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ドイツの住みやすい街 1位ミュンヘンより高評価を得たドレスデンの「余暇と自然」に注目! 

シュピッツナーゲル典子在独ジャーナリスト
旧市街に連なる歴史的建造物は息をのむほど美しい(筆者撮影)

 ZDF (第2ドイツテレビ)による「ドイツの住みやすい都市」調査(2018年5月)によると、総合1位はミュンヘンだった。ところが「余暇と自然」ではドレスデンがミュンヘンより高評価を得た。この街の魅力とは。(画像は、特記以外すべて筆者撮影)

 国内401地区を対象に行ったこの調査は、「職場」「住居」「余暇と自然」「健康」「安全」と5つのカテゴリーによる統計に基づいたもの。通常の調査と異なるのは、アンケートによるものではなく専門家が2010年から17年の1万件に及ぶ資料をもとに割り出した鑑定結果という点だ。 

 トップ10は下記の通り。

 1ミュンヘン

 2ハイデルベルク 

 3シュタルンベルク 

 4ポツダム 

 5ガルミシュ・パルテンキルヒェン 

 6ミュンヘン近郊地区 

 7ミースバッハ 

 8オーバーアルゴイ

 9バード・テルツ/ヴォルフラーツハウゼン

 10ウルム 

 2位、4位、10位以外はバイエルン州の都市。トップ10のうち、旧東側の都市は唯一ポツダムが総合4位に、トップ20では12位ドレスデン、16位イエナが選出された。「余暇と自然」に限ってみると、北東部の都市が上位に多かった。この調査を行った専門家によると、総合では旧東西の差があまりない点が意外だったという。

 バイエルン州の州都ミュンヘンは住みやすい街や住みたい街をテーマとした国内外の調査で常時上位に選出される街だが、今回は12位のドレスデンに注目したい。 

ドレスデンに来たら、一度は足を運びたい国立歌劇場ゼンパー・オーパー
ドレスデンに来たら、一度は足を運びたい国立歌劇場ゼンパー・オーパー

というのも、ドレスデンは「余暇と自然」で11位、ミュンヘン17位より高評価を得たからだ。ちなみに同カテゴリー1位はポツダムだった。この街については以前紹介したのでここでは省略した。

 今回の調査テーマは住みやすい街。とはいえ、余暇と自然といえばドレスデンを訪れる人が知りたい点でもある。ドイツの京都といわれるドレスデンを巡り、この街の何がすごいのか探ってみた。

 ザクセン王の栄華を物語る街

 ザクセン州の州都ドレスデンはドイツの京都、エルベ川のフィレンツエと称される古都。ドイツの東の端に位置し、チェコ共和国と国境がすぐ近くだ。人口約55万人の芸術とバロック建築の宝庫として知られる。

新市街のエルベ河畔から眺めるライトアップされた旧市街の建造物にうっとり。夏の夜を過ごす人たちで大賑わい(c)Dresden Marketing GmbH/Sven Doering
新市街のエルベ河畔から眺めるライトアップされた旧市街の建造物にうっとり。夏の夜を過ごす人たちで大賑わい(c)Dresden Marketing GmbH/Sven Doering

 エルベ川を挟んで南側に旧市街、北側に新市街が広がっている。ドレスデンは外国人による人気観光都市2017年で6位に選ばれ、観光地としても根強い人気を持つ。

エルベ川と自然の雄大さに感激。ザクセン・スイス国立公園にて
エルベ川と自然の雄大さに感激。ザクセン・スイス国立公園にて

 今回「余暇と自然」で高く評価された理由は、街の6割以上を緑地と森林が占めている点だ。さらに、豊かな文化財や文化保護地区など文化と芸術を体感できる博物館や美術館もふんだんにあり、余暇の充実度も高い。

 激動の歴史を歩んできた過去を持つドレスデンは、第二次世界大戦でアメリカとイギリスの連合軍空爆により、街の8割以上が壊滅的な被害を受けた。そのため、ドイツの広島とも言われた。だが、1989年東西ドイツの統一により、大規模な再建作業が行われモダンで華麗な古都によみがえった。

 歴史的建造物の宝庫旧市街と戦災を免れた新市街

 歴史的建造物は旧市街に集結しており、3大観光スポットの「ザクセン州立歌劇場(ゼンパー・オーパー)」、「フラウヱン聖母教会」、「ツヴィンガー宮殿」をはじめ、卓越した建造物が立ち並ぶ。

オペラ劇場広場に貴婦人が登場
オペラ劇場広場に貴婦人が登場

 ゼンパー・オーパー劇場は、1838年から3年かけてゴットフリート・ゼンパーが建てたザクセン宮廷・国立歌劇場で、19世紀の劇場建築の最高峰と称賛されている。

 オペラ劇場広場から徒歩でアクセスできる圏内には、上記3スポットの他、レジデンス宮殿や芸術アカデミー、アルベルティヌム やノイエ・マイスター絵画館など市内主要文化施設が連なる。

第二次世界大戦空爆でフラウヱン教会も壊滅的な被害を受けた。可能な限りオリジナル建材を用い再建した。黒ずんでいる部分はオリジナルの石。近代技術の恩恵でオリジナルの石8500ほどが組みこまれ、見事によみがえった
第二次世界大戦空爆でフラウヱン教会も壊滅的な被害を受けた。可能な限りオリジナル建材を用い再建した。黒ずんでいる部分はオリジナルの石。近代技術の恩恵でオリジナルの石8500ほどが組みこまれ、見事によみがえった
ドームの天井画・かつて訪問した時はまだ修復が完成していない中でコンサートを堪能した。今回フラウヱン教会内部に入ってみると、目を見張るほどの美しさに生まれ変わっていた
ドームの天井画・かつて訪問した時はまだ修復が完成していない中でコンサートを堪能した。今回フラウヱン教会内部に入ってみると、目を見張るほどの美しさに生まれ変わっていた

 フラウヱン教会は戦災で破壊されたが2005年、見事に完全修復された。今は戦争に対する警告と平和の証として重厚な存在感を表している。

 空爆で破壊されたツヴィンガー宮殿は後期バロック建築の傑作として名高い。ここではかつて宮廷の祝祭行事が催されていた。宮殿内のアルテ・マイスター絵画館や磁器収集室、武器収集室などの展示品も見ごたえがある。

アルテ・マイスター絵画館で見逃せない世界一有名な天使たち・「システィーナのマドンナ」
アルテ・マイスター絵画館で見逃せない世界一有名な天使たち・「システィーナのマドンナ」

 歴代ザクセン王の居城だったレジデンス宮殿は、世界最大の宝物殿「緑の丸天井」や、マイセン陶磁器タイル約2万5000枚に描かれた壁画「君主の行列」など見どころたっぷり。

右側がドレスデン宮殿外壁にみられるドレスデンの歴史的人物を描いた「君主の行列」。中央にはフラウヱン教会が見える
右側がドレスデン宮殿外壁にみられるドレスデンの歴史的人物を描いた「君主の行列」。中央にはフラウヱン教会が見える

 フラウヱン教会から北へ歩くとエルベ川に行き着く。この河畔は絶景撮影スポット 「ブリュールのテラス」と言われ、対岸の新市街の素晴らしい展望が広がる。

 このテラスは、エルベ川にかかるアウグスト橋とカロラ橋の間500メートルほどの遊歩道で、文豪ゲーテもこの街を訪れた際によく散策したそうだ。19世紀初頭から「ヨーロッパのテラス」として注目されるようになったこの河畔にしばし佇めば、美しい自然と歴史的建造物に目を奪われて時間を忘れてしまうほどだ。

 一方、17世紀後半に焼失した新市街は、ザクセン王の命により再建された。その後の空爆では戦災を逃れたため旧市街より古い建物が多く残っている。クンストホーフアーケードにはかわいいカフェやショップ、軍事博物館なども人気のスポットだ。

 アウグスト強王

 ドレスデンといえば、この街を文化と芸術の最高峰に導いたザクセン王のフリードリッヒ・アウグスト1世(1670-1733)なしには語れない。王はパトロンとしてツヴィンガー宮殿やピルニッツ宮殿建設を命じた。さらにヨーロッパ中の芸術家や音楽家も招聘した。

まるで映画シーンのような景観にうっとり。エルベ川遊覧船から眺めたピルニッツ宮殿。強王はこの宮殿を愛人コーゼル伯爵夫人に贈った
まるで映画シーンのような景観にうっとり。エルベ川遊覧船から眺めたピルニッツ宮殿。強王はこの宮殿を愛人コーゼル伯爵夫人に贈った

 そしてこの街は、文化の宮廷都市として発展し栄華を極めた。

 アウグスト1世が強王と呼ばれる背景にはちょっと面白い逸話が伝わっている。王は、蹄鉄を手で粉々にしたといわれる驚異的な怪力を有していたことや、当時としては異例の1メートル76センチという長身、体重も100キロ以上の巨体だったこと、さらに女性がお好きだったようで300人以上の子供をもうけたと言われる。

 こうして「ザクセンのヘラクレス」または「強王」と呼ばれるようになったのだとか。

 郊外で豊かな自然と歴史を満喫

マイセン磁器工房では職人による製造過程を見学したい
マイセン磁器工房では職人による製造過程を見学したい

 ドレスデン郊外では、自然と歴史を体感するスポットが数多くある。ハイライトはマイセン磁器博物館,アルブレヒト城、モーリッツブルク城、ザクセン・スイス国立公園だろう。

マイセンのアルブレヒト城・マイセン磁器はここから始まった。マイセン焼技術が漏れるのを防ぐため職人をここに幽閉したという
マイセンのアルブレヒト城・マイセン磁器はここから始まった。マイセン焼技術が漏れるのを防ぐため職人をここに幽閉したという

 マイセン磁器博物館兼工房・アウトレットは、ドレスデンの北西に位置し、電車なら30分で行ける自然に恵まれたマイセンの街にある。アウグスト強王は陶工に秀でたフリードリヒ・ベトガーを招聘し、欧州初の白磁器発明とマイセン磁器工房の設立に注力した。そのおかげで18世紀ころからマイセンは磁器最高峰の街として大きな注目を浴びるようになった。

水城モーリッツブルク・クリーム色と白の組み合わせは、ザクセン地方バロック建築の特徴
水城モーリッツブルク・クリーム色と白の組み合わせは、ザクセン地方バロック建築の特徴

 人工島に建てられた水城モーリッツブルクは、ドレスデン北部およそ15キロメートルの街モーリッツブルクにある。1546年にザクセン公モーリッツにより狩猟の館として建てられた城。当初はルネッサンス様式の建物だったが、のちにアウグスト強王の命によりバロック様式の狩猟館兼離宮として改築された。

自然の驚異を堪能。ザクセン・スイス国立公園にて。右の岩上にロッククライマーを発見! 見ているだけで足が震えてきた
自然の驚異を堪能。ザクセン・スイス国立公園にて。右の岩上にロッククライマーを発見! 見ているだけで足が震えてきた
エルベ川と谷の眺めはここならではの絶景
エルベ川と谷の眺めはここならではの絶景

 ザクセン・スイス国立公園は、1億年という気の遠くなる歴史を持つ天然記念物。ドレスデンの東南部に位置するこの公園は、エルベ砂岩山地が3万7千ヘクタール以上にわたり保護されている。ハイキングやウォーキングが大好きなドイツ人が憧れるこの公園は、一度訪問したいスポットとしても注目を集めている。

この国立公園で最も有名な奇岩を結ぶ「バスタイ橋」は、TV番組撮影場所にも人気のスポット
この国立公園で最も有名な奇岩を結ぶ「バスタイ橋」は、TV番組撮影場所にも人気のスポット

 文化と芸術を代表するドレスデン出身者  

 最後にドレスデン生まれの文化と芸術を代表する2人を紹介したい。両者とも余暇を楽しむのに欠かせない名作を世に送り出してきた人物だ。

 まず、詩人・作家エリック・ケストナー(1899年2月23日-1974年7月29日)。同氏はドイツを代表する文豪として子供たちに絶大な人気を誇る書籍を生み出した。日本でもお馴染みの「点子ちゃんとアントン」や「エミールと探偵たち」などは、今も親から子へと読み継がれているベストセラーだ。

 新市街には彼の活動と生涯を紹介する博物館がある。ここではほとんどの展示品に触ることができるので、子供も飽きることなく楽しめる。本好きであってもなくても、是非見学したい場所。

近代巨匠絵画館や彫刻収集室を併設する博物館アルベルティヌムにて・リヒター作品を真近で鑑賞する贅沢
近代巨匠絵画館や彫刻収集室を併設する博物館アルベルティヌムにて・リヒター作品を真近で鑑賞する贅沢

 もう一人は、ドイツ最高峰の画家ゲルハルト・リヒター(1932年2月9日~)。地元の芸術アカデミーにて絵画を学び、のちにデュッセルドルフ芸術大学で勉学。現在はケルン在住。日本では2017年12月、「Painting 1992~2017」個展が開催された。リヒターは世界で最も注目される画家のひとりとして現在も精力的に活動している。

 ドレスデンを深く知ることで、この街の「余暇と自然」の楽しみ方も一味違ってくるに違いない。

在独ジャーナリスト

ビジネス、社会・医療・教育・書籍業界・文化や旅をテーマに欧州の情報を発信中。TV 番組制作や独市場調査のリサーチ・コーディネート、展覧会や都市計画視察の企画及び通訳を手がける。ドイツ文化事典共著(丸善出版)国際ジャーナリスト連盟会員

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