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ラグビーがドラフト会議をやらないわけ。もしやったらどうなる?【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
大学選手権9連覇を目指す堀越。実際は都内の強豪クラブの門を叩きそう。(写真:アフロスポーツ)

 ここ数日のスポーツ界の話題を独占していたのは、プロ野球のドラフト会議だろう。今年は早稲田実業高校の清宮幸太郎に7球団から1位指名が重なったことで、例年以上に注目された印象だ。

 入団させたい選手が重なった場合はくじで交渉権を決めるというドラフト会議の方式は、少なくともラグビー界では採用されづらいだろう。高校生選手の多くは、大学進学を希望。大学生選手も卒業後に競技を続ける場合は、ラグビー専業のプロ選手になるか、社業にもいそしむ社員選手になるかを選ぶ。

 社員志望の選手が複数クラブからのスカウトを受けた場合は、引退後の生活や与えられる社業の内容なども進路選択の根拠となりうる。

 プロ野球界であれば意中の球団に入れなくとも、業務内容が「野球」であることは変わらない。一方、いまの日本ラグビー界でドラフト会議を採用すれば、飲料水の営業を希望する学生が電鉄会社の職員となる可能性が生じることとなる。

 さらに日本最高峰のトップリーグなどの社会人リーグには、プロを容認するクラブとそうでないクラブが混在。選手側とチーム側のニーズを一致させる観点からも、両者の直接面談に基づく自由競争で採用活動がなされるのは自然なことだった。

 とはいえ有力な大学生選手がいたら、各チームの関係者は雑談の延長で「彼は今年のドライチでしょう」と口にしたりもする。

 ちなみに企業などが有する各チームには、選手経験のあるスタッフが採用担当として在籍している。大学生の試合をつぶさに見て、首脳陣の意向やチームのプレースタイルにマッチした選手、将来的に層の薄くなりそうなポジションでプレーする有望株などに白羽の矢を立てる。

 本稿では、「もし、今季トップリーグに在籍する16チームがドラフト会議をした場合、どの大学4年生を1位指名するか」を列挙する。実際は下記に名が挙がるような選手はすでに進路決定済み。予想そのものの根拠は皆無と捉えていただいてもよく、各クラブが当該選手にオファーを出していたかどうかもまちまちである。要は、ここ数か月で見聞きした来季の獲得情報はいったん忘れ、数年間の取材から察せられるチーム事情などをもとにリストアップを試みた。

 とにかくこれをきっかけとし、寒い季節に本格化する大学ラグビーのシーズンを楽しんでいただけますと幸いです。

サントリー 梶村祐介 明治大学 センター 身長180センチ、体重93キロ

沢木敬介監督は、2013年から2年間ヘッドコーチを務めた20歳以下日本代表で実力を認めた選手を採用すると断言。報徳学園高校時代に日本代表の練習生となった梶村もその隊列の1人で、年齢層のやや上がりつつあるサントリーのセンター陣で重宝されそう。かねてサントリーの練習に参加するなど、相思相愛の向きあり。

ヤマハ 矢富洋則 帝京大学 センター/ウイング 身長181センチ、体重91キロ

清宮克幸監督ら首脳が、各ポジションの役割を明確化した「ヤマハスタイル」を提唱。2016年には慶應義塾大学でロックの定位置を目指していた大塚健太をプロップとして採るなど、スカウティングも独自路線を行く。大学選手権8連覇中の帝京大学でラン、タックルで魅した矢富は、同部所属で日本代表経験のある勇穀の弟。本職のアウトサイドセンターに加え、活動量の多いウイングでも期待されそう。

パナソニック 堀越康介 帝京大学 フッカー 身長174センチ、体重102キロ

一昨季まで3連覇した強豪は、かねてプロ選手の採用に積極的。日本代表に多くの選手を提供してきたクラブとあって、層の厚みを維持している。激しい定位置争いと実力者と練習できる環境の両方が待っているなか、真に食指が伸びそうなのは地元の群馬出身のファイターか。

神戸製鋼 野口竜司 東海大学 フルバック 身長177センチ、体重86キロ

関西圏の有力株を好む神戸製鋼にとって、大阪の東海大仰星高校出身の才能は魅力だろう。防御網を破る際のボディバランス、防御から攻めに切り替わる際の素早い攻撃網への参加などが買われ、今年は日本代表でフルバックのレギュラーを獲得。プロ志向の持ち主で、大学では教員免許取得のため努力を重ねる。

NTTコミュニケーションズ 尾崎晟也 帝京大学 ウイング/フルバック 身長175センチ、体重85キロ

2014年入部の金正奎(早稲田大学、フランカー)、2015年入部の石橋拓也(慶應義塾大学、センター)ら人気校のリーダー格が主力に成長。ロブ・ペニーヘッドコーチのもと大きくボールを動かすチームにあって、日本代表も経験したフィニッシャーは重宝されそう。

リコー 尾崎晟也 帝京大学 ウイング/フルバック 身長175センチ、体重85キロ

尾崎の白眉は、スピードやパワーといった有形の力だけに頼らぬ仕事ぶりだ。相手防御の死角でパスをもらえるポジショニングの妙、数的不利を強いられた防御時に危機を最小化させるコース取り…。リコーは前方の防御ラインを極端にせり上げるとあって、後方のバランスを調整できる仕留め役を競合覚悟で獲りにゆくか。

キヤノン 佐藤大樹 慶應義塾大学 ロック 身長190センチ、体重105キロ

空中戦時のハンドリングスキルとサイン出し、防御時の鋭いタックルなどで目立つ。キヤノンは期待された若手日本人ロックが相次ぎ退団しているとあって、長身フォワードの獲得は急務か。

トヨタ自動車 梶村祐介 明治大学 センター 身長180センチ、体重93キロ

今季からこのチームの指揮を執るのは、南アフリカ代表を率いて2007年のワールドカップ優勝を果たしたジェイク・ホワイト監督。大物外国人と新人の姫野和樹キャプテンらを芝に並べ、クラブの伝統でもあるフィジカルラグビーを遂行する。優勝までの最短ルートを駆け抜けるに際し、サイズとスキルを兼備した新人センターは心強い存在になりそうだ。

東芝 梶村祐介 明治大学 センター 身長180センチ、体重93キロ

東芝は、立ってボールを繋ぐスタンディングラグビーの確立で復活を期す。防御のひずみを倒れずに進める梶村が、中堅の域に入ったインサイドセンター陣の競争を激化させられるか。

NEC 喜連航平 近畿大学 スタンドオフ 身長175センチ、体重85キロ

NECは経験者が多く抜けたロック、スクラムハーフ、スタンドオフの補強を競合なしでおこないたそう。近畿大学でキャプテンを任される喜連は、防御網の近い位置での鋭い仕掛けに定評がある。

サニックス 木津悠輔 天理大学 プロップ 身長178センチ、体重112キロ

福岡・宗像で活動するサニックスは、猛練習で持久力を高め、人もボールも動かすスタイルを全う。福岡と同じ九州の大分出身である木津は、鋭いタックルを放った後にすぐ立ち上がるなど機動力が魅力。外国人選手に頼ってきたセットプレーの安定化にもひと役買えるか。

クボタ 鹿尾貫太 東海大学 センター 身長177センチ、体重91キロ

クボタは日本代表でキャプテン経験のあるインサイドセンター、立川理道をキャプテンに据える。その立川と今春の日本代表ツアーで多くの時間を共にしたのが、東海大学屈指のタックラー、鹿尾だった。鋭いタックルが光る。

近鉄 野口竜司 東海大学 フルバック 身長177センチ、体重86キロ

近鉄にはスタンドオフで兄の大輔が在籍。陣地の取り合いの際でも正確な捕球と適したエリアへのキックで魅する野口が最後尾に入れば、ルアン・コンブリンク、セミシ・マシレワら走力ある外国人フルバックはウイングに移る。強力なバックスリーが完成。

コカ・コーラ 堀越康介 帝京大学 フッカー 身長174センチ、体重102キロ

低迷脱却を目指すクラブにあって、グラウンド内外で規律を重んじられる幹部候補生は嬉しい存在だろう。いまは怪我に泣く有田隆平との定位置争いも楽しみ。

豊田自動織機 堀越康介 帝京大学 フッカー 身長174センチ、体重102キロ

タックル、防御網へのコンタクト、サポートとった「芯のプレー」を全う。切れ目のない防御網の完成で上位進出を目指すクラブにあっては、文句なしの即戦力か。

NTTドコモ 堀越康介 帝京大学 フッカー 身長174センチ、体重102キロ

一昨季下部トップウエストに降格も、ダヴィー・セロンヘッドコーチのもとタフさを尊しとするクラブに変貌。巨躯とのぶつかり合いから逃げない気風は、指揮官のリクエストに叶いそう。

 ワールドカップ日本大会終了後の2020年は、国際リーグのスーパーラグビーと同時期にトップリーグを開催。スーパーラグビーに日本から参戦するサンウルブズは、それまでトップリーグなどのチームから選手を集めてきた運営方式を変革させざるを得なくなりそうだ。リアルなラグビー界における若手の職業選択は、どう変わってゆくか。注目が集まる。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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