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部活動指導員はブラック部活動から教員を解放できるのか、部活動指導員というブラック職場を生むだけなのか

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 中学校教員の大きな負担となっているのが部活動であり、最近では「ブラック部活動」と呼ばれたりもしている。そのブラック部活動問題を改善するために文部科学省(文科省)は、公立中学校に配置する「部活動指導員」を本年度から3000人増やして、来年度は計1万2000人にするための予算15億円を、30日に事実上締め切られた来年度の概算要求に盛り込んだ。

 部活動の指導を教員から外部の部活動指導員に移すことによって、教員の働き方改革を推進しようというのだ。

 部活動指導員を文科省は、「学校の教育活動に基づき、生徒の自主的、自発的な参加により行われるスポーツ、文化、科学等に関する教育活動である部活動において、校長の監督を受け、技術的な指導に従事する」と定義している。制度としては、2017年3月から始まっている。

 上の定義を見てもわかるように、誰でもがやれるわけではない。各自治体の部活動指導員の募集要項を見てみても、「教員免許取得」を条件にしているところが多い。条件として掲げていなくても、採用にあたっては教員免許が重視される傾向があるようだ。さらに、指導者資格を取得していることを条件に掲げ、それだけでなく部活動指導の実績を求めている自治体も少なくない。

 これだけの条件をクリアするのは、なかなか難しい。それでいて報酬はといえば、1時間あたり1500~2000円ほどのところが多い。なかには2000円以上というところも見うけられるが、それだけ条件は厳しくなる。

 つまり、応募条件は厳しいが報酬は少ない、というわけだ。それでも「やりましょう」という人となると、退職した元教員ということになるのだろうか。そうなると年配者が多くなりそうで、それはそれで問題のような気もする。

 若い人となると、報酬の割には負担が大きすぎて無理な気もする。なにしろ、勤務内容としては実技指導だけでなく、年間計画の作成や保護者への連絡、はたまた生徒指導までが掲げられている。「責任の丸投げ」といってもいいくらいだ。

 そんな部活動指導員の定員を増やしたからといって、「ブラック部活動」の問題が改善するとはおもえない。それどころか、新たな問題を生みそうな予感すらある。

 そもそも来年度には1万2000人にするとはいっても、全国に公立中学校は9400余りもあり、1校あたりに2人は配置できない数でしかない。1校での部活動の数は複数であり、たとえ2人が配置されたとしても、教員を部活動から完全に切り離すことは無理である。教員の働き方改革の推進に大きく貢献するとはおもえないのだ。

 文科省による部活動指導員の配置は、あまりにも中途半端な策でしかない、と指摘せざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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