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他国の選手にあって日本代表にないもの。ギリシャ戦全選手採点

杉山茂樹スポーツライター

勝ち負けの話をする前に、試合内容、レベル、面白さについて述べなければならない。あまりにも低級、酷かったからだ。今大会はどの試合も非常に面白い。見応えのある好勝負が連続している中でこの試合を見せられると、かなりガックリさせられる。世界の人に見られているかと思うと、恥ずかしさ、申し訳なささえ覚える。

前半38分、カツラニスの赤紙退場で10人になったギリシャには、満足な戦いができない理由があった。上級なプレイを求めにくい状況にあった。言い訳できない立場にあるのは日本だ。日本は第1戦のコートジボワール戦でも低級な試合を見せていた。当該国以外の第三者を満足させることができない内容の試合を、立て続けに披露してしまったわけだ。罪は重いと言わざるを得ない。

大会前、ギリシャをC組最弱のチームと予想する日本人は多かった。コートジボワールに敗れても、次こそは「いただき」と楽観的になっている人は多かった。にもかかわらず、低級な内容で引き分けてしまった。前半38分以降、10人に減ってしまったチームに。

ナタルのスタジアムまではるばるやってきた日本人は、試合後、引き上げてくる選手に「ニッポン!ニッポン!」と、拍手と歓声を送っていた。満足感に満ち溢れた風景だった。終盤、ギリシャの選手が痛くもないのにピッチでのたうち回っているシーンを目の前で見ても、いつものように「オーニーッポン♪」と、お馴染みの応援歌をお馴染みの調子で歌っていた。ギリシャへのブーイングは聞こえてこなかった。

怒りというものをまったく表現できていなかった。ギリシャのスロープレイにブーイングを送っていたのは、スタンドの8割以上を埋めた第三者だった。第1戦でもそうだったのだけれど、これはまったく滑稽な風景だ。第三者の大部分を占めるブラジル人に、日本の応援風景は恐ろしく奇異なものに見えただろう。

日本国内の反応はよく分からないが、もっと悔しがるべきだと僕は思う。選手の尻を叩き、喝を入れるべきだと思う。日本人みんながみんな、ぬるま湯に浸かっている。僕にはそう見える。ザックジャパンの不甲斐ない戦いぶりと、それは深い関係があると思う。

サッカーは陣取りゲームだ。陣を奪いながら前進していく競技。しかしながら、日本が見せたそのパスサッカーはこの本質から大きく外れていた。ボールがなかなか前に進まない。その隙に相手に帰陣されてしまう。

試合後の会見で、ザッケローニは「パスワークなど、攻撃にスピードが欠けていた」と述べたが、それ以前の問題として、選手にバイタリティがなかった。その理由をについて質問されたザッケローニは言葉に窮したが、理由はとても分かりやすい。

スタメン選手の中には体調が戻らない選手がいる。一時より明らかに力が落ちた選手もいる。コンディションが悪そうな選手もいる。テンポがスローになるのはそのためだ。

力強さ、馬力、元気、勇気、前に出る推進力……等々が、日本のサッカーには思い切り不足していた。他国のサッカーと比較すると、とても貧弱な大人しいサッカーに見えた。

本田、長谷部、遠藤、岡崎、香川、山口、内田。

日本の中心選手には、ドリブルで前に出る力がない。彼らの言う「我々のサッカー」にそれがない。ボールを捌(さば)くだけのプレイが何と多いことか。彼らの描くサッカーのイメージは相当偏っている。サッカーの本質から外れてしまっている。一番悪いのはそれを肯定してきたザッケローニだが、日本サッカー界としても、考え直すべきだろう。

もし11対11の戦いなら日本は負けていた。僕はそう思う。というわけで採点は今回も辛めになる。

GK

川島永嗣 7

前半40分、トロシディスの放った強シュートをファインセーブ。

DF

長友佑都 5.5

日本で唯一ボールを前に運べる選手。しかしながら、上記のピンチは彼の軽率なバックキックに端を発していた。

吉田麻也 5.5 

終盤、前線に上がり、ロングボールの受け手となった。しかし、その作戦が通用するほど世界は甘くない。

今野泰幸 5.5

ロスタイムに入った92分、後方から、前線の吉田に向けて長いボールを縦蹴りしたが、それは彼ら言う「我々のサッカー」とは180度異なるサッカーだった。試合後の記者会見で、長身のギリシャに対して、なぜその作戦を使うのかを問われたザッケローニは、答えにならない答えを返していたが、同じことは第1戦のコートジボワール戦の終盤にも行なっていた。ならばどうして、ハーフナー、豊田陽平らヘディングの強い選手を選ばなかったのか。パスサッカーというなら、最後の1秒まで変なロングボールは入れるべきではない。率直に言って支離滅裂だ。今野のキックは、引き分けという結果と同じぐらい、こちらをがっかりさせた。

内田篤人 5.5

長友にも言えることだが、サイドバックがサイド攻撃の主役になるサッカーは古い。その単独攻撃では、選択肢は単純なクロスだけになる。その前方で構えるもう一人のサイドアタッカーとのコンビネーションで攻撃を仕掛ければ、サイド攻撃はより変化に富む。立体感が生まれる。だが内田、長友と、日本の4-2-3-1の3の両サイドとの連携は、ほとんど見られなかった。大久保と後半投入された香川にはその概念がない。これは日本のサッカーが進歩しない大きな要因の一つと言える。

MF

長谷部誠 5

第1戦のコートジボワール戦は後半9分、この日は前半の45分間でベンチに下がった。およそ半分しか出場できる状態にない選手に、スピーディなパスワークの操縦桿役を求めるのは無理な注文と言うものだ。

山口蛍 4.5 

前にボールを運ぶ力がない。勇気もない。ただボールを捌いているだけ。相手と戦っている感じがしないのだ。相手から見れば怖い選手では全くない。守備的MF(ボランチ)とは何なのか、基本的なところから考え直すべき。

岡崎慎司 4.5 

相手の右サイドバック、トロシディスの攻撃参加を防ぐために、通常の右ではなく左で起用された。守備力が弱く、気がつけば中央に入り込んでしまう香川がスタメンを外れた理由でもある。その任務を岡崎は忠実に遂行したが、コートジボワール戦同様、攻撃はサッパリ。ブンデスリーガでの活躍がウソのような不出来だった。

本田圭佑 5 

ホールを捌いているだけの、怖さのない選手になってしまった。ボールを受けるや、対峙するマーカーを睨みつけ、ドリブルで突っかかっていくその動作は実に絵になったが、それは今や昔の話になった。やはりこの1年間の落ち込みは目に余る。だが、チームは依然として「本田ジャパン」のまま。チームが失速した一番の原因だと言える。

大久保嘉人 5

晴れの先発出場。大いに期待されたが不発に終わる。最も良くなかったのはポジションワークだ。彼にも、香川同様中央に入ってしまう癖があるため、4-2-3-1の3の右は、多くの時間、空白区だった。サッカーは陣取り合戦。陣、すなわちオープンスペースを活用した方が、優位に試合を進めることができるが、香川、大久保にはそうした概念が希薄だ。教育を受けていない感じがする。後半12分以降、その両者が4-2-3-1の3の両サイドを務めることになったが、彼らは本能のままに動いていた。ギリシャ、コートジボワールのみならず、観戦したその他のW杯出場国にもこの手のタイプはいない。香川がマンチェスター・ユナイテッドで輝けない理由、かつて大久保がマジョルカでサッパリ振るわなかった大きな理由はここにある。

FW

大迫勇也 5.5 

前半19分と21分に思い切りの良いシュートを放つなど、第1戦よりは積極的で好感が持てた。にもかかわらず後半12分で交代。1トップが岡崎になり、本田もいつものように低い位置に下がってしまったため、ボールを高い位置で受ける選手がいなくなった。日本は以降、ますます出たとこ勝負のサッカーになった。

交代選手

遠藤保仁 4.5 

長谷部と遠藤でようやく1人前。つい1年ほど前まで、この2人は日本サッカー史上「最強のボランチ」と持て囃されたが、それはもはや遠い昔に感じられる。第1戦に続き、この日も遠藤は何も変えられなかった。衰えは隠せない。A代表出場歴ナンバーワン選手に相応しいベテランの味も発揮できなかった。痛々しい姿を露呈してしまった。

香川真司 4.5 

ボールを持つときの姿勢が悪い。下を向いてしまうので、周囲との連携も取りにくい。ポジションワークも悪い。シュート力もない。プレイは試合を重ねるごとに退化している。

監督

ザッケローニ 3 

終盤のハイボール攻撃が、ザッケローニの指示であることは間違いない。しかし、いまどき終盤ロングボールを放り込むスタイルはもはや旧バージョンのサッカーだ。あまりにも低級だ。そうした作戦をとる国を見かけることはほとんどない。しかも日本人選手の身長は総じて低い。高い巧緻性こそが最大の特長だ。相手に退場者が出て10人になったならば、数的有利を活かす理詰めの攻撃こそが、場に相応しい。もう一つの問題は、交代のカードを2枚しか切れなかったことだ。これは良い監督か、悪い監督かを見分けるポイントになる。試合後の会見でザッケローニはその理由を語ったが、とても納得できるものではなかった。ひと言でいえばアイデア不足。もっと問題視していい点だと思う。

(集英社 Web Sportiva 6月21日掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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