シャーム解放機構(シリアのアル=カーイダ)指導者のジャウラーニーはシリア第4の都市ハマーの制圧を発表
「シリアのアル=カーイダ」として知られる国際テロ組織のシャーム解放機構が主導する「攻撃抑止」軍事作戦局は12月5日、シリア中部に位置するシリア第4の都市ハマー市を制圧した。
シャーム解放機構が主導する反体制派が県庁所在地を掌握するのは、イドリブ市(2015年3月)、アレッポ市(2024年11月)に続いて3市目。また、シリア政府の支配が及ばなくなった県庁所在地は、トルコが「分離主義テロ組織」とみなすクルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する北・東シリア地域民主自治局が実質統治するラッカ市に続いて4市目となった。
「攻撃抑止」軍事作戦局による戦果発表
「攻撃抑止」軍事作戦局がテレグラムに開設している専用アカウントによると、同作戦局は12月4日午後6時頃にハマー市北西のハッターブ村、マジュダル村、シール村、スービーン村、北東部のサアン町、サッルージュ村、シャイフ・ハラール村を制圧した。続いて、午後8時頃、シャーム解放機構の精鋭部隊であるアサーイブ・ハムラー(赤い鉢巻き)部隊がハッターブ村一帯でシリア軍兵士50人以上を殲滅したと発表した。
「攻撃抑止」軍事作戦局は翌12月5日の午前11時14分、ハマー市への進攻を開始したと発表した。午後2時46分にはハマー市内の複数地区を解放、午後2時53分にハマー中央刑務所に突入し、収監者数百人を解放したとしたうえで、午後2時57分に、援軍としてハマー市一帯に派遣されていたシリア軍第25特殊任務師団を打破したと発表した。第25特殊任務師団は、「トラ」の愛称で知られるスハイル・ハサン准将を指揮官とし、2010年代にロシアの支援を受けてイスラーム国や反体制派との戦闘を主導した精鋭部隊で、2022年2月にウクライナでロシアが開始した特別軍事作戦にも兵士(義勇兵、傭兵)を派遣していると言われる。
ジャウラーニーのビデオ映像
そして、午後3時17分、シャーム解放機構指導者のアブー・ムハンマド・ジャウラーニーがハマー市民に向けたメッセージ映像を「戦闘抑止」軍事作戦局のテレグラム・アカウントを通じて配信した。メッセージの内容は以下の通りである。
撮影された時間、場所は不明だが、ジャウラーニーの後ろには、ハマー市の中心部の時計広場を象徴する時計台と、市内を流れるアースィー(オロンテス)川に建設された世界最大の木製水車の絵が飾られていた。
「攻撃抑止」軍事作戦局も午後6時44分にハマー市を、午後7時8分にハマー航空基地、ザイン・アービディーン山、カムハーナ村を制圧したとしたうえで、午後6時50分、ヒムス県に進軍すると発表した。
なお、シリア国防省は12月5日午後4時35分、シリア軍が首都ダマスカス県上空で無人航空機2機を撃墜したと発表した。これに関して、反体制派系サイトのサウト・アースィマは、「攻撃抑止」軍事作戦局所属の複数の無人航空機がダマスカス郊外県に飛来し、シリア軍防空部隊がこれを迎撃したと伝えているが、「攻撃抑止」軍事作戦局からの正式な発表はなかった。
シリア政府の反応
ハマー市も、アレッポ市と同じく1日も経たずして陥落したが、これに関してシリアの国防省は午後3時7分、つまりはジャウラーニーのビデオ映像が公開される10分前にフェイスブックの公式アカウントを通じて以下のような声明を発表し、民間人が戦闘に巻き込まれるのを回避するためにハマー市外に部隊を再配置したと発表した。
また、午後10時頃には、アリー・マフムード・アッバース国防大臣(兼軍武装部隊副司令官、中将)は国民に向けてテレビ演説を行った。演説の概要は以下の通りである。
アレッポ市が陥落した際、シリア政府は、国防省が軍武装部隊総司令部声明を発表しただけだった。ハマー市陥落を受けてアッバース国防大臣が演説をしたことは、政権内のショックの表れとも捉えることができる。なぜなら、2011年の「アラブの春」の波及に伴って始まった紛争(いわゆるシリア内戦)において、ハマー市は一貫してシリア政府の支配下に留まっていたこと、そしてハマー市の南50キロに位置するシリア第3の都市ヒムス市がシャーム解放機構らの手に堕ちた場合、首都ダマスカスと、政府の最大の地盤地域であるラタキア県、タルトゥース県が寸断されるからである。
シリア中部へのシャーム解放機構の侵攻を阻止することができなければ、シリア政府は過去最大の危機に直面するかもしれない。