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英国調査機関「Facebookはホロコースト否定論を積極的に推奨している」調査結果発表

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

 英国の調査機関Institute for Strategic Dialogue (ISD)は2020年8月にFacebookのアルゴリズムはホロコースト否定論を積極的に推奨するようになっているとの調査結果を発表した。第2次世界大戦時にナチスドイツがユダヤ人、ロマ、政治犯ら600万人以上を殺害したホロコーストだが、現在でも反ユダヤ主義が欧米やイスラム諸国では根深く「ホロコーストは存在しなかった」「ホロコーストはユダヤ人のでっち上げだ」といった、いわゆるホロコースト否定論がある。

 Facebookではホロコースト否定論や誹謗中傷するようなコンテンツは削除する方針を明らかにしている。だがISDによるとFacebookでホロコーストと検索すると、ホロコースト否定論者で有名な英国の歴史学者デイヴィッド・アーヴィングの著書やホロコースト否定に関するページが積極的に表示されてくるとの結果を発表した。

 欧米やイスラム諸国での反ユダヤ主義にはユダヤ陰謀説といったものもある。歴史的にも「ユダヤ人が世界を支配する」といった陰謀説があり、ナチスもそのような言説を利用してユダヤ人を悪に仕立てた。当時はインターネットもスマホもなく、テレビもなかった。新聞が読める家庭も少なかった。ラジオがようやく普及し始めた頃だったので、ユダヤ人陰謀説は映画ニュースで宣伝されたり、噂話で拡散していった。また学校の授業で「ユダヤ人は世界を支配する悪だ」といったテキストを利用して先生から教えられたりもした。Facebookでは2020年8月に「ユダヤ人が世界を支配している」といったユダヤの陰謀論を助長するサイトをFacebookとInstagramに掲載することを禁止することを明らかにした。今でもそのようなコンテンツがFacebookにはアップされており、ISDによると36個のホロコースト否定論のグループがあり、それらのフォロワーは36万人以上だった。ISDの研究員のヤコブ・ダベィ氏は「Facebookがホロコースト否定論のコンテンツを掲載しておくことを許すことは、歴史的な議論の正当性を守っていると思っている人もいるでしょう。しかし、このような考えこそがホロコースト否定に多くの人が賛同してしまう要因です。ホロコースト否定論は、長年に渡って存在している反ユダヤ主義を合法化するための故意的なツールの1つです」と語っていた。

 またISDによるとホロコースト否定論はFacebookだけでなく、他のSNSにも散見されることを明らかにした。「holohoax(ホロコーストはでっち上げという意味の造語)」という用語がTwitterに19000、YouTubeに9500以上あることが確認された。YouTubeではホロコースト否定論などを原則的には禁止していることから「holohoax」の用語は少なくなってきているとのこと。

 Facebookのスポークスマンは「我々はホロコーストを称賛したり、正当化するようなコンテンツ、ホロコーストを否定するようなコンテンツ、反ユダヤ主義や民族憎悪、ヘイトスピーチに関するコンテンツは削除しています。またFacebookではホロコースト否定に関するページ、グループを検索予測のリファレンスから削除しています。このようなホロコースト否定のコンテンツを削除しているのは、ホロコースト否定論がフェイクなだけでなく、ホロコースト否定論の投稿が民族憎悪、ヘイトのポリシーに違反しているからです。ドイツやフランス、ポーランドなどではホロコースト否定自体が法律で禁止されています。表現の自由と人々の安全を守ることのバランスが大切です」と発表した。

 世界中のユダヤ団体やホロコースト博物館などがそのようなホロコースト否定論と戦っている。だが、ホロコースト否定論はSNSなどであっという間に拡散されており、多くの若い人たちは本当にホロコーストはなかったのではないかと勘違いをしてしまいやすい。ホロコーストを経験した生存者らが年々減少しており、ホロコーストのリアルな体験を語れる人がいなくなると、本当にホロコーストがあったのかどうかを伝えるのが難しくなるのではと懸念しており、ホロコースト生存者が体力的にも元気なうちに動画を撮影して体験談を語ってもらうなど、記憶のデジタル化が進められている。

 また「holohoax(ホロコーストはでっち上げ)」のように明らかにホロコーストを否定するような用語や表現は、すぐに検知されるが、隠語や仲間内でしかわからない造語などで書かれたホロコースト否定論のページや議論に関する投稿も多くなっている。そのような隠語を使われた投稿を検知して削除することも容易ではなく、ホロコースト否定論を支持する人たちとのいたちごっこはこれからも続きそうだ。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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