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ファッション誌「Lula Japan」のセレックとフルサイズイメージが提携 海外、アートを強化

松下久美ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表
「Lula Japan」と「BOOK AND SONS」がグループに 写真は公式

 イギリス発の女性ファッション誌「Lula(ルラ)」の日本版「Lula Japan(ルラ ジャパン)」やアートブック「Lula BOOKS(ルラ・ブックス)」を発行するクリエイティブエージェンシーのセレックが、Webデザインやスタジオ運営などを行うデザインスタジオのフルサイズイメージと資本業務提携を行った。また、これまでライセンスで展開してきた「Lula Japan」の商標を取得し、社名も変更する予定だ。セレックの鈴木和生代表と、フルサイズイメージの川田修代表に、提携の狙いと、今後のビジョンを聞いた。

セレックの鈴木和生代表(左)とフルサイズイメージの川田修代表  筆者撮影
セレックの鈴木和生代表(左)とフルサイズイメージの川田修代表  筆者撮影

――フルサイズイメージの業容は?

川田修フルサイズイメージ代表:デザイン会社に3年勤めた後、26歳で独立し、2004年にフルサイズイメージを設立した。デジタル畑で、Webデザインやグラフィックデザイン、エディトリアルデザインなどを手がけてきた。さらに「viaton」「atem」など13のハウススタジオを都内で展開したり、ブックストア「BOOK AND SONS」も運営。子会社でドッグブランドも展開するなど、デザインにとどまらない多角的な経営を行ってきた。

――今回、セレックと提携したいと考えた理由は?

川田:デバイスがパソコンからスマホに変わったり、デザインそのものよりもコンテンツにフォーカスがあたるようになるなかで、来年20周年を迎えるに当たり、制作案件を中心に行っていくことに限界を感じていた部分がある。専門性を身につけたスタッフが企画立案から制作、運用、広告まで手がけ、本質的なデザインを生み出すことに力を入れてきたが、ここに、雑誌で培われてきた編集力やコンテンツ作りの力、それができる人材などが加われば、新しい取り組みやチャレンジができると考えた。また、弊社のスタジオや「BOOK AND SONS」とも相乗効果が高いと感じた。「Lula Japan」は日本の雑誌としては独特なクリエイティブがある。雑誌、Webサイト、SNSを含めたメディア運営や、アートブックの発行、デジタルコミュニケーション・デザインコンサルティング、グラフィックデザイン、スタジオ、ブックストア、ギャラリースペースなどの多彩なポートフォリオからなるユニークな協業を通して、これまでの両社の取り組みをさらに加速させながら事業成長するクリエイティブやソリューションを創出し、国内外での独自性をより高めていきたいと考えている。

フルサイズイメージは東横線の学芸大学前の住宅地にたたずむギャラリー併設のブックストア「BOOK AND SONS」も経営する   写真は公式
フルサイズイメージは東横線の学芸大学前の住宅地にたたずむギャラリー併設のブックストア「BOOK AND SONS」も経営する   写真は公式

――セレックの鈴木代表は出版社時代にファッション誌やカルチャー誌など立ち上げたり、2014年10月に「Lula Japan」を発行してきた。改めて「Lula Japan」とはどのような媒体なのか?

鈴木和生セレック代表:「Lula」はイギリスでスタイリストとフォトグラファーの2人が始めた上質かつアーティスティックなファッションマガジンだ。日本ではライセンス形式で2014年から年2回、「Lula Japan」を発行してきた。日英併記で、世界中のエイジレスな女性へ向けて、上質なクリエイションと感度の高いコンテンツを届けるための、ファッションとアートが融合した、今までにはないインターナショナルファッション誌と自負している。コロナ前までは、私と編集スタッフ、スタイリストとで海外に飛び、世界中からカメラマンやモデルを集めて最高の一冊を作ってきた。通常の雑誌編集では、テーマを決め、ラフを切ってからそれに合わせて撮影などをしていくが、「Lula Japan」では、先にスタイリストを決め、毎号、色をテーマにインスピレーションを受けて、スタイリストとストーリーを作り上げ、トレンド、服などを取り上げていくような作り方をしている。ハイクオリティで他にない独特の空気感を持っていることから海外にもファンがおり、ロンドンの百貨店や台湾の書店などでも売られており、海外流通が2割を占めている。2017年からはWebサイト「Lula Japan Web」もスタートし、編集動画などのオリジナルコンテンツや最新情報をデイリーに発信。海外からのアクセスも多い。「FASHIONSNAP」にもポストしている。雑誌で培った編集力を軸に、ファッションビューティ、アートのカテゴリーを中心に、ヴィジュアル・カタログ・WEB・ムービー等のコンテンツも制作している。アートブック「Lula BOOKS」のプロジェクトも手がけている。モトーラ世理奈さんをフィーチャーした「SERENA MOTOLA.」も手ごたえがあった。

ファッション×アート×インターナショナルな独特の雰囲気を醸し出す「Lula Japan」の誌面  写真は公式
ファッション×アート×インターナショナルな独特の雰囲気を醸し出す「Lula Japan」の誌面  写真は公式

アートブック「Lula BOOKS」も強化していく。モトーラ世理奈さんをフィーチャーした「SERENA MOTOLA.」   写真は公式。
アートブック「Lula BOOKS」も強化していく。モトーラ世理奈さんをフィーチャーした「SERENA MOTOLA.」   写真は公式。

――フルサイズイメージとの提携に至った背景や狙いは?

鈴木:ファッションは会社としては認知されてきたと思うので、次はアートの領域を拡大したり、ブランディングなどにも力を入れていきたいと考えた。また、コロナ前は好調に推移していたが、海外に行けなくなり、雑誌の作り方や表現の仕方を考え直すきっかけになった。Web・広告・グラフィック制作を基盤とするフルサイズイメージのノウハウや人材などを効果的に活用し、セレックが行うデジタル上での表現の幅を拡大し、クリエイションの質のさらなる向上を図っていきたい。また、ギャラリー機能も持つブックストアの「BOOK AND SONS」やスタジオなどのスペースを、セレックが国内外のアーティストやクリエイターと新規プロジェクトを行うプラットフォームとすることで、出版物やデジタルメディアだけではできなかったリアルタイム・対話型のコンテンツの提供が可能になる。新進クリエイターの発掘を目的とした事業も行っていきたい。

川田:実は僕たちは、クリエイティブスタジオのディスカバリー号と、CANVASの金尾彰典さんたちと行った京都の清水寺のアートプロジェクト「FEEL KIYOMIZUDERA」の制作を手がけたのだが、そのことにも興味を持ってもらえて。お互いに持っていないものを持っている。海外、アート、コンテンツ、ファッションなどを融合して、一つのチームで様々なプロジェクトができたら面白そうだよね。しかもインハウスでできるようになったらクオリティを向上させ、しかもスピードアップも図れるね、と鈴木さんと意気投合したのも大きかった。

――英国の「Lula」の状況は?

鈴木:イギリスの経営陣とも親しく交流しているが、日本よりもコロナの打撃が大きく、苦戦している。スタイリストとカメラマンが始めたクリエイション寄りの媒体なので、ビジネスが強いとは言えなかった面もある。そこで、私が本国のエグゼクティブ・ストラテジック・ブランドマネジャーとして入り、戦略を手がけていくことになった。また、これを機に、「Lula Japan」の商標権を取得し、社名もセレックからLula Japanに変更する予定だ。日本での事業展開のフットワークを軽くするとともに、本国の運営資金に充当することで日本主導で経営をサポートしていくという意味もある。

――両社のプラットフォームとして、また、ハブとして、「BOOK AND SONS」が重要な役割を果たしそうだ。特徴は?

川田:2015年4月に学芸大学前の住宅街にオープンした、タイポグラフィなどグラフィックデザインやアートブックを中心に扱うギャラリー併設型の書店だ。洋書が7割で、僕が厳選した古書を中心に取り揃えている。ギャラリーでは写真家を中心に利用いただいていて、横浪修さんや濱田英明さん、泊昭雄さん、更井真理さん、久家靖秀さんなどの展示会も行った。コロナ前には海外からのインバウンドのお客さまも多く、知る人ぞ知るブックストアになりつつある。月1回、リアルイベントも実施しようとしている。そういったことも含めて、「Lula Japan」や鈴木さんたちと協業して、海外のアーティストを招聘したり、海外の版元と連携することで、日本のクリエイティブのレベルを上げていきたい。ここを拠点に、コンペティションの企画、出版物とデジタルの両面でのプロモーション、作品集の出版や作品展の開催など、クリエイターにさまざまな機会を提供していく。商業写真家にアーティストとしての道を拓くサポートもしたい。

「BOOK AND SONS」で行われた泊昭雄氏の展示会風景より   写真は公式
「BOOK AND SONS」で行われた泊昭雄氏の展示会風景より   写真は公式

――今後のビジョンとしてイメージしているのはどのような活動か?

鈴木:「Rizzoli(リッツォーリ)」のようなアート系ビジネスを展開していきたい。また、野望としては、(「LOEWE(ロエベ)」 のロゴをデザインしたり、「MIUMIU(ミュウミュウ)」 とコラボレーションを行うなどハイブランドやアーティストのクリエイティブを手がける)「M/Mパリス」のように、ラグジュアリーブランドや強いブランドのクリエイティブのお手伝いができるクリエイティブエージェンシーを目指したい。海外だとイギリスの「Dazed & Confused(デイズドアンドコンフューズド)」などがブランドのキャンペーンビジュアルの制作などを手がけたりもしている。私たちも自前だけでは難しいし時間もかかるが、フルサイズイメージのリソースも活用しながら、海外でも勝負していきたい。そして、海外流通やWebなど媒体を通じて海外にクリエイターを知っていただける機会も増やしたい。日本の美意識や文化を海外にしっかりと出していくことができる唯一の媒体だと思っている。「Lula Japan」を始めたときも、出版社をやりたいというよりは、ブランドビジネスとしてLulaのイメージを拡張させていく活動をしたいと思っていた。幸い、「Lula」は海外ではよく知られた名前なので、海外ブランドからの信頼も厚い。

――アートはリアルでもデジタルでも市場が拡大しており、大きなビジネスチャンスでもある。

鈴木:クリエイターを紹介する企画「Inside of you(インサイド・オブ・ユー)」では、インスタグラムやメディアなど世界中から作品を集めたり、注目のクリエイターを発掘したりして、テイストに合わせてWebで掲載している。すでに創刊から2000人近くの国内外のクリエイターとつながっている。ここで紹介したクリエイターが後に「MARNI(マルニ)」や「GUCCI(グッチ)」などブランドとのコラボに起用されたり、私たちがキュレーションしてブランドのクリエイティブを手がけたりもしている。優秀なクリエイターとのネットワークを世界中で持っているのは強いし、今後、さらに生きてくると思う。今アートに投資する人が増えている。NFTも盛り上がっており、雑誌媒体そのものではなく、アートを交えた販促などを行うブランドも増えている。アート×ブランドはブランディングの一つの手法となり、これからマーケットが広がっていく。日本は遅れているので、チャンスは大きい。また、キズや汚れのある一点もののアパレル・雑貨などを、廃棄ではなく、アートの力で価値をつけてアップサイクルして販売するなど、サステナブルな活動にも取り組んでいきたい。

鈴木和生セレック代表(左)と川田修フルサイズイメージ代表   筆者撮影
鈴木和生セレック代表(左)と川田修フルサイズイメージ代表   筆者撮影

鈴木和生セレック代表(左)/PROFILE:1977年11月9日生まれ。法政大学大学院経営学研究科経営学専攻修了。出版社でファッション誌、カルチャー誌など立ち上げを10誌以上経験後、2007年3月に株式会社セレックを設立。アパレル・ビューティブランドのクリエイティブ、通販雑誌、ファッションイベントなどのプロデュース、企業コンサルティングなどを手がける。2014年10月にはイギリス発の女性ファッション誌「Lula」日本版を創刊。「Lula Japan」編集長と「Lula UK」Executive Strategic Brand Managerを兼務。「ファッションやアートから湧き上がる前向きなパワーを世に発信し続けたい」。

川田修フルサイズイメージ代表(右)/PROFILE:1976年2月21日生まれ。青山学院大学経営学部卒。都内デザイン会社を経て、2002年にデザイン事務所full size image(フルサイズイメージ)を設立。デザイン制作以外に、都内を中心にハウススタジオ、プロップスのリースサービスなど幅広く展開。2015年にはグラフィックデザインや写真集などのアートブックを中心に扱う書店「BOOK AND SONS」を学芸大学前にオープン。店内のギャラリーでは定期的に才能あふれる作家たちの展示を開催している。

ファッションビジネス・ジャーナリスト、クミコム代表

「日本繊維新聞」の小売り・流通記者、「WWDジャパン」の編集記者、デスク、シニアエディターとして、20年以上にわたり、ファッション企業の経営や戦略などを取材・執筆。「ザラ」「H&M」「ユニクロ」などのグローバルSPA企業や、アダストリア、ストライプインターナショナル、バロックジャパンリミテッド、マッシュホールディングスなどの国内有力企業、「ユナイテッドアローズ」「ビームス」を筆頭としたセレクトショップの他、百貨店やファッションビルも担当。TGCの愛称で知られる「東京ガールズコレクション」の特別番組では解説を担当。2017年に独立。著書に「ユニクロ進化論」(ビジネス社)。

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