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注目の海外大型オリジナルドラマの敏腕プロデューサーが語る。中島健人の演技から急遽生まれたシーンとは?

水上賢治映画ライター
「コンコルディア/Concordia」メインビジュアル

 Huluにて日本独占配信がスタートした「コンコルディア/Concordia」(11月8日(金)より毎週金曜新エピソード更新/全6話)は、ドイツの公共放送局「ZDF」、中東のメディア企業「MBC」、フランスの国営放送局グループ「France Televisions」、そして日本の「Hulu Japan」が参画して製作された大型海外ドラマだ。

 はじめに物語の概要に触れると、タイトルの「コンコルディア」とは、カメラとAIに生活のすべてをモニタリングされたコミュニティのこと。

 「コンコルディア」が目指すのは、カメラとAIによって人々の行動を把握し、犯罪や危機をいち早く察知し未然に防ぎ、自由で公正で安全な人間らしい社会を築くことにある。

 ただ、このシステムは完全なる監視でプライバシーの侵害と警鐘を鳴らし、反対する人々も大勢いる。

 賛否が渦巻く中、かつて起きた悲劇的な銃撃事件が今も暗い影を落とすスウェーデンの町、スカレアが「コンコルディア」に生まれ変わることになる。

 ところがその矢先、起きないはずの殺人事件が発生。しかも殺害された人物はコンコルディアの分析官でありながら、第三者の情報を不正閲覧していた上、住民の私的なデータを「コンコルディア」に異を唱える反対組織「フェイスレス」に渡していたことが発覚する。

 完璧にモニタリングされた町で、人々の安全と自由はほんとうに守られるのか?

 危険を察知して重大事件を未然に防ぐことはできるのか?人々のプライバシーは脅かされないのか?監視・管理された社会の行きつく先は?

 様々な立場にいる人間のそれぞれの思惑が見え隠れし、社会の人間のモラルを鋭く問う、見ごたえあるドラマが展開していく。

 手掛けたのは「ゲーム・オブ・スローンズ」や「ROME」(前編)、「THE SWARM/ザ・スウォーム」など数々の世界的な人気ドラマを生み出してきた敏腕プロデューサー、フランク・ドルジャー氏。

 国際共同製作で世界からキャストを集めて作られた本作はいかにして生まれたのか?

 世界のエンターテインメント業界を舞台に第一線で活躍し続けている彼に訊く。全五回/第五回

「コンコルディア/Concordia」より
「コンコルディア/Concordia」より

国際共同制作のドラマのキャスティング決めは、

大変なことですけど、僕はひじょうに楽しみにしている

 前回(第四回はこちら)ここまで本ドラマについていろいろと話を聞いてきた。

 最後はキャスティングについての話を。

 国際共同制作のドラマならではといっていい世界各国の俳優が顔を揃えている。

 世界各国の俳優をキャスティングボードに挙げて決めていくことはエキサイティングだろうなと思いつつ、けっこう大変なことと想像されるが実際はどうだろうか?

「たしかに多くのリストに目を通さないといけないので大変なことではあります。

 でも、わたし自身は楽しみが上回っています。

 なにが楽しいのかというと、やはり新たな俳優との出会いです。

 たとえば、いままで自分が起用したことのない国の俳優をキャスティングすることになったとします。

 となると当然、いままで見たこともなければ、まったく名前も知らない俳優たちと会うことになる。

 ただ、これが新鮮で、こんな役者がいるんだとか、すごい才能の持ち主だとか、必ずすばらしい出会いがあるんですね。

 だから、大変なことですけど、わたしはひじょうに楽しみにしているところがあります」

「コンコルディア/Concordia」より
「コンコルディア/Concordia」より

最高のキャスティングって狙ってできることではないんです

 では、国際共同制作のドラマでのキャスティングで、何か考えることはあるのだろうか?

 配役については、どのような考えのもと、決めていくのだろうか?

「国際共同制作であっても、それ以外であっても特別になにかを意識して決めることはわたしの場合はないですね。

 決めていく過程は、わたしの場合、キャスティングはパズルのようなところがあって。

 たとえばAという役がきまるとする。すると、次のB役はこの人にしてすAと顔を合わせると、なにか面白いことが起きるんじゃないかと思って、彼にする。

 さらにこのAとBと対峙するCの役は、じゃあこの俳優がいいかなと。こんな風にピースをはめこんで決めていって最後に一枚の絵になるような感じなんです。

 なかなか言葉で説明しづらいのですが、ひとり決まるとなんらかの影響を受けて、その影響で次はこの俳優でと決まっていく。

 もちろん、そこにはオーディションで俳優が出してくれたものから、わたしが受け取ったものが深くかかわっていて。

 その受け取ったものをもとに、この俳優とこの俳優を合わせたらおもしろいものが出てくるんじゃないかと想像するところはあります。

 そういう形で進めていって、最終的に決断するときは、自分の選択が正しいと思って、この役にはこの人しかいないと、その俳優を指名します。

 まあ、ただ、そのようにして、ひとりひとり決めていって、最後にすべての配役が決まるわけなんですけど、その時点では未知数なんです。

 その時点では、自分では最高の形になったと思っている。けれども、実は、それが最高なのかどうかは実際に撮影に入ってみないとわからない。

 自分の経験から言うと、成功したキャスティングというのは、役者やスタッフの力うんぬんだけではなくてちょっとした幸運も必要。ちょっとしたラッキーが舞い込んだときに、奇跡的なキャスティングになる。つまり最高のキャスティングって狙ってできることではないんです。

 だから、すばらしいキャスティングが組めたと思うのだけれど、そのことで一喜一憂することはないです。むしろわたし自身が大事にしているのは、キャスティング後の次のステップです。

 それは現場に立った俳優たちがどのような演技をしてどのようなものを出してくれるのか。そのことを最も大事にしています。

 できるだけ彼らが最大限のポテンシャルを発揮できる場を作るようにして、思う存分にその力を発揮してもらう。

 そして、彼らがもたらしてくれたものを見逃さずに確実にキャッチして、それに対してフレキシブルに対応して、作品をよりよいものにする。そのことが俳優にもいい影響をもたらして、よりよいキャリアへとつながっていく。

 そのような好循環を生み出すことを願っています。

「コンコルディア/Concordia」より
「コンコルディア/Concordia」より

 今回の現場で例を挙げますと、中島健人さんが演じるA・J・オオバが上層部のトップシークレットの情報をパソコンで見てしまうシーンがある。

 あの表情を現場で見たときに、すごく興味深くて、もう少し彼のことを見てみたいなと思ったんです。

 それで急遽、新たなシーンを加えることになりました。

 その後に続く、オオバがトイレにって鏡で自分の顔を見つめるシーンです。

 このシーンは当初、脚本にはなかった。

 中島さんの演技がもたらしたシーンになります。

 トップシークレットの情報を知ってしまった人間の戸惑いや恐れ、この情報と自分はどう向き合えばいいのかというオオバの心の揺らぎが伝わってくるひじょうに印象深いシーンになっているのではないでしょうか?

 きっと中島さん自身の心にも残っていると思います。

 ですから、キャスティングはもちろんその役にフィットした人を選ぶことも大事なのだけれど、わたしは、その次のステップ、その俳優にいかに最高のパフォーマンスをしてもらうかの方をより重要視しています」

(※本インタビュー終了)

【「コンコルディア」フランク・ドルジャープロデューサー第一回】

【「コンコルディア」フランク・ドルジャープロデューサー第二回】

【「コンコルディア」フランク・ドルジャープロデューサー第三回】

【「コンコルディア」フランク・ドルジャープロデューサー第四回】

『コンコルディア/Concordia』キービジュアル
『コンコルディア/Concordia』キービジュアル

Huluオリジナル『コンコルディア/Concordia』

Huluにて独占配信中(全6話)

公式サイト https://www.hulu.jp/static/concordia/

写真はすべて(C)Hulu Japan

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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