ベイクルーズ元取締役が「スキマ時間だけ働きたい」人と店をマッチング、アパレルの救世主になるか!?
販売員の人材不足が叫ばれる中、スキマ時間に接客販売の仕事がしたい元販売員らと、店舗をオンラインでマッチングする新サービス「MESHWell」(メッシュウェル)が始動した。「メッシュウェルとは、素材のメッシュ地のように交わらせ編み込むという意味と、良くするというウェルという意味を合わせた造語。働き手のスキマ時間と、店が必要とする時間や人材をうまく編み込ませたい」と窪田光平メッシュウェル社長。フレキシブルな働き方の実現と、アパレル小売業の接客サービス力アップや販売機会ロスの削減による売上げアップ、さらには顧客の買い物体験の向上を目指すもの。「元販売員らと店をマッチング」「経験生かし人手不足解消」「働きたい時間・報酬 自ら提示」「販売現場のウーバーに」といったタイトルで、繊維ファッション業界紙や日経系の新聞などにも掲載され、注目を集めはじめている。
アントレプレナー育成に定評のある米バブソンでMBA取得、アパレル業界の幸福な未来に向けて事業を開発
実は窪田社長はベイクルーズの元取締役で、創業者の息子でもある。ベイクルーズといえば、アパレルからスタートし、「ジャーナルスタンダード」「エディフィス」「イエナ」「スピック&スパン」「ドゥズィエムクラス」などのセレクトショップを手がけ、最近では行列ができるロブスターロール「ルークス ロブスター」やフワフワのパンケーキ「フリッパーズ」など人気の飲食店も多く擁するライフスタイル提案型のリーディングカンパニーだ。2018年8月期には約380店舗で売上高が1080億円に成長している。
ベイクルーズで国内外の仕入れサポートや、英国留学、商社勤務などを経てベイクルーズに戻った窪田社長は、新規事業やCSサービス、EC事業の立ち上げなども担当。さらに経営を学ぶため留学しMBAを取得するよう指令を受けたのが約3年前のこと。「最初は戸惑いもあったが、準備をしているうちにいろいろな情報が集まり、MBAにも興味が湧いた。僕はかなり恵まれているけれども、ベイクルーズが属するアパレル業界にはさまざまな問題や課題を抱える企業も多い。業界が30年後どうあるべきか、かかわる人々が幸せになるためにはどうすべきかを、2年間でまとめてこようと決意した」という。
MBA先に選んだのは、米国東海岸のBABSONカレッジ(バブソン大学経営大学院)だった。「MBAランキングでは65~70位の中堅だが、アントレプレナーシップ教育では世界随一で、『米ニューズ・アンド・ワールド・リポート』のMBA世界ランキングのアントレプレナーシップ部門で25年連続トップを獲得している。卒業生にはトヨタ自動車の豊田章男社長やイオンの岡田元也社長、スパークス・グループの阿部修三社長などもいる。ファミリービジネスの専門性も高く、事業の承継ポイントや成長戦略、ベンチャーの立ち上げから成長、バイアウトなどまで実戦形式で教えてくれるところに魅力を感じた」。
米国で社会やコミュニティへの貢献意識が高まる
授業はディスカッションが主流。流れを見極めつつ自らきっかけを作って主張しなければ取り残されてしまう。また、「3分間で投資家にアイデアをピッチしろ」といったお題が急に振られることもあるため、「常に自分のプランや見解を持ち、人との違いを意識したり受け入れたりすることが求められ、マインドセットが大きく変わった。ダイバーシティ(多様性)の重要性も学んだ。文化や宗教観など日本人には理解しにくい部分も多いが、その分、社会にとって本当に大事なことのポイントが絞られ、ビジネスのアイデアもブラッシュアップされた。人間的にも大きくなれた気がする」と振り返る。
留学生活や起業を支えたのは、窪田社長のパートナーでヨガインストラクターとしても活躍する伊藤ゆりさんだ。「窪田はアパレル業界の問題解決をしたいという強い思いを持って留学しましたが、『コミュニティへの貢献』に対する意識の強い米国で学んだことで、より業界に対する責任やお客さまの満足に対する意識が高まり、考え方や話し方まで変わっていきました」と証言する。
米国でアイデアを温め、日本に帰国してから磨き上げたのが「メッシュウェル」だ。「ベイクルーズでカスタマーサポートを管轄していた際、接客に関するクレームの9割が『なぜ接客してくれないのか?』というもので、『こんなにも接客してほしいお客さまがいたのか』と驚き、接客に対する潜在的ニーズを強く感じた」という。(ちなみに、昨年、同じくセレクトショップのアーバンリサーチが、接客をしてほしくない人に対して「声かけ不要バッグ」を店舗に設置したが、利用者は予想を大きく下回り1割程度にとどまったという。)
おりしも、米国ではウーバーが発達し、育児中の母親や有職男性、さらには現役のタクシー運転手なども隙間時間にウーバーのドライバーをしていたという。アプリやネットを通じたサービスが多く開発され、シェアリングエコノミーは盛り上がる一途だった。手ごたえを感じ、エンジニアとしてベイクルーズのオムニチャネル「スタイルクルーズ」の初期から携わっていた森陽氏をチームに起用することも決めた。
当初はベイクルーズ傘下でサービスを行うことも考えたが、独立する道を選んだ。「ベイクルーズには資金力も店舗網もあるのは大きな魅力だったが、意思決定のスピードを意識した。また、独立することで、サービスを活用してもらえる企業やブランドが広がり、より社会に役立てるのではと判断」。今年7月にメッシュウェル社を設立し、秋からサービスをテスト運用してきた。
短時間勤務や単発勤務を希望するプロ販売員=タレントと店舗がオンライン上でマッチング、販売員版「ウーバー」「ティンダー」
肝心の「メッシュウェル」のサービスでは、接客・販売従事希望者を募り、個人認証確認や、このサービスの仕組みや確定申告の要不要などの説明が済んだうえで、「タレント」として登録。タレント本人がプラットフォーム上にプロフィール(職歴や資格、学生時代の部活、趣味など)やコーディネートトピックス(希望の勤務日時、エリア、報酬額)を入れると、利用企業・ストア側はその一覧を見てオファーを出せる。タレントが受託するとマッチングが成立。業務委託契約に基づき、指定された店舗に赴き、「接客」「おたたみ」「レジの会計補佐」の3業務に特化して勤務する、という形だ。終了後、次回以降のオファーや受領の参考値になるようレーティング(評価)をしあうのもポイントだ。
「1回だけのマッチングが簡単にできる仕様にしている。1日、あるいは2~3時間だけ働いてもらうために、面接をして教育をしてというのはあまりにもコストや手間ひまがかかりすぎる。そこで、プロの販売員を、プロフィールやトピックス、過去のレーティングなどをもとに簡単に指名できる形にした。また、メッシュウェルが支払い代行業務を請負い、月単位で一括請求することで、企業やストアがタレント一人ひとりに支払いを行うという煩雑さを解消する仕組みにしている」。
また、「派遣会社との競争は考えていない」といい、派遣時の手数料は取らず、企業・ストアから定額のサービス利用料を課金する、サブスクリプション型にしているのもイマドキのビジネスモデルだ。繁忙期と閑散期に対応し、利用休止月も設けられる。すでに7社がサービスを利用。インテリアの販売経験しかなかったファッション好きのスタッフが、洋服のセレクトショップで想定の3倍近く売り上げて驚かれたケースもあるという。子どもの病気などで正規販売員が急にシフトに入れなくなるケースなどの応急処置としての活用も増えそうだ。
教育やコミュニティなどプラットフォームを充実、東南アジアなどにサービス拡大のチャンスも
今後は、エデュケーション・プラットフォームとコミュニティ・プラットフォームを開発し、「英語」や「商品知識」など個人のスキルをプラットフォーム上で売買したり、接客技術の学び方や子育てをしながらどう仕事をしているのかなど気軽に情報交換できるような形にしていく。「フリーランスは孤独なので、『求められている』という実感ややりがいも創出したい。そして何よりも、お客さまの購入体験を楽しく快適にしていきたい。ECが台頭する中で、店頭での購買体験はより重要になる。接客好きといわれる東南アジアなどにサービスを拡大するチャンスもある」と窪田社長。
実は接客・販売の仕事が敬遠されているわけではなく、「仕事は魅力的だが、拘束時間が長すぎる」という働き方のミスマッチが人材難を加速させている側面もある。リクルートジョブズの調査研究機関「ジョブズリサーチセンター」の「求職者の動向・意識調査2017」によると、当時就業中でアルバイト・パートの仕事探しをしていた人の週当たりの希望勤務日数は「3日」が多く、勤務時間は「4~6時間未満」「2時間未満」がやや多く、7時間以上は少ないという結果だったという。販売職の「短時間シフト」「細切れシフト」のニーズの対応や、接客を受けたい生活者に対する課題解決型のサービスとして活用されることが期待される。