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名将ジェイク・ホワイト、トヨタ自動車で新人をキャプテンにしたわけは?【ラグビー旬な一問一答】

向風見也ラグビーライター
ジョーンズ(左)との二人三脚で世界一となったホワイト監督(右)(写真:ロイター/アフロ)

 ラグビーの南アフリカ代表を率いて2007年のワールドカップフランス大会を制したジェイク・ホワイトは、今季から日本のトヨタ自動車の監督を務める。

着任早々に新人選手をキャプテンに据えるなど、チーム改革に着手。そのキャプテンを任された帝京大学出身の姫野和樹は、その姿を「ラグビーの話をしているときに目が輝いていて、ワクワクする気持ちにさせてくれる」と見る。

 教師出身のホワイト新監督は、2004年と2007年にIRB(現ワールドラグビー)の年間最優秀コーチ賞を受賞。スーパーラグビー(国際リーグ)のブランビーズ、シャークスでも手腕を発揮し、今年6月まではフランス1部リーグのモンペリエで指揮を執っていた。

 南アフリカ代表監督時代は、現イングランド代表ヘッドコーチのエディー・ジョーンズをアドバイザーに据えて世界一に輝いた。ちなみに2015年のワールドカップイングランド大会の予選プールでは、そのジョーンズが指揮する日本代表が南アフリカ代表を撃破している。

 8月7日、国内最高峰トップリーグのプレスカンファレンスに参加したホワイト新監督は、共同取材で熱く具体的なフレーズを発露。過去に日本選手権優勝3回も近年はトップリーグ中位に甘んじるチームを、一気に激変させると宣言した。

 以下、共同取材時の一問一答の一部(編集箇所あり)。

――目標は優勝か。

「はい。傲慢な態度で言うつもりはありませんが、だれもがそれを目指しているはずです。(カンファレンスの壇上に掲げられた優勝トロフィーを見て)自分の仕事は、あのトロフィーを取るために自分たちのチームを準備させること。それができないなんて言ったら、ここで仕事をする意味もない。私の仕事は人をインスパイアさせ、トヨタ自動車の従業員を駆り立て、トヨタをトップクラブなのだと思わせること。サントリーは一昨季9位で、昨季優勝。彼らがしたようなことを我々がやることだって、できますよね」

――トヨタ自動車は最近、健闘するも優勝には届いていない。選手の心構えマインドセットを変えるのは難しいのでは。

「難しい。ただ、例を挙げると、連覇が始まってからの帝京大学(大学選手権8連覇中)の選手が5人いて、2007年のワールドカップで優勝したジュアン・スミスがいる。勝ち方を知っている人間はいます。彼らと他の人間をジョイントさせることが必要です。

 荒木香織さんが、今年からチームについてくれました(元日本代表メンタルコーチ。取材を総合すると、トヨタ自動車では月に数日間チームに帯同)。荒木さんはメンタルタフネスについて、選手に対して働きかけてくれる。いろんな方法を使って、そこに向かっています。選手のこれまでのマインドセットをどう変えるか。その質問こそが、トヨタ自動車がしなくてはならないこと、いまの私たちがチャレンジしていることです」

――荒木さんを呼んだ経緯は。

「チームのコンタクトを使って、です。すごく、よくやってくれています。日本人選手にも、外国人選手にとってもいい。彼女は英語が堪能です。非常にいい態度、振る舞いをしてくれます」

――ワールドカップイングランド大会の日本代表をサポートした人。

「だから、一緒にいるんです。エディーさんは細かいことに気を配る方。彼にとって、彼女はとても大きな存在だったと思います。彼女がジャパンで培った経験は、トヨタ自動車にとっても大きいです。

 彼女の力を借りながらもトヨタ自動車が変わったことを、見せたい。チームには5人、コーチがいます。日本代表だった難波秀樹(アシスタントコーチ)、ジョン・マグルトンはディフェンスを(ディフェンス・ブレイクダウンコーチ)。ニック・スクリプナーは元オーストラリア代表のバックスコーチ(役職名はアタック・リスタートコーチ)。タイ・マクアイザック(セットピースコーチ)は豊田自動織機、クレイグ・スチュアート(カウンターアタック・スキルコーチ)は帝京大学にいた人で、2人とも日本語が堪能。完璧なバランスです。日本語を話すコーチは3人で、英語だけを話すコーチも(自身を含め)3人。これから、試合に関する細かいことを落とし込んでいけると思います。とても良いコーチングスタッフを持っていて、香織さんがいる。これを選手たちに見せると、『進化のチャンスを与えられたんだ』と思うはずです」

――キャプテンが新人の姫野選手。これも変化の象徴か。

「彼は帝京大学で4年間、優勝しています。負けを知らない人間が、キャプテンです。ベストプレーヤーだけを並べて勝てるのであれば誰もがそうしていますが、そうではない。イングランド大会の日本代表を例に挙げます。彼らは、変わらなくてはいけなかった。何かが変わらなければ、彼らは(状況が)理解できなかった(2012年にエディー・ジョーンズがヘッドコーチに就任。猛練習を課した)。そして、スプリングボクス(南アフリカ代表)に勝ちました。スポーツとは、そういうものです」

――過去の優勝トロフィーを、見えない場所にしまったと。

「あれはもう大昔にとったものです。あの、(トップリーグ)トロフィーが欲しいです。おそらく、トヨタ自動車にいる人間の50パーセントは、あのトロフィーを見たこともない。毎朝5時半に起きて、トレーナーにプッシュされて、会社の仕事を終えて、練習して、8時に寝る。それでも、あのトロフィーを観たことがないという人が50パーセントもいる…。もう、あのトロフィーを借りたいぐらいです」

――モンペリエで仕事をしている間も、トヨタ自動車へはコミットしていたのですか。

「はい。リクルート(戦力補強)の件も含めて。実は、5月に1度来日したのですが、クラブハウスのなかを変えたり、専務とお会いしたりと、準備がすべてうまくいっているかを見ました」

――先ほどお名前を挙げた新加入のジュアン・スミス選手は、現在36歳。いかがですか。

「伝説の男です。南アフリカ代表70キャップ(国際真剣勝負への出場数)を持ち、ワールドカップ優勝2回。その前に(当時の)21歳以下代表としてジュニアチャンピオンシップでも勝っています。トゥーロンでは3回、フランス王者になって、2回、ハイネケンカップ(欧州王者決定戦)を制しています。どれだけの経験を彼が持っているかは、一目瞭然です。トヨタ自動車に来る外国人選手には、日本人選手の成長の礎になって欲しいです。単にいいプレーをしてキャリアを終えるつもりの人は、要りません。姫野が『彼から色々と学んでいる』と言っていました。それは、ジュアンの来た意味を有言実行してくれているということ。嬉しかったです。

 ジュアンは、昔のトヨタを象徴、体現してくれる人でもあります。タフで、あまりしゃべらずとも皆が彼の存在を感じる。何も言わずとも、彼がどんな人間かがわかる。宗雲克美さん(現部長)、高橋一彰さん、大藪正光さんと、87年の日本選手権で勝ったOBもいますが、そこに、立ち返ってゆきたいです」

 南アフリカ代表とトヨタ自動車の伝統的な長所は、身体のぶつけ合いへの強さという点で一致。またトヨタは世界的企業が保有するチームとあって、おもに中部地区出身の有望選手を勢ぞろいさせている。さらなるステージアップのためのサムシングを加えるのが、世界的名将のホワイトなのだ。ある選手は「ラグビートレーニングの合間にフィットネスを交えたりと、去年よりもきつい練習をしている」と証言する。

 関わるチームの歴史を把握しながらプランを構築し、選手にハードワークを課す手法は、ジョーンズのそれと類似している。成果は現れるか。

 8月18日のトップリーグ開幕節では、五郎丸歩を擁するヤマハと激突する。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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