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旧統一教会、スポークスパーソン交代は成功したが…わかりにくい公式発表、一番の問題点は

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:ロイター/アフロ)

 世界平和統一家庭連合(以下、旧統一教会)が存続の危機にあります。宗教法人法に基づく「質問権」を行使されることが正式に決定したからです。質問権による調査の結果、解散命令が出される可能性があります。この危機に旧統一教会は、どう説明してきたのでしょうか。わかりにくさが目立つのはなぜなのか。彼らの公式発表から情報発信の問題点を探ります。

プレスリリースの内容が意味不明

 安倍元総理の銃撃事件後、旧統一教会が公式HPで発表したプレスリリースは、7月17日から10月20日までに18本。記者会見は6回。それなりの本数ですが、一番の問題点はせっかく開催している記者会見の内容が彼らのニュース一覧に掲載されていないため、わからないこと。正式記者会見を開いていないように見えてしまうのです。こうなると、公式記者会見のスピーチ原稿や質疑応答、動画を他のメディア掲載で探さなくてはならず、彼らの一貫した主張が理解しにくくなります。記者会見を頻繁に開いて説明する努力をしていることを伝えるためにもいつどこで記者会見を開催したのか、プレスリリース一覧でわかるようにした方がよかったといえます。

 検索すると、7月11日(教会主催)、8月10日(外国特派員協会)、9月22日(教会主催)、9月29日(司法記者クラブ)、10月4日(教会主催 中央紙とNHK、民放キー局に限定)、10月20日(教会主催)と開催していることがわかりました。しかし、探さないとわかりません。いつ開催したのか、彼らのHPからは把握できません。(下記に一覧を掲載)

 肝心な公式記者会見の内容がないまま、プレスリリースで会見での訂正、異常な過熱報道への注意喚起、全国霊感商法対策弁護士連絡会への抗議、反論文書だけが掲載されているため、元になる記者会見をいちいち検索して探さなければなりません。いや、そもそも記者会見があったかどうかさえ不明なので、主張の意味を読み解くことができないのです。たとえば、10月20日。この日は教会主催で記者会見を開いていますが、そのことは記載されておらず、プレスリリースのタイトルは「橋田淳子さんインタビューアップ」。「高知県の橋田達夫さんが、現在様々なメディアの報道の中で述べているそれぞれの主張に対して、今回、元妻の淳子さんの立場から話してもらいました」との説明とインタビュー動画。これでは訳がわかりません。

「トラブルなし」発言お詫びと抗議が混在

 遡ると、情報開示方針が間違っていたように見えます。最初に掲載されているのは、7月17日の「メディア報道への声明文」です。訂正とお詫びについて、訂正の前提となる7月11日の記者会見の内容はなぜか掲載されておらず、肝心な最初の記者会見がありません。動画を撮影しそびれていたとしても彼らが発表した原稿はあるでしょうから、それを掲載することはできたはず。

 本件についての唯一の公式見解書のように見えるのは、7月17日の「メディア報道への声明文」のみ。クリックすると出てきた文書のタイトルは「声明文」で何の声明文か不明。リード文は、7月11日に記者会見を行った意図、きちんと報道陣の質問に回答して誠意をみせたこと、それにもかかわらずヘイトクライムの誘発懸念、信者を守る観点から声明文を出すことにしたとあり、理由の掲載。そもそも7月11日の記者会見の内容が掲載されていませんので、再度動画を検索して探す必要があります。

 声明文での主張は5つ。1は、安倍元総理への哀悼、2は、山上容疑者の家庭に起きた悲劇への哀憐と支えきれなかった法人としての悔い、3は、メディアが事件の偏向報道をしていることへの抗議、4は、7月11日会見の訂正とお詫び、5は、報道が信徒や職員へ脅迫の電話を引き起こしていることへの危惧。お詫びと抗議が混在しています。この時点で最も重要だったのは、「トラブルなし」と言ってしまったことへのお詫びでなければなりません。それが埋もれてしまっているのです。

第四に、当法人の田中会長が記者会見で行った「2009年以降はトラブルが起こっていない」との発言が嘘であるとの主張が連絡会所属の弁護士によってなされ、2009年のコンプライアンス宣言以降も被害が続出しており、その実態が全く変わっていないかのような報道がなされておりますので、この点に関する当法人の見解を示させていただきます。そもそもこのコンプライアンス宣言とは、過去において一部の教会員の行き過ぎた活動が違法行為とされ、それを十分指導・監督できなかった教団の使用者責任が問われたケースがいくつかあったため、教会員が法令を遵守し、公序良俗に反する行いが無いように、教団が責任をもって指導することを宣言したものです。それ以降、当法人を相手取った民事訴訟の数は着実に減少してきています。

先日の会見における当法人会長の「それ以降のトラブルはない」との発言については、2009年のコンプライアンス宣言以降は、信徒たちのコンプライアンス遵守の結果が大きく表れているという趣旨で行ったものであります。それまでのようなトラブルがゼロになったという意味で言ったものではありません。その点は言葉不足で、誤解を招いてしまったことを率直にお詫び申し上げます。

 「トラブルはない」=「コンプライアンス遵守の結果が大きく表れていること」の説明は意味がわかりません。9月と10月の会見で繰り返し「トラブルなし」発言について質問を受けていますが、そこでの回答は「減少しているということ」「国民生活センター全体へのクレーム件数からすると当法人の割合は0.003%でかなり少ないということ」。なぜ全体で比較するのか意味不明であり、最後は「トラブルなしと言ってしまったのは、会長が報告を受けていなかったのではないか」と投げやりな回答。現場の実態を把握していない、調査していない、原因分析ができていない姿を露呈しています。

日本の貢献度が「わからない」

 8月10日の外国特派員協会での旧統一教会の田中富広会長による記者会見は、招請によるものであって自主開催ではありません。招請された記者会見では、その場のルールに従う必要があります。通常は招請された人が20分程度話をしてから質疑応答に多くの時間を割きます。今回は30分の予定だったところ、田中会長は、最初に45分も話をし、3回にわたり、司会者の「そろそろ」の制御を振り切って「最後まで読ませてください」と原稿を読み続けました。これでは、ルールを無視して自己主張ばかりする団体だと思われてしまいます。

 外国人記者からの質問は、「最初に謝罪しておいてそのあと40分かけて何も悪いことをしていないと主張したが、最初の謝罪の意味は?」「岸田政権から、議員に対して教団と距離を置くように指示が出ている。このことをどう捉えているのか」「日本の献金が世界の活動資金になっているのか」「関連団体と政治家との関係はどうなっているのか」「100人以上の自民党議員との関係をもっている。組織として指示したのではないか」。自民党議員との関わり方に関する質問が多くありました。

 質疑応答の中で最も驚いたのは、田中会長が日本の献金貢献度を把握していなかったことです。

世界的な活動の中で日本が資金源になっているというのは本当か。それが本当なら、どのような考えの背景の中でそうなっているのか。教えの中に韓国を支えなければいけないといったものがあるのか。世界全体の中のシェアについて数字で出せるものはないか

この質問に対して、旧統一教会の田中富広会長はこう回答しています。

日本が全て背負っているという事実はない。日本法人から多くの宣教師が伝道しているのは事実。世界に献金を送っているのは事実。合法的に進めている。日本法人としては、世界に占める日本からの献金金額のシェア数字はわからない

 日本の信者が世界にどのくらい貢献しているのか、数字を把握していないとは・・・やはり韓国の言いなりだったのか、お金だけ吸い上げられていたのでは、と思われます。せめて「のちほど回答する」にとどめておけばいいものを。これでは信者は報われないのではないでしょうか。10月4日の記者会見でも「本部と現場に距離感があるのではないか。取材で現場の教会に同行したがまともな対応ではなかった」。良い数字も把握していないのであれば、被害の事実の把握もできていないと推測できます。

スポークスパーソン交代は成功

 9月22日からの会見でスポークスパーソンは交代し、新しく任命された勅使河原秀行・改革推進本部長へ変更になりました。会見の目的は「教会改革の方針」説明。過去に向き合い、原因を説明してこそ再発防止になりますが、将来を語るのみ。この日掲載されているプレスリリースは、「本日の勅使河原秀行教会改革推進本部長が行った会見で示しました実際に被害を訴えられた件数及び和解額のフリップに間違いがありましたので、訂正させていただきます」。やはりここでも会見で発表された原稿はなく、訂正のみで読むだけでは意味不明。

 唯一、田中会長からのスポークスパーソン交代は成功しています。田中会長は表情が乏しく型どおりの回答で冷たい印象でしたが、勅使河原本部長は表情があり、温かい印象が残ります。かつてはテッシーと呼ばれ話題になった人でもあることも影響しているのでしょう。その後の会見では、「勅使河原さんの説明と現場の対応は違いすぎる。現場を把握していのでは。情報が来ないのでは」と勅使河原氏の体当たりの説明や回答にやや同情するような質問が飛び交い始め、距離が近づいているように見えます。「霊感商法については本で読んで知っているだけです!」とつい本当のことを言ってしまうテッシーの回答は隙だらけではありますが報道陣も憎めないのか攻めきれない。

被害者2世信者へのメッセージが皆無

 9月29日、10月4日の記者会見についてプレスリリースでは何も記載されていません。危機発生時には、事実認識、経緯、原因、再発防止策、見解が説明されることが信頼回復の第一歩です。彼らの一連のプレスリリース18本には、再発防止策と見解(過剰報道への抗議)が多く、事実認識、経緯、原因説明が弱いのです。唯一掲載された外国特派員協会の原稿では、「過剰なメディア報道によって、当法人の信徒から様々な被害が報告されております」と被害者としての説明に多く、原因や反省の言葉がありません。報道被害に目が行ってしまい、今回安倍元総理銃撃事件で明らかになった家庭崩壊で被害者となった2世信者の苦しみに寄り添っていない。あるのは残念な気持ちのみ。「結果として山上家庭にこのような悲劇が起きてしまったとするならば、当法人が十分に支えきれなかったことを率直に認めざるを得ません」(7月17日)。問題発生時には被害者感情が優先されてしまい、本当の被害者を見失うことは、組織ではしばしば起こってしまいがちです。

 文科省の発表によると旧統一教会に関しての民事裁判で1994年以降、「使用者責任」20件、「組織的な不法行為2件」、合計22件を把握。今回の質問権でもこれら22件の事例について調査をするとしています。

 「使用者責任」と「組織的な不法行為」はどう違うのでしょうか。フランテック法律事務所の金井高志弁護士によると、「使用者責任は会社・組織の社員や構成員に対する違法行為をさせないようにする監督責任。組織的な不法行為は、トップ・経営陣などからの指示で組織的な違法行為を社員や構成員にさせること。指揮命令関係の証拠といった内部資料を入手しないと組織的な不法行為までの認定までは難しい」とのこと。

 証拠があるかないかの違いであって、責任の重さは変わらないといえそうです。

回答期限は12月9日。*彼らが過去、原因にどう向き合うのか注目したいと思います。

*厚労省は12月5日養子縁組あっせん法についての回答文書を受け取ったことを明らかにしています。詳細内容は不明。

■旧統一教会の情報発信戦略全体について解説(RMCAチャンネル「リスクマネジメント・ジャーナル」)

■旧統一教会の田中会長が冷たい印象を残した理由と改善方法について解説(石川慶子MTチャンネル「メディアトレーニング座談会」)

<参考サイト>

世界平和統一家庭連合 プレスリリース一覧

https://ffwpu.jp/news

7月11日 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の田中会長が会見(MBSニュース)

https://www.mbs.jp/news/feature/kansai/article/2022/07/090058.shtml

8月10日 田中会長が外国特派員協会で記者会見(THE PAGE)

https://www.youtube.com/watch?v=v8iKbPUFRmc

9月22日 勅使河原秀行教会改革推進本部長が弁護士と記者会見(THE PAGE)

https://www.youtube.com/watch?v=7fZwx_r9NFI

9月29日 勅使河原秀行教会改革推進本部長が記者会見(時事ドットコム)

https://www.jiji.com/jc/article?k=2022092900862&g=soc

10月4日 勅使河原秀行教会改革推進本部長が記者会見(ABEMA)

https://www.youtube.com/watch?v=mKrggMQ6uwA

10月20日 勅使河原秀行教会改革推進本部長が記者会見(THE PAGE)

https://www.youtube.com/watch?v=vZDdVt4TTZo

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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