Yahoo!ニュース

ユーヴェ、ディバラ放出は得策? ルカクとのトレードに賛否 「アンタッチャブル」「今のうちに…」

中村大晃カルチョ・ライター
2月24日、セリエAボローニャ戦でのディバラ。ルカクとのトレードに注目(写真:ロイター/アフロ)

最初にニュースが報じられた時は、インテルに対するユヴェントスの嫌がらせとも言われた。マンチェスター・ユナイテッドFWロメル・ルカクへの関心のことだ。

ベルギー代表ストライカーは、インテルのアントニオ・コンテ新監督が熱望した人材だ。だが、移籍金の折り合いがつかず、インテルとユナイテッドの交渉は難航していた。そこに浮上したのが、ユーヴェのルカクへの関心だ。だからこそ、嫌がらせと言われた。

それは、イタリア王者にはセンターフォワードがそろっていたからでもある。マリオ・マンジュキッチやモイゼ・ケーン、レンタルから戻ったゴンサロ・イグアイン。さらに、マウリツィオ・サッリ新監督は、パウロ・ディバラの偽9番起用も構想にあることを示唆していた。

だが徐々に、「ユーヴェは本気」との情報が出回る。そして浮上したのが、ディバラとのトレードだ。伝統の背番号10を纏うファンタジスタを手放し、フィジカルやスピードを武器に存在感を放つ屈強な9番を手に入れるというのである。

報道ベースで、話はとんとん拍子に進んでいった。イタリアの主要メディアは、ルカクとディバラの互いのクラブからの評価額に大差はないと報道。一部では両クラブの合意も報じられた。ルカクはイタリア移籍を望んでいるとされ、カギは残留を希望していたディバラと言われている。

ただ、多くのユヴェントス・サポーターは思ったことだろう。ディバラを見切ってまで、ルカクを獲得する必要はあるのか、と。

◆ファンから残留願う声

昨季のクリスティアーノ・ロナウド加入で、ディバラが最も割を食うかたちになったのは確かだ。2015年の加入以降の数字(『Transfermarkt』参照)を見れば明らかだろう。試合数(46→48→46→42)は若干減だが、得点やアシスト、1得点あたりに要した時間は、昨季だけ大差がついている。

筆者作成、データは『Transfermarkt』参照
筆者作成、データは『Transfermarkt』参照

だが、甘いマスクや創造性あふれるスタイルで人気を誇るディバラだけに、復活を望む声は少なくない。C・ロナウドとの最適解が見つかれば、強力な武器となるだけになおさらだ。サッリがディバラを高く評価したことで、その期待はさらに高まった。

そんな中でのトレード話だ。一部のユーヴェ・ファンは、SNSでディバラ支持の声を上げた。「ディバラはアンタッチャブル」がトレンドとなり、様々な言い方で背番号10の残留をクラブに求めている。

「彼のカラーは白黒だけ」

「騎士は決して自分の婦人を見捨てない」

「俺たちの10番であり続けるのにふさわしい」

「蝶と象を交換するのか。意味が分からない」

「こんな風に彼を手放してはいけない。今じゃない」

「みんなで一緒に(ディバラはアンタッチャブルと)叫ぼうぜ」

「スタジアムでディバラを見ていないなら、この選手のことを語れない」

「カンピオーネを残すことを学ぶ必要がある。後悔しても取り戻せない」

「まだやるべきことはたくさんあるが、彼の代わりになれる選手はいない」

◆「世界でも稀有な存在」だが…

ファンだけではない。メディアからも、トレードを進めるユーヴェを疑問視する声が出ている。

ファブリツィオ・ボッカ記者は、『レプッブリカ』で「ディバラのような選手の放出をサッリがどうしてこれほど簡単に受け入れたのか分からない」と記した。C・ロナウド加入で苦しんだこと、気質に弱さがあるかもしれないことを認めたうえで、「タレントであることに変わりはない」と指摘している。

「監督は(ディバラが輝ける)解決策を見つけられるはずだし、見つけなければいけないはずだ」

マリオ・スコンチェルティ記者は、『Calciomercato.com』の動画で「ディバラを売るのは良いビジネスじゃない」とコメント。その得点力やスタイルはまねできるものではないとし、「ディバラがいないユーヴェは別のユーヴェ」「彼を外せば明確な優位が部分的に失われる」と訴えた。

「今、こういう類の選手は世界でも数少ない」と、ディバラを絶賛する同記者は、「そういう選手を売るのは、進歩にならない」と主張。財政的理由で売却の必要があっても、ロドリゴ・ベンタンクールやイグアイン、マンジュキッチ、フェデリコ・ベルナルデスキなど、他選手を売るべきとしている。

もちろん、ユヴェントスとしては、ディバラを売るほうがカネになる。だが、スコンチェルティ記者はそれを承知のうえで「それがアドバンテージとは言わないでくれ」と続けた。

◆昨季の二の舞を回避すべき?

一方で、ディバラにはC・ロナウドのような大一番での強さがなく、ルカクとのトレードは妙案と主張する者もいる。

マルチェッロ・キリコ記者は『Calciomercato.com』で「自分が偉大な選手と思うなら、システムや監督に与えられたポジションに関係なく、力を出せるはずだ。そうでなければ、トップカテゴリーではない」と、ディバラを批判した。

ディバラは偉大なタレントだが、必要な時にいつも違いをつくれる選手ではない

同記者は「気迫に欠け、感情面で非常にもろく、あまり批判を受け入れようとせず、思うようにいかないとすぐに落ち込む傾向にある」と、手厳しい見解を続けている。

「再び輝きのないシーズンとなり、評価額が下がるリスクを負うよりも、今、まだ興味深い金額のうちに売るほうが良い

◆FW市場に影響を及ぼす決断

8月1日にバカンスからトリノに戻ったディバラだが、予定されていた指揮官との面談は、後日に先延ばしとなったようだ。5日まで練習しないことでクラブと合意したとの報道もある。まずは、2日にもあると言われるサッリとの話し合いが待たれる。

ディバラとルカクのトレードは、実現してもしなくても、ほかの大物ストライカーに影響を及ぼす。インテルで構想外となっているマウロ・イカルディが筆頭だ。インテルがここに来て、再びディバラとイカルディのトレードを画策しているとも噂されている。

さらには、そのインテルが狙うローマのエディン・ジェコ、そしてローマが獲得を望むイグアイン…彼らの将来も、ディバラとルカクの去就で変わってくるかもしれない。

アルゼンチンからイタリアに渡って7年。数々の美技でユヴェントスとセリエAのファンを沸かせてきた「宝石」(ディバラの愛称)の決断に注目だ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

中村大晃の最近の記事