「狭い店はうまい」の法則に嘘なし。繊細で力強い、いぶし銀の焼鳥に舌鼓【酉の/東京】
今回、冒険するのは東京・荻窪の「酉の」。中央線沿いの数ある駅のなかでも、荻窪界隈は焼鳥屋が多いイメージがある。それも、ちょっと個性的な個人店の。北口の再開発が進む一角にもそそられる焼鳥屋がある。目印は、美しく整った杉玉。やや急な階段を登れば、そこが「酉の」だ。
地鶏と野菜、掛け合わせの妙
大通りに面しているものの、ひっそりと。狭く伸びた階段が物語るように「酉の」の箱は大きくない。2階は小さなカウンター。3階はテーブル席のみ。それでいて、青森シャモロックに熊野地鶏、阿波尾鶏といった地鶏を使うこだわりようだ。
この日は串をしっかり食べたいこともあり、一品料理を交えたフルコースよりもセット気分。まずは焼鳥7本から。もちろん、追加する気満々。まずは、前菜3種盛りを肴にビールをくいっと。
さぁ、期待の1本目は地鶏のネタとしては王道の抱き身(むね肉)から。ただ、よくある抱き身とは違う。むね肉とむね肉の間に挟まれているのは、ねぎではなくズッキーニ。いわゆる〝ズッキーニ間〟といったところ。
ひと口めにむね肉。ふた口めにズッキーニ。これがまた絶妙に合うわけで……。パリリッと焼き上げられた皮目。その脂を吸ったズッキーニを口に含めば、ふくよかな甘みが駆け巡っていくよう。
むね肉もしっとりとやわらかく、言うことなし。ズッキーニ好きにも、これはたまらないはずだ。
続いてはぼんじり。これも玉ねぎを挟んでいるが特徴的。「玉ねぎを挟むのは西日本の焼鳥屋に多いですね」と店主の千葉さんが微笑んだ。
ぼんじりは脂をしっかりと蓄えている部位。その脂の後味を、みずみずしい玉ねぎが爽やかにリセットしてくれる。んん。これは理にかなった1本。
さらに、せせりに挟んだのはパプリカ! プリッとしたせせりと、サクッとしたパプリカの食感の妙。ひと口目に一緒に味わえるよう打たれているのがまたニクい。
抱き身やぼんじりとはまた異なる「間」のアプローチ。五感が刺激される3品にぐっと心を掴まれる。
「酉の」に来たなら、大信州
ちなみに、「酉の」は日本酒への思いも人一倍強い。とくに、長野県の地酒「大信州」の品揃えといったらない。それだけでも8~10種はあるだろうか?
もちろん、他県の銘柄も揃っているわけで。さぁ、日本酒気分。どれを飲もうかと思いあぐねていると……「大信州の飲み比べ、してみますか?」と千葉さん。
お、これは願ったり叶ったり。用意されたのは「あらばしり」「中汲み」「責め」の3種。フレッシュな「あらばしり」や濃厚な「責め」もいいのだけれど、純粋に日本酒のうまみを求めるなら、やっぱり「中汲み」だ。こういう楽しみ方ができるのも、きっと「酉の」の魅力。
「つくねがうまい」はいい店の証
串も後半戦。濃厚な背肝(腎臓)を挟んで現れたのは、タレを絡めたつくねと、半熟のうずらの玉子。とくに、つくねは目を見張るほどの仕上がり。もしもセットやコースに入っていなかったら、絶対に追加したいところ。
複数の地鶏の上もも、ふくらはぎの肉をバランスよく配合し、ふっくらと。これは、うまい。牛肉のハンバーグを軽く超えるうまみの濃さ。うーん。これなら、いつまでも味わっていたい。
しかも、つくねとうずらの玉子を交互に食べれば、うまみもコクも倍増するというもの。この2本出し、たまらない。
7本セット最後のネタは、手羽。地鶏だけあって、皮はバリッと。肉がギュッと力強い。串から外してアツアツのうちに頬張るだけだ(こういうネタは外してもいいと思う)。
この力強いネタで終わりにしてもよいのだけれど、どうしてもあのネタがもう一度食べたい……。そう思わせてくれたのは、やっぱりつくねだった。
「次は塩でいきますか?」と千葉さん。
いやぁ、最高。この地鶏のもも肉のうまみを詰め込んだつくねなら、塩でも間違いなくうまいはず。その予想はもちろん的中。よりシンプルに鶏肉のうまみが味わえる。つくねがうまい店に、ハズレ無しだ。
「酉の」の串は全体的に小ぶりではあるのだけれど、いやいや、満足度は高い。それは主役の地鶏を際立たせてるような野菜使いだったり、思わず追加したくなるようなつくねだったり。
地力のある店というのは、こういうこと。荻窪の小さな隠れ家、知っておいて損なし、だ。
〜冒険のおさらい〜
①地鶏と野菜の掛け合わせの妙
②思わず追加したくなるつくね
③「大信州」など日本酒が充実
店舗情報
【店名】酉の
【最寄り駅】荻窪駅
【住所】東京都杉並区上荻1-6-11
【予約】03-5856-2070
【定休日】不定休
【串のアラカルト】なし
【鶏メモ】青森シャモロック、熊野地鶏、阿波尾鶏など