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1日わずか1往復 乗車難易度が高すぎる特急「むろと」 令和7(2025)年3月ダイヤ改正で廃止へ

清水要鉄道・旅行ライター
特急「むろと」

 JR四国は12月13日、令和7(2025)年3月ダイヤ改正で特急「むろと」を廃止すると発表した。

 特急「むろと」は徳島県の牟岐線を走る特急で、徳島~牟岐(むぎ)間67.7キロを1日1往復結んでいる。名称は牟岐から半島のさらに先にある室戸岬に由来しており、牟岐線が室戸まで延伸されるようにとの願いも込められていたが、結局線路が到達できたのは甲浦(かんのうら)までだった。この「むろと」が珍しいのはそのダイヤだ。下りは夜、上りは早朝に運転され、県都徳島への通勤と徳島から阿南・牟岐方面への帰宅に特化したような運転形態である。

徳島駅で発車を待つ特急「むろと」
徳島駅で発車を待つ特急「むろと」

 下りの「むろと1号」は、徳島を19時33分に出発し、20時58分に終点の牟岐に着く。上りの「むろと2号」は6時59分に牟岐を出発し、8時20分に終点の徳島に着く。ちなみに牟岐を6時21分に発車し、阿波海南に6時34分に着く普通列車と、阿波海南を6時44分に発車し、6時56分に牟岐に着く普通列車にも、「むろと」用のキハ185系が用いられており、牟岐に着くとそのまま特急になるという間合い運用だ。もし旅行者が乗るのであれば牟岐に宿泊し、早起きするほかないだろう。牟岐町は人口約3000人の小さな漁村で、牟岐駅周辺に宿泊施設は一軒しかない。「むろと」は沿線住民以外にとっては乗るだけで難易度が高い特急なのだ。

減便前の特急「むろと」 牟岐にて
減便前の特急「むろと」 牟岐にて

 しかし、「むろと」は昔から乗車難易度が高かったわけではない。ここでその歴史を振り返ってみよう。

 「むろと」の歴史は昭和37(1962)年7月18日に運行を開始した準急「むろと」にまで遡る。高松と牟岐を結ぶ準急で、牟岐線では初めての優等列車であった。準急「むろと」は昭和41(1966)年3月5日に格上げされて急行「むろと」となり、昭和63(1988)年4月10日に急行「阿波」に改称された。

 しかし、「阿波」は長くは続かず平成2(1990)年11月21日には特急「うずしお」に格上げされて統合された。これにより牟岐線にも特急が走るようになったが、徳島までの「うずしお」の一部が牟岐まで足を延ばすといった感じであった。

特急「剣山」
特急「剣山」

 平成10(1998)年3月14日にはこれに特急「剣山」が加わる。「剣山」は徳島線の徳島~阿波池田間を走る特急だったが、牟岐線・阿佐海岸鉄道に乗り入れて甲浦まで走る便が増発されたのだ。これにより、牟岐線はローカル線ながら2種類の特急が走る路線へと変貌を遂げた。

 平成11(1999)年3月13日にはさらなる変化が訪れる。「うずしお」が徳島駅を境に系統分離されることとなった。分離された牟岐線内の区間には新たに特急「むろと」の名が与えられ、「阿波」への改称以来11年ぶりの復活となった。

阿南駅で発車を待つ特急「ホームエクスプレス阿南」
阿南駅で発車を待つ特急「ホームエクスプレス阿南」

 その後、本数の変化や阿佐海岸鉄道への乗り入れ終了などを経て、平成18(2006)年6月1日には徳島~阿南間の区間便が夕方に2往復増発された。この区間便は平成20(2008)年3月15日に「ホームエクスプレス阿南」に改称され、同時に上り1本は夕方から朝に変更されている。

 平成21(2009)年3月14日には阿波池田発海部行きの「剣山」が徳島駅での誤乗防止を目的に「むろと」に改称され、平成23(2011)年3月12日には朝の上り「ホームエクスプレス阿南」が「剣山」に統合され、阿南発阿波池田行きとなった。平成24(2012)年3月17日には、夕方の下り1本の廃止により、「ホームエクスプレス阿南」は1往復となっている。また、阿南発の「剣山」も徳島発に変更された。

 平成26(2014)年3月15日には「剣山」が徳島駅を境に系統分離され、これにより徳島線内は「剣山」、牟岐線内は「むろと」と整理され、分かりやすくなった。

「ホームエクスプレス阿南」のヘッドマーク
「ホームエクスプレス阿南」のヘッドマーク

 毎年のように細かな変化を繰り返してきた牟岐線の特急列車が現在の姿になったのは、平成31(2019)年3月16日のことだ。このダイヤ改正では牟岐線のダイヤに大鉈が振るわれ、徳島~阿南間が日中30分間隔のパターンダイヤとなったのと引き換えに、阿南~海部間では減便が行われた。特急も減便の対象で、「むろと」は朝の上りと夜の下りのみ1往復となり、「ホームエクスプレス阿南」は廃止。11年の歴史に幕を下ろした。

「むろと」のヘッドマーク 室戸岬の灯台をイメージしたデザイン
「むろと」のヘッドマーク 室戸岬の灯台をイメージしたデザイン

 以降、乗車難易度が高い特急として細々と令和を生き抜いてきた特急「むろと」だったが、利用者数の減少や乗務員不足を背景に、この度廃止となることが決まった。3月ダイヤ改正を以て、準急「むろと」以来62年8か月、特急「むろと」としては26年間の歴史に幕を下ろす。これにより牟岐線からは優等列車が消滅、普通列車のみが走る路線となる。

 3月ダイヤ改正ではこのほか、「うずしお」「剣山」や普通列車の減便も予定されており、キハ185系の運用も大きく減らされることとなる。国鉄末期の登場以来、40年近くに渡って活躍してきたキハ185系だが、これを機に余剰廃車が出るのかも気になるところだ。

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鉄道・旅行ライター

駅に降りることが好きな「降り鉄」で、全駅訪問目指して全国の駅を巡る日々。

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