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1試合24三振を喫したプロチームって意外と日本人に縁がある

横尾弘一野球ジャーナリスト
2011年にタンパ・ヤンキースでプレーするアレックス・ロドリゲス。(写真:ロイター/アフロ)

 今では先発をする度に大きな注目を浴びている佐々木朗希(千葉ロッテ)は、完全試合を達成した4月10日のオリックス戦で、1試合19奪三振のプロ野球タイ記録と13連続奪三振の新記録もマークした。高校野球など、実力差のあるチームが対戦したのならともかく、鎬を削るプロの世界でこうした記録を樹立してしまうことが、佐々木朗の無限の可能性も示していると言っていい。

 同じように、大谷翔平(ロサンゼルス・エンゼルス)が二刀流でファンを沸かせているアメリカでも、俄かには信じられないような記録がマークされた。現地時間5月14日に、A級フロリダ・ステイト・リーグのダンイーデン・ブルージェイズ(トロント・ブルージェイズ傘下)がタンパ・ターポンズ(ニューヨーク・ヤンキース傘下)を相手に達成した1試合24奪三振だ。

 TDボールパークで午後6時31分に開始された試合、ダンイーデンの先発は23歳の右腕ニック・フラッソ。タンパのアレクサンダー・バルガスを3球三振に仕留めると、ジェイソン・ドミンゲス、アンソニー・ガルシアも1ボール2ストライクから空振りさせ、3者連続三振で立ち上がる。

 フラッソは、2回表二死から六番のグラント・リチャードソンに中飛、3回表二死から九番のロベルト・チリノスに三塁内野安打を許したが、3回を1安打で8三振を奪うと、昨夏に右ヒジの手術を受けたため、大事を取って19歳の右腕ダイアン・サントスにマウンドを譲る。

 そのサントスが、7回までに1安打3四球を許しながらも10三振を奪うと、24歳の長身左腕ブレイドン・スコットが8回から2四球を与えるも6つのアウトはすべて三振で奪い、3投手のリレーで24奪三振を達成。メジャー・リーグ公式サイトでは、2005年以降ではマイナー・リーグの新記録だと認めた。ちなみに、メジャー・リーグでは1試合20三振が7回マークされているという。

 フラッソが100マイル(約161キロ)を叩き出すなど、ダンイーデンの3投手にスポットライトが当たるのは当然だが、大記録を打ち立てられてしまったタンパ・ターポンズとはどんなチームなのだろう。

キューバ黄金時代のキャプテンが守備コーチを務める

 1994年に、タンパ・ヤンキースとしてフロリダ・ステイト・リーグに加盟。レジェンズ・フィールド(現ジョージ・M・スタインブレナー・フィールド)が開場し、西武から前田勝宏が移籍した1996年には、トレイ・ヒルマン(元・北海道日本ハム監督)が指揮を執って西地区1位の成績を収めている。その後、1997年には伊良部秀輝、2007年には井川 慶がプレー。アレックス・ロドリゲスや松井秀喜ら、スター選手もケガから復帰する際には何試合かプレーしており、2013年のMLBドラフトでヤンキースから2位指名された加藤豪将は2017年シーズンをこのチームで過ごしている。

 今年1月9日には、レイチェル・バルコベックが監督に就任した。自身は大学までソフトボール選手で、運動学などを修めて2012年にセントルイス・カージナルス傘下でストレングス・コーチに。そして、2019年からヤンキース傘下で打撃コーチや育成シニアディレクターを歴任し、今季から指揮を執ることになった。MLB傘下の球団で、女性が監督を務める初の事例であり、大きな話題となった。チーム成績は、5月22日までに17勝21敗で6チーム中4位と奮闘している。

 また、守備コーチを担当しているのはアントニオ・パチェコだ。キューバ代表の黄金時代だった1990年代に五番セカンドで活躍し、キャプテンも務めていたのを覚えている野球ファンは少なくないだろう。2002年から3年間は社会人のシダックスでプレー。その後はキューバ代表監督も務めたが、それ以上のキャリアを積むことができないと亡命し、2015年からはヤンキース傘下で守備を指導している。現役時代は打撃面でもパンチ力と勝負強さを兼ね備えていただけに、24三振を喫した試合には「呆れたよ」と本音を漏らしていた。

 ただ、この試合では4三振だったものの、20歳の遊撃手バルガスと19歳の外野手ドミンゲスの一、二番コンビは、近い将来のブレイクが期待されている。ともにスイッチヒッターで足もあるだけに、今後の成長が楽しみだ。そして、24三振を喫しても、タンパで登板した3投手はダンイーデンを7安打、三番キャメロン・エデンのソロ本塁打による1失点に抑えている。女性指揮官のチームが、今後どういう戦いを展開していくのかも興味深い。

 ちなみに、愛称のターポン(tarpon)とは、食用よりはスポーツ・フィッシングの対象として知られている大型肉食魚だそうだ。

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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