円、14日前までに予約できる特急トクだ値14であれば2,860円となる。

特急券が買えない特急停車駅・鷲別

窓口が閉鎖された鷲別駅待合室(写真:Mister0124 CC BY-SA 4.0)
窓口が閉鎖された鷲別駅待合室(写真:Mister0124 CC BY-SA 4.0)

 室蘭市内については、終点の室蘭駅周辺は官公庁エリアとなっている一方で、街の中心は東室蘭駅周辺に移っており、東室蘭駅から徒歩圏内にはスターバックスコーヒーなどの大手チェーン店も出店している。また、隣の鷲別駅周辺には新興住宅地が広がっており、駅前にはスーパーがあるほか、室蘭工業大学への最寄り駅ともなっている。

 こうしたことなどから、鷲別駅から札幌方面への特急列車によるビジネス需要も一定数存在するはずであるが、鷲別駅は無人駅となっており、駅に設置された簡易型の券売機では特急券を購入することができない。

 えきねっと予約した北海道内の在来線特急はネットのみの販売に完結しておらず、駅窓口や指定席券売機で紙のきっぷに引き換えなければ列車に乗車することはできないが、鷲別駅は特急停車駅であるにもかかわらずえきねっと予約したきっぷの引き換えができないのである。鷲別駅は2015年に無人化され窓口が閉鎖されている。この点は、無人駅となっても、えきねっと予約のきっぷの引き換えに対応した券売機が置かれている室蘭駅とは異なっている。

 こうした状況があることから筆者は、鷲別駅からえきねっと予約で特急すずらん号によく乗るという市内在住の男性に話を聞いたところ、「鷲別駅から札幌方面へのえきねっと割引の設定がないので、東室蘭―札幌間で切符を前もって予約し、クルマで東室蘭駅まで切符を取りに行ってから、後日、鷲別駅から乗車するようにしている」ということだった。なお、鷲別―札幌間で特急すずらん号を利用する場合は、当日利用の金額で東室蘭駅と同額の5,220円となるが、鷲別駅では特急券が買えないことから、車内で精算する必要が生じる。

空席が目立つ状況はいまだ変わらず

 筆者が先日の土曜日に鷲別駅に立ち寄った際には、ちょうど16時46分に発車する札幌行の特急すずらん9号を目にすることができたが、パッと見たところ各車両数名程度の乗車状況で、かなりの空席が目立つ状況で札幌方面に発車していった。

 業務の省力化を考えれば、駅の無人化が全て悪というわけではないが、地域の人が特急すずらん号を利用しやすくするためには、現状の全席指定席での運行が続く限りでは、少なくても特急停車駅では、指定席券売機などの導入でえきねっと予約のきっぷを受け取れるようにするか、ネットのみで完結できるきっぷ販売のシステムを構築できなければ客足は遠のくばかりではないだろうか。

 鷲別駅周辺のように、ある程度人口のあるエリアで乗客を取り逃しているこの状況は、サービスの価格面と販売面で乗客ニーズとミスマッチを起こしている可能性が非常に高く、一日も早い改善が望まれる。

(了)

鉄道ライター

鉄道に乗りすぎて頭の中が時刻表になりました。日本の鉄道全路線の乗りつぶしに挑戦中です。学生時代はお金がなかったので青春18きっぷで日本列島縦断修行をしてましたが、社会人になってからは新幹線で日本列島縦断修行ができるようになりました。ステッカーやTシャツなど鉄道乗蔵グッズを作りました。

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