チャーロ対カスターニョの4団体王座統一戦が不可解なドロー判定に終わった余波
7月17日 テキサス州サンアントニオ AT&Tセンター
WBC, WBA, IBF & WBO世界スーパーウェルター級王座統一戦
WBC, WBA, IBF王者
ジャーメル・チャーロ(アメリカ/31歳/34勝(18KO)1敗1分)
1-1引き分け(117-111, 113-114, 114-114)
WBO王者
ブライアン・カスターニョ(アルゼンチン/31歳/17勝(12KO)無敗2分)
期待通りの好ファイト
“If you build, he will come(それを作れば、彼はやってくる)”。映画「フィールド・オブ・ドリームス」の有名なフレーズ通り、好カードさえ組めば、良い試合が生まれることを改めて証明するような一戦と言えたのだろう。
戦前から期待の大きかったスーパーウェルター級史上初の4団体統一戦。ファイトスタイル的にも噛み合うという予測通り、2人の王者はハイレベルかつ見せ場の多い攻防を12ラウンズにわたって展開してくれた。結果、ドローで男子史上7人目の4団体統一王者は生まれなかったが、ファンを喜ばせる内容だったことは間違いない。
前半〜中盤を通じて主導権を奪ったのは、手数、機動力、クイックネス、スムーズな連打に秀でたカスターニョの方。2回にはチャーロがカウンターの左フックでダメージを与えるも、カスターニョは以降、ガードを上げ、上体を動かすことでディフェンス面でも適応してみせた。
チャーロも黙って引き下がったわけではなく、10回に再び左フックを当ててチャンスを掴む。それでもダメージでスローダウンしたWBO王者をフィニッシュするには至らず、ポイント争いではカスターニョがやや優位という印象のままで終了ゴングを聞いた。
「勝ったのは俺だ。俺の方がより大きなダメージを与えたはずだ。カスターニョは本物のウォリアーだが、この階級での俺のパワーは本物だ」
息もつかせぬスリリングなバトルを終え、リング上でチャーロはそう述べていたが、実際にその言葉にうなずくものは数少なかったはずだ。
大方のメディア、関係者が「カスターニョ優勢」
戦前、一般的にはややチャーロが有利という声が多かったものの、カスターニョにも十分にチャンスありと目されていた統一戦。筆者はKOならチャーロ、判定にもつれ込むならカスターニョと見ていたが、だいたいその予想通りの流れになった。
パワーと決定力が売りのチャーロは、デオンテイ・ワイルダー、ダニー・ガルシア(ともにアメリカ)らと同様、タイミングの良いパンチで致命的な効果を生み出すのが必勝パターン。その勝負強さは見事だが、手数は少なめで、狙い過ぎの傾向もあるため、相手に明白なダメージを与えられないラウンドはポイントを取られ易いのも特徴の1つだ。
ジョン・ジャクソン、オースティン・トラウト、トニー・ハリソン(すべてアメリカ)との対戦ではほぼ過半数のラウンドを奪われ、前戦のジェイソン・ロサリオ(ドミニカ共和国)戦でもダウンを取れなかったラウンドはほとんど失っていた。
今回もその傾向は同じ。カスターニョが明らかに効いていた2、10、11ラウンド以外、チャーロに文句なしでポイントを振ることができるラウンドを探すのは容易ではなかった。だとすれば、アメリカでも大方のメディア、関係者がカスターニョ優勢と見たのは当然だったのだろう。
ドローを告げられた後の開放感に溢れた表情や、9、12回に入る前にセコンドのデリック・ジェームズ・トレーナーから「KOが必要」とハッパをかけられていた姿を見る限り、公には認めないだろうが、チャーロもやや分が悪いと気付いていたのではないか。
強敵を連破し、スーパーウェルター級の3団体王者になったチャーロをパウンド・フォー・パウンド・トップ10に入れるべきという議論が最近では増えていた。しかし、いかに高レベルの戦いとはいえ、後手に回りがちだったこの試合の後で、そんな声もとりあえず沈静化するはずだ。
実力をアピールしたアルゼンチンの実力者
一方、カスターニョは今戦で間違いなくエリートレベルの技量を証明したと言って良い。アマ時代にはエロール・スペンス・ジュニア(アメリカ)に、ワールド・シリーズ・オブ・ボクシングに参戦した際にはセルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)に勝った実績がある実力者。プロでも2019年3月にはエリスランディ・ララ(キューバ)に分の良い引き分け、今年2月にはWBO王者パトリック・テシェイラ(ブラジル)に判定で圧勝と、地味ながらも印象的なレジュメを積み上げてきている。敵地での戦いも恐れず、プレッシャーをかけるのが上手なテクニシャンは、今後、業界内では相応のリスペクトを得ることだろう。
ただーーー。たとえそうだとしても、この試合で公式な勝ち星を手にできなかったことは、後々までカスターニョのキャリアを苛む可能性は十分にあるように思える。
試合後、両選手は再戦希望を述べていたが、ともにPBC傘下とはいえ、それがすんなり実現するかは微妙なところか。近年、統一路線が米ボクシングのトレンドになったのは喜ばしいことだが、指名戦の縛りもあるため、複数のタイトルを長期間保ち、統一戦ばかりをこなすのは容易ではないのが悩ましいところだ。
また、今回、アルゼンチン王者の試合巧者ぶりを思い知らされた後で、口ではなんと言おうと、チャーロが即座のリマッチを本当に望むかどうかも疑わしい。
両雄の今後に注目
早期の再戦が行われたとして、すでに手の内を曝け出しただけに、第2戦ではより消耗の少ないスタイルのチャーロの方が伸びしろは大きくなるかもしれない。チャーロは2018年にハリソンに微妙な判定で初黒星を喫したものの、翌年の再戦ではKOでリベンジした実績がある。
それらの要素から、サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ)、アンドレ・ウォード(アメリカ)との第1戦では判定に泣き、再戦でも良い結果が出せなかったゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、セルゲイ・コバレフ(ロシア)らと似たような流れのキャリアをカスターニョが辿っても不思議はないように思えるのだが・・・・・・。
繰り返すが、17日にテキサスで挙行されたスーパーウェルター級4団体統一戦は「ファンが最大の勝者」と呼びたくなるような素晴らしい内容の試合となった。強者同士の対戦を組めば、このスポーツの支持者はこんな幸福な時間を手にできるのだ。
ただ、その一方で、117-111でチャーロの勝利という不可解な採点をしたジャッジがいたこと、勝者に相応しい選手が勝ち名乗りを受けられなかったことなどが理由で、後味がスイートなばかりではなくなったのも事実。主役となったボクサーたちが今後どんなキャリアを過ごし、この日の結果がそれぞれの人生にどのような影響を及ぼすか。これから見えてくるビッグファイトの余波が気になるところでもある。