人口8,000人の町で行列を作り続ける 骨と水だけで仕込む超濃厚豚骨ラーメンとは?
人口およそ8,000人の町で行列を作るラーメン店
福岡県八女市立花町。福岡市内から車で一時間、人口8,000人ほどの小さな町の国道沿いに、市内外はもちろん九州や全国各地からも連日多くの客が訪れる店がある。店の名前は『あなたの心を鷲掴み(わしづかみ)』(福岡県八女市立花町原島129-1)。常連客はこの店のことを「アナワシ」と呼ぶ。
厨房に鎮座する3基の羽釜には、はみ出すほどに大量の豚骨が入れられている。数々の豚骨ラーメン店が集まる福岡や九州はもちろんのこと、全国でも屈指の濃度を誇る豚骨スープ。「アナワシ」の唯一無二の超濃厚ラーメンを求めて、人は全国から遠路はるばるこの小さな町までやって来るのだ。
「骨の美味しさを出したい一心でここまで来た」
「僕は濃いラーメンを作りたいわけではないんです。骨の美味しさを出したい一心でここまで来ました」
『あなたの心を鷲掴み』店主の三浦隆寛さんは宮崎で生まれ育った。大学進学のために福岡で一人暮らしを始めた三浦さんは、賄いが出るという理由だけでラーメン店へアルバイトに入った。
「バイト仲間には負けないぞ、という気持ちで働いていると評価されて、さらに色々と仕事を任せてもらえるようになりました。自分が頑張った分だけ結果に繋がる仕事にとても魅力を感じたんです」
ストレートに骨の美味しさを味わって欲しい
ラーメンを一生の仕事にすると決めた三浦さんは、すぐに大学を辞めてバイト先のラーメン店に就職した。独立を目指して日々の修業や勉強のための食べ歩きを重ねる中で、三浦さんは醤油ダレの塩分やラードなどの油分に頼る従来の豚骨ラーメンの作り方に疑問を感じた。
塩分や油分ではなく、豚骨そのものが持つ「骨味」を感じられるスープを作りたい。ストレートに骨の美味しさを味わって欲しい。その一心でスープと向き合っていった結果、日に日に羽釜に入れる豚骨の量は増え、丼一杯あたり約1キロの豚骨を使うまでになった。こうして化学調味料や油を使わない、超濃厚な「アナワシ」オリジナルのラーメンは生まれたのだ。
骨を足し続けて作る超濃厚スープ
高火力のバーナーでグラグラと炊き続けられる羽釜には、三浦さんの長年の経験からくるタイミングで、さらに豚骨が次々と投入されていく。白濁を超えた茶褐色の豚骨スープは、濃厚ながらも臭みはなくしつこさもない。まさに骨の味が感じられるスープになっている。
「骨の旨味を強くしたいので骨を足し続けていこうと。そうすると臭みやエグミが出るので火力を強くして一気に飛ばそうと。僕はけっして濃いラーメンを作りたかったわけではなく、もっと骨の味を出すにはどうしたら良いかと、色々試行錯誤した結果、こういう作り方になったんです」
唯一無二の豚骨ラーメン「鷲掴みとんこつ」
看板メニューの一杯「鷲掴みとんこつ」は、博多ラーメンでも久留米ラーメンでもない、まさにアナワシのラーメン。使用する豚骨は丼一杯あたり約1キロ。骨を継ぎ足す「呼び戻し」製法で作られる濃厚スープは、3基ある羽釜のうち営業用の釜に骨を継ぎ足していくことで、さらにフレッシュな旨味も加える。
スープに合わせて作られた自家製麺は、うどん専用粉や全粒粉など数種類をブレンドした多加水麺で、中太でツルッともちっとした食感。化学調味料やラードなどの油に頼らず、豚骨だけを強火で炊き上げた超濃厚スープをストレートに味わえる一杯。スープの濃度は3段階から選ぶことが出来る。
次は博多ラーメンと勝負したい
言うまでもなくラーメン店は商売、ビジネスであり、継続するためには利益や効率をある程度重視するのは当然のこと。しかし三浦さんが作るラーメンは採算度外視かつ非効率で、正直商売としてはけっして賢いとは思えない。それでもこうして成立しているのは、三浦さんと共に働くお母様と妹さんの支えがあってこそだろう。
2013年に地元宮崎で『とんこつラーメン天頂』を創業。2018年に心機一転、屋号も『あなたの心を鷲掴み』と改め、福岡県八女市の立花町に移転した。小さな町ながらも少しずつ少しずつ客足が増え、今では営業時間中ずっと行列が出来る人気店となった。そんな三浦さんの次の野望は、ズバリ「博多進出」だ。
「自分ではホップステップまで来てジャンプの手前だと思っています。この店は大事にしつつも、次は博多で勝負をしたい。この味は僕しか作れませんが、博多では新しいラーメンを作って弟子を育てて、いずれは独立して自分の味を出して欲しいと思っています」
※写真は筆者によるものです。
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