10年越えて続く関係人口。ソト者との関係を続ける秘訣は「with」の姿勢
東京一極集中の是正、地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力を上げることを目的に2014年に始まった地方創生。新型コロナウイルス禍で初めて東京が「転出超過」を記録し、注目を集めた地方移住だったが、2022年の住民基本台帳に基づく人口移動報告によると東京都は3万人以上の「転入超過」となり3年ぶりに拡大。結局首都圏への一極集中のトレンドは変わらず、地方の人口減少問題は深刻さを増している。
地方創生の柱のひとつが「関係人口」の拡大だ。関係人口とは、特定の地域に継続的に多様な形で関わる人のこと。移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々を増やすことで、地域の持続性を高めようという取り組みだ。
関係人口はどれだけ続いているのか?
関係人口創出のために、地方ではさまざまなプロジェクトが実施されている。メディアでもユニークな取り組みが多数報道されている一方で、関係が長く続いているという点での成果はあまり耳にしない。関係人口を考える上では「広くたくさんの人に来てもらう」こと以上に、一度つながった人に「長く地域に関わり続けてもらう」ことが重要ではないか。
今回は、2004年の中越地震からの復興事業をきっかけに外部人材を受け入れ、今もそのつながりが続く新潟県長岡市小国の下村地区の取り組みを紹介する。
復興支援をきっかけに長年続く関係がスタート
新潟県長岡市にある旧小国町。人口は4,456人(令和5年6月1日現在)。新潟県の中南部に位置し、標高300から500mの山脈に囲まれた盆地で、自然豊かな一方で、人口減少が著しい典型的な中山間地域だ。
2004年の中越地震では2回の震度6強を記録。被害は死者1名、負傷者25名、家屋全壊277棟、大規模半壊109棟、半壊493棟、一部破損1,578棟に上った。
下村地区はその長岡市小国の横沢地域内にある、約70世帯、200人程の山村集落だ。震災から6年後の2010年に復興デザイン策定の取り組むため下村集落振興協議会(以下、振興協議会)を立ち上げた。その事業の中で学生を受け入れることとなり、当時長岡大学の1年生だった増沢成美さんらの学生サークル「地域交流サークルびゅう」との関係がスタートした。
田植え・稲刈り・盆踊り・花火大会・畑を借りての農作業・冬祭りに収穫祭の企画などをしてきた。一般には学生が関わるプロジェクトの多くが、学生の進級や卒業によりメンバーが入れ替わり続ける。しかし、下村地区と増沢さんたちとの関わりは途切れることがなかった。気がつけば卒業後も、友達や、パートナー、子どもを連れていく「まるで親戚のような関係」が12年にわたって続いている。
半分クローズな関わりだからこそ育まれた深い関係性
下村地区の取り組みの特徴として、少数のほぼ同じ学生と活動を続け、卒業後も同じメンバーに声をかけ続け一緒に活動してきたことがある。
地域でイベントを行う際も、不特定多数にチラシを配ったり、呼びかけたりするのではなく、基本的には増沢さんたちにだけ声かけをしていたようだ。たくさんのお客様のうちのひとりではなく、いつも来る大学生たち。最初は地域の人から「大学生」と声をかけられていたが、次第に名前で呼ばれるように。学生側も地域の人たちを名前で呼べるようになってきてようやく、「地域に受け入れてもらえ、学生の生活にも下村集落がじわじわと染み込むように入ってきた」(増沢さん)と言う。
「親戚のような関係」の背景には、不特定多数を集めるのではなく、少人数で特定のメンバーが、何度も顔を合わせ、一緒に活動を積み重ねることで育まれた安心感・信頼感があるのではないだろうか。
暮らしを共有する「with」の姿勢
受け入れ団体となった振興協議会の前身は、「道楽会」という地域の人たちがお酒を飲んで楽しむ会だった。「人が来てくれれば、それを口実にみんなで集まることができる。学生を受け入れることを口実にして、自分たちにとっても楽しい場が増やしたいと思っていた」と、代表の山﨑忠吉さん。
地域活性化というと「いかにたくさんの人を集客するか?」を優先しがちだが、山﨑さんらは「自分たちが楽しむ姿勢」を大切にしているという。だからこそ、受け入れた学生は「一緒に楽しむ仲間」であり、イベントなどに声をかける際も、集客のための告知ではなく、「友達を遊びに誘う」ように声をかけてきたそうだ。山﨑さんが大切にしてきたという「お互いが気を遣わずにみんなで楽しむ」という方針からは、「for=〇〇のために」という目的達成型の思考ではなく、「with=○○と共に」という関わる人重視の思考が感じられる。
実は、下村地区には他の学生ボランティアサークルも支援に入ったそうだ。しかし、地域おこし支援を目的に多数の地域に入っていたそのサークルは、下村地区に一定期間関わった後、また別の地域へと活動を移していった。彼らは目的達成型のグループだったのだろう。
一方、増沢さんたちのサークルの活動目的は、もともと「地域おこし」ではなく「郷土料理研究」だった。たまたま誘いがあり下村地区に関わり始めたが、そこで出会った人や、暮らし、下村地区で過ごす時間の楽しさに魅了されて下村地区が活動の中心となった。増沢さんたちが下村に通う理由は、地域おこしではなく、ただ下村地区の人たちと一緒に過ごしたいという「with」の動機の方が強かったのではないか。
地域側も、学生側も「共に過ごす」という「with」に楽しさを見いだしていたことが、長続きした関係の根本にありそうだ。
プライベートの広がりこそが関係人口持続の秘訣
地方の人口減少問題が加速する中、各地で地域おこしや移住促進のPR、イベント企画、プロジェクトづくり競争は過激化しているように思う。
しかし、受け入れ側の地域にとっては100人のお客様に来てもらうよりも、例えば集落の草刈りを定期的に手伝ってくれるようなひとりの方がありがたい、ということもある。
下村地区の山﨑さんや、増沢さんら元学生メンバーが入っているLINEグループ「下村LINE」では、下村地区の行事のチラシや振興協議会メンバーで行う芋煮会、BBQのお誘いから「結婚しました!」「子どもが産まれました!」という報告メッセージまで、まさに親戚たちのようなやりとりがされている。
文字通り食卓を共に囲むような、プライベートな人間関係を築いてきた下村地区と元学生たち。こうしたプライベートな取り組みはメディアに取材されるような派手さはない。しかし、こうした地道なつながりの育み方こそが、関係人口づくりの近道なのではないだろうか。