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ロッククライミングの登攀ルートには、なぜ、女性の身体に関する名前がつけられているのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:アフロ)

 公の場で、性器の名前、下着の形、生理用品の形状を口にすることはめったにない。医学的な会議や性教育の場ならば別であろうが、からかい半分やおもしろ半分に会話に挟みこむことは多くの人が慎むだろう。

 ところが、誰でも利用できるカナダのロッククライミングの一部の登攀ルートには、女性器や女性下着、生理用品の名前がついている。カナダだけでなく、世界中の登攀ルートの一部は、性や人種を揶揄するような名前がついているという。

 「アルピニスト」というウェブメディアによると、登攀ルートは、そのルートの最初の成功者に名前をつける権利があり、仲間内のジョークが使われることがあるそうだ。

 話は変わって、山の多い日本には古代から山岳信仰がある。山での修行は人間の誕生と死の疑似体験をさせる。そのため、山を胎内や子宮に見立てたり、山道を産道に見立てたりしていたようだ。山や岩に女性器の名前をつけるのは現代人の感覚からは受け入れられないことだろうが、歴史的な重みがある。現代では許されないからと、歴史をなかったことにして、強固に変更を迫るのもどうかと思う。

 ロッククライミング界でも、表現の自由か、無意識の差別かの議論があるようだ。性や人種を揶揄する名称は、からかいや蔑視の対象となった人には不愉快なものだ。さまざまなバックグウラウンドを持つ、多くの人がロッククライミングを楽しめるように、これからの命名者は配慮しようという意見も出ている。

 私個人は、登攀ルートや形状の名前に、人間の身体の一部が使われているのは、それほど不快ではない。もしかしたら、古代の人も、そのように見立てていたのだろうかなどと時間軸を越えた想像もできる。

 けれども、「タンポンのアプリケーター」というルート名があると聞いたときには、興ざめする思いだった。あまりにも現代的な響きだったからか、私にとって命名センスが今イチだったからか。

 追記:クライミングのルート名を提示するべきという指摘がありました。以下にカナダのメモリアル大学教授で登山家でもあるTA・ローフラーの研究のリンクです。この研究ペーパーの222ページ、Table3にローフラーが4冊のガイドブックから調べた、米国の性的な名前のルートの一覧があります。ローフラーはこのようなルートの名前になった背景に、一部のアウトドアプログラムでは男性優位になっており、性的なジョークであふれていることを挙げています。

 追記2:最新のアウトドアの研究でも、ジェンダーとロッククライミングのルート名が取り上げられています。著者はジェニファー・ウィグルスワースです。こちらが要約です。

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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