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なぜインテルは伝説の名将も感動させた? シティ戦は「CLで主役になれる」と証明?

中村大晃カルチョ・ライター
9月18日、CLマンチェスター・シティ戦でMOMに選ばれたインテルMFバレッラ(写真:ロイター/アフロ)

イスタンブールでの奮闘は、フロックではなかった。そう感じた者も少なくないのではなかろうか。

2022-23シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)決勝で、インテルは圧倒的に不利とみられていた。ジョゼップ・グアルディオラ監督率いるマンチェスター・シティとの対戦だったからだ。実際、インテルは0-1で敗れ、シティに歴史的な3冠達成を許している。

だが、インテルはトルコの地で下馬評を覆す強さを披露した。そして昨季はセリエAを見事に支配。通算20回目のスクデット獲得(優勝)を達成した。評価はさらに高まっている。もはや、欧州有数の強豪と呼ぶにふさわしい存在だ。

それでも、新しくなったチャンピオンズリーグ(CL)の開幕戦で、インテルは苦戦も予想された。シティはプレミアリーグで唯一の開幕4連勝を達成。一方、インテルはセリエAで2勝2分けと、ロケットスタートできなかった。しかも舞台はエティハド・スタジアム。おまけにフェデリコ・ディマルコをケガで欠き、主将ラウタロ・マルティネスは調子が万全ではない。

実際、インテルは何度もピンチを迎えた。だが同時に、カウンターからチャンスも創出。再び、勝っていてもおかしくない好ゲームを繰り広げた。両チームの良さが随所に見られた一戦は、シモーネ・インザーギ監督のチームに対する評価をさらに高めている。

■御大が称賛した勇気

得点はなかった。勝ち点3を得るには至らなかった。新しくなったCLは始まったばかりで、インテルが決勝トーナメントに勝ち進める保証はない。

だが、これまでインザーギとインテルにたびたび苦言を呈してきた御大でさえ、シティ戦のパフォーマンスには感銘を受けたようだ。かつてミランで黄金期を築いたアッリーゴ・サッキである。

サッキは『La Gazzetta dello Sport』紙のコラムで、シティ戦のドローは「インテルが本当に高いレベルに達したことを裏づけた」と表現。「恐れを抱かず、できることを見せようと意欲的にイングランドへ向かったイタリアのチームをようやく見ることができた」と、何よりもインテルの「勇気」を称賛した。

「インザーギのチームはメンタリティーの面で大きく前進した。今の彼らは欧州であるべき振る舞いをしている。ピッチを支配しようとし、相手をおののかせようとする。インテルの勇気は本当に素晴らしい知らせだ。恐れを抱かなければ、どんな目標にもたどり着けるからである。ようやくだ。このインテルにはCLで主役となるすべてがある。層が厚く、経験豊富で、素晴らしい技術や戦術的知識を持ち、フィジカルの能力も見事なスカッドだ」

■なぜインテルは勇敢なのか

まさにそのために、インテルはチームをつくってきた。

例えば、若手ヤン・ビセックの先発起用も、「勇気」のあらわれと言えるだろう。プレシーズンから評価を高めてきた23歳は、セリエA開幕戦でも好プレーを見せた。ただ、終盤にPKを献上。チームは勝利を逃している。その後、ビセックは3試合で出番がなかった。

過密日程や重要な試合を控えていることから、ターンオーバーは不可欠だ。それでも、シティとのアウェーゲームでのビセック起用からは、インザーギがチーム全体でさらなるステップアップを目指そうとしているのがうかがえる。

コンディションの問題もあるラウタロに代わり、メフディ・タレミが先発出場したのも同じだ。昨季のインテルはラウタロとマルクス・テュラムの2トップに代わるアタッカーの不在を指摘されていた。どちらとも組めるタレミの存在は、シーズンを通じての攻撃力確保につながるだろう。

タレミ同様にフリーで獲得したピオトル・ジエリンスキの加入や、イタリア代表で絶好調のダヴィデ・フラッテージの成長も、層に厚みを持たせている。これまでなら、CLのシティ戦で、ニコロ・バレッラ、ハカン・チャルハノール、ヘンリク・ムヒタリアンのトリオがスタメンでないなど考えられなかった。

9月18日、CLマンチェスター・シティ戦のインテルのスタメン
9月18日、CLマンチェスター・シティ戦のインテルのスタメン写真:ロイター/アフロ

底上げができているのは、適切に必要な補強を実行してきたジュゼッペ・マロッタ会長とピエロ・アウジリオSDの功績だ。彼らは目標達成のためにチームを編成してきた。

イスタンブール以降、昨季は国内制覇を最優先とし、狙いどおりに歴史的な20回目のセリエA優勝を達成。そして今季はCLとクラブワールドカップの新フォーマットを考慮しつつ、国内と欧州の両立を目指すために、選手層の強化へと動いた。

フロント、ベンチ、チームがそれぞれ、明確に定めた目標に向け、一致団結して突き進む。それを結果につなげ、さらに互いを信じ、自信を深めていく。だからこそ、勇気をもって強敵との戦いにも臨めるのだろう。「サッカーはチームスポーツ」。これも、サッキが常に強調するセリフだ。

■ミラノダービー新記録なるか

もちろん、シーズンは長く、いつも順風満帆とはいかないだろう。次から次へと厳しい戦いが待つ。

次戦もミランとのダービーというビッグマッチだ。不振のミランはパウロ・フォンセカ監督の進退が騒がしい。6連勝中のインテルは、ミラノダービー新記録となる7連勝を狙う。裏返せば、ホームでの勝利に対する期待、つまりプレッシャーも計り知れないということだ。

その重圧に負けないためには、勝利と目標達成への意欲、ハングリーさが不可欠となる。歴史的な長丁場となるシーズンを通じ、そのメンタリティーを保つことができれば、インテルはさらにサッキを感動させるだろう。そのときは、押しも押されもせぬCL優勝候補の一角となるはずだ。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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