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「クォータ制」で真の女性活躍は進むか?その功罪を考える

やつづかえりフリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)
(写真:アフロ)

(本記事は、2018年3月に『ビヨンド』に掲載した内容を、一部編集の上で投稿しています)

女性の活躍しやすさを表すランキングで軒並み下位の日本

3月8日は国際女性デー。イギリスの経済誌『Economist』は、毎年この時期に「ガラスの天井指数(The glass-ceiling index)」というランキングを発表している。

これはOECDに加盟する29の先進国を対象に、女性の活躍のしやすさを、教育、職場における男女格差、子育て支援などの観点から数値化したものだ。日本は28位で、韓国に続くワースト2位となった。

男女格差の状況を捉えたものとしては「ジェンダーギャップ指数」(世界経済フォーラム)が有名だが、2017年11月に発表されたデータで日本は144カ国中114位。2015年に101位、2016年に111位ときて、過去最低を更新した。この手のランキングでは、日本は常に成績が悪いのである。

「機会の平等」に恵まれ、「結果の平等」が得られていない日本の女性

「ジェンダーギャップ指数」の詳細をみると、スコアを判定する4つの分野における日本の順位は以下のとおり。

 健康:1位

 教育:74位

 経済:114位

 政治:123位

「健康」で1位は誇らしいようにも思えるが、実は1位の国は34カ国もある。この調査で見ているのは健康の質ではなく、あくまで男女差である。健康や医療面でのケアを受けるのに「女性だから不利」ということがないのは、先進国では当たり前なのだ。

「教育」も1位の国が27カ国あり、74位の日本は特に良い成績とはいえない。さらに詳細を見ると、識字率、初等教育、中等教育については日本でも男女平等が実現しており、高等教育の在学率の男女差が順位を落とす原因になっている。

とはいえ、日本の女子の大学進学率は長期的には上昇傾向だ。「女子だから」と進学を諦めることのないよう、さらに進学率を伸ばしていくことも重要だが、問題は「同じ教育を受けた男女が社会に出たとき、同じように活躍できているか?」という点だろう。それが、「経済」や「政治」の分野での低スコアにつながっている。

ちなみに、先に挙げた「ガラスの天井指数」でも1つだけ日本が1位を獲得した指標がある。それは「有給で取得できる父親の育児休暇の期間」だ。でも、これはあくまで制度上の期間であって、実際に男性が育休をとり、その妻が社会で活躍することを後押しできているかというと、まだまだということは皆さん御存知の通り。日本の父親の育休取得率は3.16%に過ぎない。

日本では、女性が活躍するための「機会の平等」はそれなりに整備されてきたが、実際に活躍するという「結果の平等」につながっていないのだ。

「結果の平等」を実現するクォータ制とは

「結果の平等」を実現する有効な施策として諸外国で採用されているのが“クォータ制”だ。

クォータ(quota)は「割当て、持ち分、分担」などを意味する言葉で、もともとは政治の意思決定に関わるメンバーに男女の偏りが出ないようにする制度として登場した。

これを最初に導入したのはノルウェーで、1988年に改定された男女平等法で「公的委員会・審議会は4名以上で構成される場合、一方の性が全体の40%を下ってはならない」と定めた。また、主要政党のほとんどがそれ以前から自主的にクォータ制を導入している。具体的には、比例代表名簿に男女交互に候補者を登録し、男女の当選数を同等にする、といった方法が取られている。

政治の分野におけるクォータ制は世界に広がり、憲法や法律で定める方法と政党による自主的な運用とを合わせると、導入国は130カ国に上る(2018年3月時点のInternational IDEAのデータベースによる)。

例えばジェンダーギャップ指数で4位、列国議会同盟(IPU)による「女性議員の割合ランキング」で1位のルワンダ共和国は、国会議員のうち61.3%が女性だ。これは、同国が憲法と法律で国会議員の30%以上を女性とするよう定めていることが大きい。

最近では民間分野においてもクォータ制導入の動きが出てきている。ノルウェーでは、2004年に上場企業の取締役の少なくとも40%を女性とするクォータ制を導入し、2008年にそれを達成した。この動きはEUにも波及し、2016年から2019年の5カ年の戦略的取り組みのひとつに、大手上場企業の取締役の女性比率を2020年までに少なくとも40%にすることを掲げている。

クォータ制は「逆差別」? 数値目標を決めることへの反対意見

日本でも、上場企業のコーポレートガバナンス・コード(企業統治原則)で女性取締役の登用を促すことを検討している。金融庁が改正案を固め、今年5月に東京証券取引所が採用する見込みで、そうなると、女性取締役のいない上場企業は投資家などへの説明が求められるようになる。

また、2016年4月に施行された女性活躍推進法を受けて、自社の女性社員比率や管理職比率の目標を自主的に定めた企業も多い。

こういった動きに対しては、以下のような反対意見もある。

男性にとっての不利益が生じる逆差別である

女性だというだけで採用や昇進を決めるのは、男性の正当なチャンスを奪うことになるという意見。先に数値を決めるのは不自然、公正に競争させて、男女関係なく優秀な人を活躍させるべき、というわけだ。

下駄を履かされてまで人の上に立ちたくない

「逆差別だ」というのがどちらかというと男性側からの不満だとすると、こちらは女性側の不安や不満。実力が伴わないまま昇進させられても肩身が狭く、上手くやれる自信もない。そんなことは望んでいない、という意見だ。

企業の負担や競争力低下につながる

経営側の懸念としては、数値目標を達成するためにかかるコストがある。例えば社内に管理職になれそうな女性がいなければ、外部から採用しなければならない。上のふたつの意見と同様、実力の伴わない女性を登用することで企業の競争力が落ちたらどうしてくれるんだ、という懸念も根強い。

真の「機会の平等」のきっかけとしてクォータ制を

反対意見はあるものの、クォータ制は取り入れる価値があるというのが筆者の考えだ。そうでもしないと、男女平等への道は果てしなく遠く感じる。

昔から男女平等意識が強いノルウェーにおいても、取締役会の女性比率40%以上という法律ができる前の2002年頃は、女性役員の比率は6%程度だったという。少し不自然に思えても、強制力のあるルールでひと押しして最初のドミノを倒さないと、状況は変わらないのだ。

もちろん今の段階でも、自分の実力で活躍している女性は多数いる。しかし、そういう方たちの奮闘ぶりを見るにつけ、多くの女性は「私には無理」と尻込みしてしまうのが実情だ。それが「管理職になりたくない女性」を生み、女性管理職を増やさなければと焦る経営者たちを悩ませる結果にもなっている。

FacebookのCOOであるシェリル・サンドバーグ氏は著書『リーン・イン』の中で、男性よりも女性の方が自分の実力を過小評価しがちで、そのためにチャンスを逃していると訴えている。周りが差別をする気はなくとも、女性に自信がないせいで真の実力を評価されていない可能性が高いのだ。だとすると、これまでは男性の方が「下駄を履かされてきた」部分もあるはずだ。

また、男性が言えば簡単に受け入れられるようなことも、女性だからという理由で否定されたり無視されたりすることもある。自分に自信がある女性であっても、マイノリティの立場から自分の意見や権利を主張し続けるのは相当に骨の折れることだ。ある意味、優秀な女性の力が“無駄に”消耗させられているとも言える。

職場のリーダー層に女性の数が増えていけば、女性たちはもっと肩の力を抜いて、男性の真似ではない自分たちなりのやり方で力を発揮できるだろう。それこそが、真の「機会の平等」が実現した状態かもしれない。

ビジネスの環境も、先頭に立って引っ張っていくリーダーの時代から、みんなをサポートしてチームの力を引き出していくリーダーの時代へと変化の時を迎えている。女性の中には、後者のタイプのリーダーの方が自分に向いている、と思う人も多いだろう。また、家事や育児など仕事以外のこととの両立をうまくはかる働き方も、女性が先に切り開いていっている。ビジネスの世界に女性が増えることで、男性も学ぶことが多いはず。それが企業の競争力向上にもつながるのではないだろうか。

 

フリーライター(テーマ:働き方、経営、企業のIT活用など)

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立(屋号:みらいfactory)。2013年より、組織人の新しい働き方、暮らし方を紹介するウェブマガジン『My Desk and Team』を運営。女性の働き方提案メディア『くらしと仕事』(http://kurashigoto.me/ )初代編集長(〜2018年3月)。『平成27年版情報通信白書』や各種Webメディアにて「これからの働き方」、組織、経営などをテーマとした記事を執筆中。著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)

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