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代表戦最大の見どころ。アギーレは香川真司をどこで使うのか

杉山茂樹スポーツライター

「メインで使用する布陣は4-3-3」。就任記者会見でアギーレはそう語った。そして、過去2戦(ウルグアイ戦、ベネズエラ戦)はその通り、トップ下(1トップ下)が存在しない布陣で戦った。

香川真司はその時、招集されなかった。アギーレジャパンに加わるのは今回が初。1トップ下が存在しない布陣と香川は向き合うことになるのか。アギーレは布陣をいじるのか。香川をどこでどう使うつもりなのか。来るジャマイカ戦(10月10日)、ブラジル戦(10月14日)の最大の見どころと言っていいだろう。

ザックジャパンでは4-2-3-1の3の左だった。1トップ下が存在する布陣であるにもかかわらず、そこに起用されなかった。だが香川は7割方、ピッチの中央付近にいた。「サイドは苦手。トップ下がやりたい!」。背中にはそう書いてあるようだった。

その結果、相手ボールに転じた時、日本の左サイドは穴になりやすい状況に陥った。ブラジルW杯ではそれが直接敗因に繋がった。コートジボワール戦の2失点は、まさに香川のポジションワークによるものと言っていい。

その結果、香川は、続くギリシャ戦でスタメン落ちの屈辱を味わうことになった。ブラジルW杯で最も期待を裏切った選手の1人になるが、それまで現状を放置し、香川を適性がない左サイドで使い続けたザッケローニには、それと同じぐらい責任がある。1トップ下しかできないプレイの幅の狭い選手と、ザッケローニはキチンと向き合うことができなかった。

マンUのモイーズ前監督は、そんな香川に出場機会を多く与えなかった。新監督のファン・ハールも多機能型選手を好む指揮官だ。放出は当然の帰結と言えた。

ドルトムントに迎えられることになった香川はユルゲン・クロップ監督の元で、晴れて1トップ下で起用されることになった。現在、その期待に応えている恰好だが、常時出場というわけではない。

クロップには中盤フラット型4-4-2という選択肢もある。1トップ下がない布陣を採用すれば、香川はベンチ。彼にサイドに適性がないことをクロップは知っているのだ。

しかし、少々布陣が変わっても、臨機応変に対応するのが今日的な名手。好選手の条件だ。対応の幅が狭ければチームの軸にはなり得ない。いまの香川は、左投手が出てきたら代打を送られる左打者と姿が重なる。サイドでも苦にせずプレイできるようにならなくては真の一流ではない。

チームに、問われているのは、香川個人の活躍ではない。総合力のアップだ。

アギーレは、この問題をどう解決しようとするのだろうか。4-3-3から4-2-3-1に変更し、あえて1トップ下というポジションを、香川のために用意するのか。現行の4-3-3の中に落とし込もうとすれば、「V」の字で並ぶ中盤の左右どちらかの上になるが、このポジションの選手は、1トップ下より中盤をオーガナイズする力が必要になる。相手ボールに対しても、鋭い反応も示さなければならない。守備力が求められるわけだが、現状の香川はボールを奪う力も、そしてその意欲も低い。試合の流れを読む力にも欠けている。

4-2-3-1の1トップ下で起用された場合でも問題はある。香川は万能型の1トップ下ではないからだ。少なくとも、相手ディフェンダーを背にするポストプレイは得意ではない。前を向いてプレイすることで初めて力を発揮するタイプだ。すなわち1トップには、ポストプレイが得意な選手の存在が不可欠になる。ドルトムントと相性がいい理由は、そうしたタイプの1トップが常に存在するからだ。

日本代表でこの手の選手を探せば大迫勇也になるが(本田圭佑の0トップという手もあるけれど)、それ以外の選手とのコンビでは、香川の本領は発揮されにくい。香川は組み合わせ方が難しい選手でもあるのだ。

扱い方が難しい、監督泣かせの人気選手。この殻を破らなければ、香川はよりよい選手になっていかない。ドルトムント以外での活躍は保証の限りではない。日本代表選手としてもしかりだ。幅の狭い選手のまま2018年を迎えることになれば、W杯で中心選手として活躍できない可能性が高い。

これは日本代表のためにもならない。アギーレにとってもよい話ではないはずだ。何か手段を講じる必要がある。ザッケローニはその現状を放置して失敗した。アギーレはどう対処するつもりなのか。

今その第一歩が始まろうとしている。アギーレ対香川。両者の関係には、今後の日本代表の行方を占うヒントが隠されている。アギーレの監督としての能力を推し量ることもできる。目が離せないのである。

(集英社・Web Sportiva 10 月8日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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