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中朝は不仲? 韓国のメディアに溢れる「不仲説」

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
訪朝した習近平主席を歓迎する金正恩総書記(労働新聞から)

 韓国のメディアは昨日(9日)、一斉に中国当局が北朝鮮に対して「中国に派遣している労働者を全員帰国させるよう要請している」とのニュースを取り上げていた。この情報の出所は韓国外交部のようである。

 北朝鮮労働者の海外派遣は国連安保理制裁決議「2397号」の違反にあたることから国連常任理事国である中国は欧米諸国から圧力を受け、負担を感じていたのは紛れもない事実である。

 新型コロナウイルスが発症するまで、中国は国連決議に従い、約2万5千人の労働者を北朝鮮に送還していた。しかし、「コロナ」期間中は北朝鮮が国境を封鎖していたこともあって送還できずにいた。正確な数は不明だが、その数はおよそ5万~10万人に上ると推測されている。

 ビザはすでに切れているので、厳密に言えば、北朝鮮労働者らは不法滞在者である。従って、中国が「強制送還」に踏み込む措置を取ったとしても何ら不思議なことではない。

 しかし、北朝鮮労働者の海外派遣は北朝鮮にとっては枯渇している外貨獲得の貴重な手段である。そのことを重々承知の上での中国当局の決定ならば、急接近した北朝鮮に対する「中国の不快感の表れ」とか、「中国の影響力を誇示することが狙い」との韓国メディアの分析もあながち間違いではない。

 韓国政府はどうやら中国と北朝鮮の関係は北朝鮮がロシアとの関係を深めれば深めるほど、溝が生じているとみているようだ。実際、韓国のメディアは最近の中国の北朝鮮への対応がクールであるとして以下の例を挙げ、「中朝不仲説」論じている。

その1.中国外交部が露朝首脳会談を「歓迎する」と論評せずに「中国は絶えず、事案自体の「是非曲直」に基づき、自らの立場を決定し、自らの方式で朝鮮半島問題の事務で建設的な役割を担っていく」と、露朝に距離を置くコメントを出した。

その2.今年4月に北朝鮮の外交官が密輸容疑で公安当局によって家宅捜査を受けた。事実ならば、中国当局による前代未聞の措置である。

その3.国営の朝鮮中央テレビと朝鮮中央放送を海外に送信する手段が突然、中国の衛星からロシアの衛星に切り替えられた。

その4.中国が4年半ぶりに日中韓首脳会談に応じただけでなくプーチン大統領の訪朝(6月19日)に合わせるかのように韓国との「外交安全保障対話」(2プラス2)に応じた。

その5.昨年8月に鴨緑江を渡る丹東―新義州間の大橋通行が再開され、北京ー平壌間の航路も再稼働したものの中国人団体の観光はなく、北朝鮮も中国人との接触を規制している。

その6.北朝鮮は最近、中国が核心的利益と主張している台湾問題について言及しなくなった。

 中朝不仲説の根拠としては正直、これだけでは今一つ、物足りなさを感じる。というのも、依然として良好な関係にあることを示す「反証」もあるからだ。

その1.中朝貿易は今年1~5月まで8億4千万ドル(中国の輸出6億8800万ドル、輸入1億5200万ドル)と、回復の兆しをみせている。

その2.朝鮮中央通信のホームページの画面に「朝中親善の年 2024年」の特別コーナーが、それも「歴史的連喚起を迎えた朝露関係」の上に設けられている。

その3.中国共産党序列3位の趙楽際政治局常務委員兼全国人民代表者会議(全人代)委員長が中国の最高指導部としては2019年6月の習近平主席以来、約5年ぶりに訪朝(4月)した。中国は中央民族楽団を送り込み、金総書記が鑑賞した特別公演では最後に「朝中友好は永遠なり」を合唱し、中朝友好ムードを盛り上げていた。 

 その4.中朝には「露朝包括的戦略パートナーシップ」よりもより強固な「中朝友好協力相互援助条約」がある。1961年7月11日に交わされた「中朝友好協力相互援助条約」の第2条には「両締約国は、いずれの一方の締約国に対するいかなる国の侵略をも防止する。いずれか一方の締約国がいずれかの国又は同盟国家群から武力攻撃を受けて、それによって戦争状態に陥った時は他方の締約国は直ちに全力をあげて軍事上その他の援助を与える」と明記されている。

その5.今回の労働者の送還報道について中国の外交部スポークスマンは「韓国のメディアは実態のない憶測と誇張された炒作をしている。小説のようなことを書くべきではない」と否定していた。

 北朝鮮同様に中国も国境を接した、伝統的な友好国である北朝鮮と関係を疎遠にして得るものはない。むしろ、中国としては仮にトランプ前大統領が11月の大統領選で勝った場合、来年米朝首脳会談が再開されることも想定し、その前にもう一度、北朝鮮との関係を強化し、北朝鮮を引き付けておく必要がある。

 露朝よりも中国にとっては最も警戒しているのは頭越しの米朝接近である。

 中朝関係が北朝鮮の核実験やミサイル発射などで2017年まで悪化していたこともあって2018年の南北首脳会談も史上初の米朝首脳会談も北朝鮮が中国に事前通告しなかったことへのトラウマが中国にはある。従って、中国の本音としては2018年以来、訪中していない金正恩(キム・ジョンウン)総書記に中国詣でをさせたいところであろう。

 米韓関係同様に中朝関係もまた、そう簡単にはへその緒は切れないのである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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