11月30日で営業を終了する日本で最後のトロリーバス 立山トンネルトロリーバス(室堂~大観峰)
見た目はバスでありながら、電車と同じように架線から集電して走り、法律上は鉄道に分類されるトロリーバス。
日本においては、昭和3(1928)年に現在の兵庫県宝塚市・川西市で初めて営業運転を開始したが、短期間で廃止。その後、京都市・名古屋市・川崎市・東京都・大阪市・横浜市といった大都市で導入されたものの、バスの性能向上や車社会の進展などにより、高度経済成長期に早々とその姿を消していった。そんな中、富山県と長野県に跨る立山黒部アルペンルートで、観光用として命脈を保ってきたが、来たる11月30日(土)にその最後の路線が営業運転を終了し、日本からは全廃される。
今回は、営業期間も残すところあと一週間となった日本最後のトロリーバス「立山トンネルトロリーバス(立山黒部貫光無軌条電車線)」を紹介しよう。
立山トンネルトロリーバスは、室堂駅(標高2,450メートル)と大観峰駅(2,316メートル)の間の3.7キロを結んでおり、室堂駅で接続する立山高原バス、大観峰駅で接続する立山ロープウェイなどとともに「立山黒部アルペンルート」を形成している。一般的な鉄道ではないものの、室堂駅は日本一標高の高い鉄道駅であり、立山トンネルトロリーバスは日本で最も標高の高いところを走る鉄道にあたる。
トロリーバスの走る立山トンネルは全長3,562メートル、幅4メートルで、昭和46(1971)年4月24日に開通した。開通翌日からはディーゼルバスが運行されていたものの、トンネルの長さゆえに排ガスの滞留が問題となり、環境保護の観点から、電気で走って排ガスを出さないトロリーバスが導入されることとなった。
トロリーバスの開業は平成8(1996)年4月23日。同じ立山黒部アルペンルートの関電トンネルトロリーバス以来、32年ぶりに新規開業したトロリーバスであった。開業に合わせて大阪車輛工業で8000形8両が製造されたが、車体の仕様や性能などは平成5(1993)年から導入された関電トンネルトロリーバス300形に準じている。
見た目はバスだが、電気で走っていることもあって走行時の音などは電車に近い。乗客数に応じて1両から4両で柔軟に運転され、立山直下にある信号場ですれ違うダイヤが組まれている。かつては、途中に雷殿駅という駅があったが、駅に通じる登山道が崩壊したことから平成10(1998)年8月10日に休止され、復活することなく平成25(2013)年に廃止された。
関電トンネルトロリーバスが車両・設備の老朽化により、平成30(2018)年11月30日で営業を終了し、電気バスに切り替えられてからは、立山トンネルトロリーバスが日本で唯一のトロリーバスとなっている。
トロリーバスはその特殊性ゆえに部品も高価で供給が少なく、通常のバスと比べて車両の更新にも多大な費用がかかる。これらの理由に加えて、近年の電気バス技術のめざましい発展が、関電トンネルトロリーバスの電気バスへの置き換えを後押しすることとなったが、その置き換えから6年を経て、立山トンネルトロリーバスもまた同じ道を辿ることとなった。
今年の10月17日には8000形のうち運用を外れた8003と8004の2両が、廃止よりも一足早く、室堂駅から搬出されている。現在、運用に入っているのは8001、8002、8005、8006、8007、8008の6両だ。筆者が訪問した11月20日には全車が運用に入っていた。
あと一週間ほどで28年の歴史に幕を下ろす立山トンネルトロリーバス。その廃止をもって、昭和3(1928)年以来、96年に渡る日本のトロリーバスの歴史にも終止符が打たれることとなる。また一つ珍しい乗り物が消えるのは残念であるが、パンタグラフから充電をして走る後継の電気バスはトロリーバスの進化系とも見なすことができ、時代に合わせて進化するのだと考えれば、寂しいけれども前向きな気持ちになれる。
立山黒部アルペンルートも繁忙期を過ぎ、標高2000メートルの高山地帯は平地よりも早い冬の訪れを迎えている。立山黒部アルペンルートも天候次第では運休することが予想されるため、これからお名残り乗車に行かれる方は、最新の気象情報や運行状況に注意してほしい。最終日となる11月30日は、安全上の観点から室堂15時発の最終便が事前抽選制となっており、抽選者以外の乗客にとっての最終便は14時30分発となる。
平成8(1996)年4月23日以来、28年に渡って無事故で走り続けてきた立山トンネルトロリーバス。最後まで無事故で走り続け、その記録が後継の電気バスにも未来永劫受け継がれることを願うばかりだ。
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