世界記録樹立で賞金20万円!多様性をひき出す、第1回NAGASEカップ・パラ陸上が東京でスタート!
400mT63の世界記録樹立で賞金20万円!
駒沢オリンピック公園総合運動場陸上競技場(東京都)で7月3日、第1回WPA公認NAGASEカップ パラ陸上競技大会(2日目)が開催され、公認女子400m T63で保田明日美が1:21.50で自身の世界記録を更新し賞金20万円を獲得した。
この種目はパラリンピックにはないがNAGASEカップで競技の機会ができたことにより価値が育まれた。世界的にも障害のある女性アスリートが少ないなか、挑戦者の獲得へつながることを期待したい。
多様な挑戦を促すNAGASEカップ
大会は「日本陸連公認の部」と「パラ公認の部」からなるインクルーシブな大会で、パラリンピックのクラス分けをもつ選手などのほか、日本陸連に登録する中学生以上の選手が障害の有無にかかわらずエントリーした。
車いすはパラ公認の部のみとなったが、義足や義手、視覚障害、知的障害の選手が障害のない選手とともにスタートラインに並び、試合に挑んだ。
右膝下切断で義足を使用する井谷俊介(SMBC日興証券)は、
「普段国内では味わえないトップレベルの選手と走るような感覚になった。引っ張ってもらえるレースだったと思います。これまで健常者の日本選手権に参加させてもらう機会があり、そこで陸上ファンがパラリンピックファンに変わる瞬間もあり、都度ありがたく思っていた。一緒に走れば、パラリンピックを見ているだけじゃなく、一緒に走ったあの選手だ!と、応援にも力をいれてもらえます」と、競技後のミックスゾーンで取材陣に語っていた。
世界チャンピオン佐藤友祈は100mに挑戦
昨夏の東京パラリンピックでは出場2種目で金メダルを獲得し、4つの世界記録を持つ車いすT52の佐藤友祈(モリサワ)は、期待された400mでの世界記録更新はなかったが、東京パラ後これまで出場していなかった100mに挑んでいた。100mでは、大矢勇気(D2C)と上与那原寛和(SMBC日興)が佐藤より上に位置している。
「モチベーションはめっちゃあります。国内にぼくより速い選手が数人いるので、その選手たちを超えなくてはいけない目標があることは嬉しい。追われるのは大好きなんですけど、追っかけるのもワクワクします。100mがこんな楽しいとは!400mで世界記録を更新するためにも100mで力をつける必要がある。しっかり調整して伸ばしていきたい」と、意欲を語った。
陸上の村岡桃佳へ。夏・冬スイッチ
今年3月の北京パラリンピックで日本選手団主将を経験し、女子チェアスキーで金メダル3個、銀メダル1個を獲得、金メダルも過去最多の4個を数える村岡桃佳(トヨタ自動車)は、すでに陸上モードに切り替わっていた。半年の間に2つのパラリンピックを終えた村岡は迷うことなくトラックに戻ってきたようだ。
今大会、水泳から転向し初出場する一ノ瀬メイへの一言を依頼すると「水泳とはまったく異なる世界だと思うが、陸上競技の空気感を味わい楽しんでほしい」と言葉をくれた。
自国開催のパラリンピックから1年を迎えようとする東京で、昨年は自国開催があるのかないのか不安な日々を過ごした選手たちは「もはや何が起きても驚かない」精神の成長といえる強さを感じさせてくれた。
一ノ瀬メイ・水のプリンセス陸に上がる。
「スターティングブロックを設置したり、足が追いつかなくてコケるかと思いました!」
取材陣にありのままを表現した25歳の一ノ瀬メイ。
2013年アジアユースパラ競技大会(クアラルンプール)から日本を代表するパラスイマーとしてパラリンピック、アジアパラ、世界選手権と活動してきた。昨年10月、水泳引退を表明し、ヨガ、映画出演やYouTube発信などあらたな活動を始めていた。
「12年前、アジアパラ(仁川)の時に(走り幅跳びの)山本篤選手に陸上やらない?って誘われましたが、水泳日本代表だったので、何言ってるんですか(山本)篤さん!て。でも水泳引退して先日、水泳引退したんでしょ、そろそろ陸上に来ない?とまた誘ってもらえて、私自身引退してからは運動もせずゆっくりしてたんですけど、フィジカルもメンタルヘルスのためにもまた運動したいなと思っていたので、チャレンジしようかなと思って今日走ってみました。自分がどういうふうにできるか。(山本)篤さんもいろんなスポーツをやっていてインスパイアされた」
ーー今後の目標は?
「長期的な目標は立てていません。何年も先の目標を立てて取り組むということは水泳でやってきました。陸上では逆算ではなくて積み上げる形で取り組んでいけたらと思います。100mから取り組んで200mにも取り組んでいけたらと思います」と話す一ノ瀬。西京極の総合運動公園で週2回、指導者もなく一人で練習しているという。
「タイムが上がればパラリンピックを目指したくなるかも知れないが、発信活動と自分のプライベートを境界線をなくやっていき、シンプルに楽しみたい。やるからにはタイムを出したいのて練習は真剣にやりたい」
YouTubeなどで発信活動にも力を注いでいる一ノ瀬は、自分と同じ手足が短かい本人や家族からメッセージを受け取る。
ショックを感じたり、まだまだいやな思いをしている人がいて、やるべきことがまだまだあると考えている。「パラアスリートの存在も大きいと感じる」と話し、引退を経験したことで客観的にパラリンピアンの役割を自覚できるようになったようだ。
ーーNAGASEカップについて一言
「NAGASEカップはパラとそうでない選手が出られる貴重な機会。水泳の引退前オーストラリアに拠点を置いていましたが、オーストラリアではジュニアのときからそうした環境が当たり前で、(日本のように)わざわざテレビで報道しなくても身近にパラの選手がいて、一緒に育っていける。(共生社会が)浸透していく一番の鍵なのかなと思います。
わけて試合したり、学校も分けて教育をして、大人になってからメディアで見て(多様な人と)交わるって難しいと思う。小さい時からコミュニティで、地域で、もっともっと試合もするようになれば、わざわざあとから理解したり、教育したりとかしなくてよくなる。もっとこういう大会がふえたらいいと思います。
自分のデビュー戦がこういう大会になったのはすごくありがたいなと思っています」
ーー水泳と全く違う陸上の空気感を感じたか?楽しめそうか?
「重力を感じない水泳とは使う筋肉も全く違う陸上。水泳は息継ぎの時しか声援が聞こえないので、ずっと聴こえるのは新鮮。試合に出ますといった直後から、本当に皆さんからのウエルカムを感じた。いい意味で緊張感なく試合に到着することができた。いい雰囲気で、好きですね。楽しさを守り抜きたい!」
また「水泳選手の頃はルーティンのなかで生活して、コミュニティもあったが、辞めた時それらがなくなった。走るということで、新たなルーティンやコミュニティを見つけたい」と話していた。
今は背負う企業もなく、個人で練習、大会に出場している。自分も社会もつねに自然体でありたいと願う一ノ瀬。(実は)山本篤からのお下がりというお守りのスパイクを履いて走った。
<参考>
山本篤=パラリンピック走り幅跳び銀メダリスト。
オフィシャルサイト
第1回WPA公認NAGASEカップ パラ陸上競技大会
オフィシャルサイト
https://www.nagase.co.jp/nagasecup/
(写真取材:秋冨哲生)
この記事は2022年7月4日パラフォトに掲載されたものと同じ内容です。