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フィンランド、ポーランド、ベラルーシ ー政治の表舞台に立つ女性たち

小林恭子ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 「メディア展望」(新聞通信調査会発行)1月号掲載の筆者記事に補足しました。

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 BBCテレビで、日曜朝の政治番組「アンドリュー・マー・ショー」というのがある(英国内でのみ、視聴可能)。

 これを見ると、その時の政治議題がよくわかる優れた番組なのだが、1月31日放送分を視聴し、あることに気づいた。

 BBCは報道番組の出演者の少なくとも半分を女性にする運動を続けており、ほかのテレビ局も同様の動きをしている。これもあって、テレビでニュースを見ると、女性の比率が高くなっている。

 31 日放送分で、この点に改めて気づいた。メインの司会者が番組名にもなっているアンドリュー・マー氏(男性)だが、ゲスト及び短いニュースを読む人がすべて女性だった。

 「ここまで女性にすることがあるのかな」、と思ったが、今や「女性を表に出すこと」が英報道界でトレンドになっていることを示す例だった。

 欧州に目をやると、女性が政治のトップに着任する例が目に付くようになった。ことさら注目すること自体、まだ男女の比率が十分ではないことを示すのだろう。

 それでも、どんなことなのか、「過渡期」の状況として、記してみたい。

 フィンランドで最年少の女性首相

 2019年末、フィンランドではサンナ・マリン首相を筆頭に閣僚の大部分が女性の政権が誕生した。連立内閣を構成する5党の党首全員が女性である。

 彼女たちが並んだ写真と男性ばかりの日本の自民党幹部が横並びになってこぶしを合わせる写真がソーシャルメディアで拡散されると、日本では女性による政治参画が少ないと嘆く声が出た。菅政権の女性閣僚は2人だが、マリン政権は19人の閣僚中11人が女性だ。

 フィンランドは女性の政治参画では世界の先陣を切る。1906年、世界で初めて女性に普通被選挙権を与えた。2000年には同国初の女性大統領が生まれ、03年には初の女性首相が誕生。マリン氏はフィンランドでは3番目の女性首相で、同国史上最年少(34歳)で現職に就いた。

 昨年3月、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、マリン政権は第2次世界大戦以来使われてこなかった国家緊急事態法を発動した。感染者数・死者数は他国と比較してかなり少ない。フィンランドは感染防止に成功したとされる台湾、ドイツ、ニュージーランドと同列で語られ、女性政治家がトップにいたことが勝因だったと言われた(女性であったことは関係ないという見方もある)。

 マリン氏は「女性の指導者だから成功したとは思わない」という(BBCニュース、11月24日)。「科学者の発言に耳を傾け、思い切って政策を実行することを学んだ」と述べている。

 米国に端を発した反人種差別運動「ブラック・ライブズ・マター」の波はフィンランドにも押し寄せた。改めて浮き彫りになったのが政治の多様性が十分に実現されていないことだ。

 現在、黒人の国会議員は一人だけ。欧州評議会の調査(昨年)によると、フィンランドに住むアフリカ系市民の63%が人種差別的扱いを受けたという。

 「女性閣僚5人が並ぶ」写真は日本の自民党幹部の写真との比較では賞賛の対象になったが、「高等教育を受けた、白人女性たちの顔」は「社会全体を代表していることにはならない」とフィンランドの野党議員らは指摘している。

ポーランドで中絶禁止法反対デモ

 旧東欧のいくつかの国で、女性たちが新たな政治の潮流を担う。

 昨年10月末から数週間にわたって、ポーランドでは人工妊娠中絶の要件を厳しくする憲法裁判所の判断に抗議するデモが相次いだ。

 「この政府を中断させたい」、「女性にとっての地獄だ」、「これこそが戦争だ」。このような文句が書かれたプラカードを持った女性たちが首都ワルシャワ、グダンスク、クラクフなど各地でデモに参加した。

 人工中絶はローマ・カトリック教会でタブーとされており、人口の約88%がカトリック教徒のポーランドでは母体に危険が及ぶと判断された場合や女性がレイプ被害に遭ったと証明できるケースなど中絶手術の要件を厳しく設定している。

 一昨年、カトリックの価値観を重視する保守政党の与党「法と正義」(PiS)の議員らが胎児の先天性異常を理由とした中絶は違憲だとして提訴した。憲法裁判所の裁判官の多くが与党の指名で就任している。

 昨年10月22日、憲法裁判所が議員らの訴えを認め、ポーランドでは人工妊娠中絶がほぼ全面的に禁止される見込みが出た。

 ポーランドの中絶手術の件数は約1000件(2018年)だが、女性団体などは年間8万人から12万人が非合法にあるいは海外で中絶手術を受けたと推定する。

 抗議活動の広がりを受けて、ポーランド政府は11月3日、憲法裁判所の判決の公布延期を発表したが、現行の法律下でさえ人口中絶に厳しい要件がつくことは変わらない。それでも、抗議デモが憲法裁判所の判断公布を一時的にせよ止めたことになる。

 「男性優位の文化、男性優位の国家、原理主義的な宗教国家、女性を非常に不当に扱う国に対する反発だ」とデモを主導した運動組織「全ポーランド人女性たちのストライキ」の指導者マルタ・レムパート氏は語っている(ガーディアン紙、11月6日付)。

ベラルーシでは

 ベラルーシでは8月に行われた大統領選挙が不正だったとして、ルカシェンコ大統領の辞任を求める市民たちの抗議活動が発生した。

 反政府運動を主導したのは大統領選に出馬したスベトラーナ・チハノフスカヤ氏のほかにマリア・コレスニコワ氏、ベロニカ・ツィプカロ氏の3人の女性たちだった。チハノフスカヤ氏は出馬を予定していた夫のセルゲイ・チハノフスキー氏が治安当局に逮捕されたため、政治経験はなかったが代わりに大統領選に立候補した。

モルドバでも

 一方、11月には旧ソ連国モルドバで、欧州派の野党「行動と連帯」のマイア・サンドゥ党首が初当選。モルドバで女性が大統領に就任するのは初めてだ。

 英フィナンシャル・タイムズ紙のトニー・バーバー記者はポーランド、ベラルーシ、モルドバなど「独裁主義的、非リベラル、不正統治が行われている」旧東欧圏の国で「女性の指導者や活動家が政治に変化を起こす原動力」となっていると指摘する(同紙、11月19日付)。

 その要因の1つとして、東欧革命に続く1990年代以降に発生した「社会的な価値観の変化や文化の近代化」に「高齢の独裁者や私的な徒党を組む政治家たちが追いつくことに失敗した」点を挙げる。

 また、「汚職のまん延、無能な政府、党派心、法の支配の乱用」も要因だ。こうした点が女性政治家・指導者の利となるという。その理由は、女性たちは多くの場合「男性中心の政治、ビジネス及び宗教上の支配層の外側に位置している」ため、「汚れていない」からだという。

 政権の汚職が有利に働いたのがモルドバのサンドゥ氏の例だ。同氏は新参の政治家ではなく、2016年の大統領選に立候補した経験もある。また、2019年には短期間だが首相でもあった。今回の大統領選では汚職を政治から撲滅し、司法制度を改革すると訴えて、当選した。

 バーバー記者は、サンドゥ氏の姿が2019年にスロバキアで女性としては初の大統領に就任したズザナ・チャプトバ氏に重なる、という。元弁護士のチャプトバ氏が本格的に政治参加したのは2017年からだが、環境保護や汚職廃絶を訴えて勝利した。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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