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目からウロコ!外国人の鋭い視点「“月並み”は、なぜ“平凡”なの?」日本語教師の体験談

高橋亜理香日本語教師/日本語・日本酒ライター

お読みくださってありがとうございます!日本語教師の高橋亜理香です。

日本語教師という仕事を続けていると、思いもよらなかった外国人的視点で日本語についての質問を投げられることがよくあります。職業上、日本語学習用のテキストに載るような文法や語彙は、テキストの提出順までそらで言えるほど熟知しているものですが、それでも外国人の疑問には「その視点はなかったなあ」と目からウロコが落ちるように納得、感心してしまうことがあります。

今回は、そんな仕事中の体験から「なるほど!」と思ったできごとと、その日本語について紹介します。

「月並み」は「“月”の“レベル”じゃないの?」

日本語学校での授業中のことです。演習問題の中に「月並み」という言葉を使った問題がありました。日本人なら言うまでもないと思いますが、「月並み」とは「平凡、陳腐」という意味で使われる言葉。「月並みなセリフしか言えないけど…『結婚してください!』」的なアレです。

演習が終わると、正誤の確認とフィードバックをします。学生が間違った問題も、語彙の意味や文法の用法などを改めて確認すれば、大抵の場合学生は納得するのですが、その日は学生が手を上げてこう言いました。

「先生、『月並み』はどうして『平凡』という意味なんですか?“月”と“並み”ですよね。月は世界にひとつしかないものだし、並みは『レベル』という意味です。それならとても大切でレベルが高いんじゃありませんか?」

「なるほど!」と思いませんか?その学生は、おそらく「世間一般レベル」という意味の「人並み」と同様のロジックで解釈したはず。

「月(という唯一無二の存在)」+「並み(レベル)」ということです。それぞれの言葉の意味を組み合わせて意味を導き出していて、それは確かに理にかなっています。みなさんは、このように考えたことはありましたか?

わたしたち日本人は、当たり前のように「月並み」=「平凡」だとインプットされていますが、この学生のような考え方は至極当たり前。母語ではないからこそ簡単に気づけたのだなと、感心しました。

では、そんな「月並み」という言葉、どうして「平凡」という意味を持つようになったのでしょう。ここからはその由来のお話です。

「月並み」=「平凡」の由来は正岡子規

そもそも「月並み」の元々の意味は「毎月の定例」「月次」、現代でいう「月イチ」的な意味でした。江戸時代以降、和歌や漢詩をたしなむ人々が作品を詠み合う定例会が流行し、俳句の世界でも「月並句合(つきなみくあわせ)」と呼ばれる月並会(月例会)が開かれていたそうです。明治時代に正岡子規が、そんな句会で詠まれる「旧派」と呼ばれる正岡子規以前の流派の句を「月並調」と揶揄し、旧態依然とした進歩のない陳腐なものであると批判しました。これが「月並み」の由来となり、「平凡で新鮮味がなく、ありふれている」という意味が生まれたのです。

つまり、そもそも「月並み」の「月」は空の月ではなく「ひと月」という意味。「並み」は「レベル」ではなく、言い換えれば「毎」や「次」といった意味を持っていて、現在の「平凡」という意味は、正岡子規によって新たに生まれたものだったということです。

「考える」「疑問を持つ」って大切!

結局のところ、由来にはこんなエピソードがありました。それでも学生の質問は本当に真っ当で、目からウロコでした。ネイティブであるこちらはそもそも意味がインプットされているし、ましてや「月並み」については由来も知っていたので、この学生のような発想には至ったことがなく「疑問に思う」力が足りないなと実感。みなさんの中にもこの発想に感心してくださる方や、由来を初めて知った!という方がいたら、とても嬉しいです。

日々、こういったアハ経験?に当たるのが日本語教師。「日本語」に興味を持ったら、ぜひ今後も読んでいただけたら励みになります。

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日本語教師/日本語・日本酒ライター

都内日本語学校の専任講師を経て、現在はフリーランスの日本語教師として留学生の日本語・進学指導やオンラインレッスンをしています。外国人の日本語学習を通して日本人の気づかない日本語を探究中。兼業で日本酒ライター・テイスターとして、父の故郷の秋田県をはじめとした日本酒の良さを伝えるお仕事もしています。保有資格:日本語教育能力検定試験、J.S.A.SAKE DIPLOMA、SSI日本酒学講師、SSI利酒師

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