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織田信長の伝記『信長公記』は、本当に信頼していい史料なのだろうか

渡邊大門株式会社歴史と文化の研究所代表取締役
織田信長。(提供:アフロ)

 大河ドラマ「どうする家康」に登場する織田信長の基本史料は、『信長公記』である。よく聞く史料であるが、本当に信じていい史料なのか、考えることにしよう。

 太田牛一の『信長公記』は、織田信長の基本史料の一つである。活字化もなされており、広く活用されている。著者の太田牛一は、信長の馬廻衆(弓衆)として仕えていた人物である。信長よりも7歳年上で、文筆にも優れていた。

 『信長公記』は、牛一が間近で信長を観察し、その姿を覚書風にまとめたものだ。慶長15年(1610)までには完成させたといわれているので、信長の死後から30年弱で成立したのである。

 『信長公記』は『原本信長記』という本記があり、永禄11年(1568)から天正10年(1582)までの15年間を記録していた。各年がそれぞれ1巻となっており、全15巻で構成されている。

 自筆による原本は、池田家本(岡山大学池田家文庫所蔵)のほかに、複数伝わっている。また、多くの写本が伝わっており、研究の際はそれぞれを突き合わせて用いられることが多い。

 牛一が『信長公記』を執筆した態度は、「私作、私語に非ず」という客観的な姿勢だった。それゆえに良質な編纂物として史料的な価値も高いが、二次史料であることには変わりがない。全面的に依拠するのではなく、一次史料と照合して用いるべきだろう。

 ところで、『原本信長記』には、のちに首巻として信秀・信長2代の動向を付け加えた『信長公記』16巻がある。しかし、この首巻部分は、問題があると指摘されている。というのも、首巻部分には月日が記されているが、年紀を欠いているからだ。

 晩年の牛一は、自身の記憶や他人からの伝聞を頼りにしたので、このような形になったのだろう。年代が前後したり、内容が重複したりした箇所もあり、不完全という印象が残る。写本が成立する過程で、誤った年代や記述が記された可能性もあろう。

 しかし、『信長公記』は重要な史料なので、現在では書誌学な検討が進められている。活字本は品切れ状態になっているので、以後の研究成果を踏まえた刊行をお願いしたい。

株式会社歴史と文化の研究所代表取締役

1967年神奈川県生まれ。千葉県市川市在住。関西学院大学文学部史学科卒業。佛教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。現在、株式会社歴史と文化の研究所代表取締役。大河ドラマ評論家。日本中近世史の研究を行いながら、執筆や講演に従事する。主要著書に『蔦屋重三郎と江戸メディア史』星海社新書『播磨・但馬・丹波・摂津・淡路の戦国史』法律文化社、『戦国大名の家中抗争』星海社新書、『戦国大名は経歴詐称する』柏書房、『嘉吉の乱 室町幕府を変えた将軍暗殺』ちくま新書、『誤解だらけの徳川家康』幻冬舎新書、 『豊臣五奉行と家康 関ヶ原合戦をめぐる権力闘争』柏書房など多数。

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