大阪桐蔭、神宮大会連覇! 次はセンバツ連覇へ 神宮で明らかになった課題とは?
4回を終わって5点差。打線もわずか1安打と沈黙し、挽回は難しいかと思われた展開を、王者は一気にひっくり返した。大阪桐蔭(近畿)が、広陵(広島=中国)に6-5で逆転勝ちし、史上初の神宮大会連覇を果たした。高校球界をリードする名門に、また新たな勲章が加わった。
4回、真鍋のアーチで5点差つけられる
大阪桐蔭は先発の右腕・南恒誠(2年)が制球に苦しみ2回、満塁のピンチを背負うと、一塁手と三塁手の連続失策で失点するなど、重苦しい立ち上がり。二番手の右腕・南陽人(1年)も4回、「広陵のボンズ」こと真鍋慧(2年)に特大2ランを叩き込まれ、5点差をつけられると、さしもの大阪桐蔭もこれまでかと思われた。
幸運三塁打きっかけに中盤で逆転
しかし思わぬ形で流れが変わる。5回表、先頭の6番・長澤元(2年)の大きな当たりを広陵の左翼手が見失った(記録は三塁打)。これで動揺したか、4回まで1安打の好投を続けていた広陵先発の左腕・倉重聡(2年)がリズムを乱す。下位打者がつないで上位に回すと、2番・山田太成(2年)の適時二塁打など3連打と押し出し四球で、一気に5点を奪って追いついた。続く6回には広陵の二番手右腕・高尾響(1年)を攻め、山田が当たり損ねの投手への内野安打でひっくり返す。序盤戦が嘘のような展開となり、ベンチでウインドブレーカーを着ていた大黒柱がブルペンへ向かった。
逆転してエース・前田が登板
5点のきっかけとなった三塁打と勝ち越しの適時打はいずれも幸運な当たりで、5回と6回だけ、大阪桐蔭に流れが傾いた。勝ち越すと、西谷浩一監督(53)は迷わずエースを指名した。満を持して前田悠伍(2年=主将)がマウンドに上がる。昨日の雨天順延も大阪桐蔭に味方した。仙台育英(宮城=東北)戦で161球を投げていた前田にとって、一日の休養は大きかったに違いない。6回以降の4イニングを被安打3、7奪三振にまとめ、1点差を守り切った。神宮のマウンドにも慣れた様子で、きわどい判定もあったが動じることなく、風格すら感じさせた。
前田が投げない時間帯は別チーム?
「去年は(先輩たちに)引っ張ってもらった。今年は自分で引っ張っていけて嬉しい」と、落ち着いた表情で答えた前田。全国の逸材が集まる大阪桐蔭で、これだけの安定感と、西谷監督からの信頼を得られる選手も珍しい。しかしここに、大阪桐蔭の今チームの弱点が隠れていることを見逃してはいけない。この日は幸運なイニングに恵まれたが、前田が投げない時間帯は、まるで別チームのような試合をしていたからだ。前田は初戦の東邦(愛知=東海)と、準決勝の仙台育英という有力校相手に完投していた。広陵戦は、序盤のような展開が続いていたら、登板の機会が巡ってこなかっただろう。
いかに前田の負担を減らせるか
前田以外に5人の右腕がいる大阪桐蔭は、すべての投手が140キロを超える直球を投げる。しかし球の質や制球力は、5人を合わせても前田に及ばない。はからずもこれは、神宮の決勝で明らかになった。決勝の先発を任された南恒は、今チームでは前田との両輪と期待されたが、制球に苦しむ場面が多く、伸び悩んでいる。打撃面で頭角を現した境亮陽(1年)は、近畿大会での先発もあったが、投手としては未知数で、長いイニングは期待できない。連覇の懸かるセンバツでは、最低でも5勝が必要になるので、前田の負担をどれだけ減らせるか。投手陣のレベルアップが最大の課題だ。
野手陣は4番以降が固まらず
攻撃陣も前チームより安定感で劣る。打順が決まっているのは1番の小川大地(2年)と山田、徳丸快晴(1年)の3番までで、4番からあとは固まっていない。控え選手との差が少ないと言えばよく聞こえるが、実際は西谷監督がその時の調子や相手との相性を考慮して起用しているだけで、足を使える選手も少ない。この日も失策で投手の足を引っ張ったが、選手を代えると守備の不安も増すので、センバツまでに野手陣の底上げも必要になる。
前チームで逃した高校4冠をめざす
「(失策など)未熟なところが出た。チームが発展途上の中、粘り強く戦えたが、この試合で勉強したことを大阪へ持ち帰って、しっかり鍛えたい」と、西谷監督はオフシーズンの厳しい練習を予告した。前田は「秋の日本一を目標にやってきた。春には成長した姿を見せたい」と、神宮を制した喜びもそこそこに、センバツへ思いを馳せる。大阪桐蔭史上最高の左腕を擁し、前チームでなしえなかった高校4冠(神宮、センバツ、選手権、国体)をめざす王者に、休んでいる暇はない。