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金メダルゼロでも北朝鮮がパリ五輪を録画放送 銀メダルに終わった決勝でなく、日本に勝った卓球の試合を!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
卓球混合ダブルスで銀メダルを獲得した北朝鮮ペア(写真:ロイター/アフロ)

 直近の2021年7月に開催された「東京2020年五輪」は出場してなかったせいか、パリ五輪では北朝鮮選手らの動線が何かと注目されている。特に、北朝鮮から「もはや同胞ではなく、敵である」と、絶交を宣言された韓国は異常なほど関心を寄せている。

 華々しい五輪開会式で韓国を「北朝鮮」と間違えられアナウンスされたこともあって本来ならば「君子危うきに近寄らず」で北朝鮮を遠ざけようするものだが、逆に距離を置こうとしていたのはむしろ北朝鮮のほうであった。韓国の選手が挨拶しても、記者会見で韓国の記者が聞いても無視し、まさに知らぬ存ぜぬで押し通していた。

 肝心の成績はと言えば、韓国と北朝鮮の差は歴然としていた。

 韓国が7日午後3時現在、メダル獲得数が26個(金11、銀8、銅7)なのに対して卓球、体操、ダイビング、ボクシング、柔道、レスリング、マラソンの7種目に16人の選手を送り込んだ北朝鮮は銀メダル2個、銅メダル3個の計5個である。

 銀メダルは卓球混合ダブルスと飛び込み女子10mシンクロの2種目で、銅メダルはレスリング(男子グレコローマンスタイル60kg級)、ボクシング(女子54kg)、それに女子高飛び込みで手にしている。

 金メダルはまだゼロだ。女子フリースタイル53kg級の1試合と最終日のマラソンが残されているが、仮に金メダルを逃すと、今大会は金メダルゼロで終わる。

 北朝鮮は夏季五輪には1972年のミュンヘン大会から出場しているが、過去10回の出場で獲得した金メダルの総数は16個で、最多は1992年のバルセロナと2012年のロンドンでの4個。1996年のアトランタと2008年の北京、それに2016年のリオではそれぞれ2個だった。

 ミュンヘンと1976年のモントリオールでは金メダルは1個で、金メダルを取れなかったのは西側諸国がボイコットした1980年のモスクワ大会(金0,銀3,銅2)、2000年のシドニー大会(金0、銀1、銅3)、それに2004年のアテネ大会(金0,銀4,銅1)と、3回もある。

 「東京五輪」は「新型コロナウイルス感染対策」を理由に出場しなかったが、直近の2016年のリオでは金2、銀3、銅2個を獲得していたことからこのパリ大会でも北朝鮮は金メダルを最低1個は期待していたはずだ。

 北朝鮮は「体育強国」をスローガンに掲げている。「すべての体育人は国際競技で英雄朝鮮の華々しいスポーツ神話を引き続き創造し、金メダルで祖国を守り、共和国国旗を世界で最も高くはためかせる党の頼もしい体育戦士、偉大な金正恩時代の体育英雄にならなければならない」と精神教育を施してきた。

 金メダル以外は関心のない北朝鮮からすれば、パリ大会は不本意な成績のようにみえる。そうであるならば、五輪は放送しないはずなのだが、北朝鮮は4日午後から五輪競技の一部をダイジェストで放送していた。

 パリ五輪卓球混合ダブルス16強戦の日本との対戦を50分間ほど録画中継し、翌5日にも「飛び込み女子10メートル固定板同時競技」を35分間放送していた。いずれも銀メダルを獲得した種目だ。

 両種目とも金メダルは中国だが、北朝鮮は卓球では負けた決勝ではなく、日本に勝った試合を、また高飛込シンクロでも銀メダルを取った時の北朝鮮の選手の高跳びを流していた。

 韓国では北朝鮮には放送権がないことから他国の映像を無断で放送したのではと怪しんでいたが、どうやら北朝鮮は国際オリンピック委員会(IOC)から正式に中継権を得ていたようだ。IOC傘下のオリンピック放送サービス(OBS)が会場で撮影した競技映像を提供し、これを北朝鮮が衛星システムで受信し、放送しているとのことだ。

 飛び込みでは編集して、決勝に進出した中国、カナダ、米国の選手の飛び込みも放送していたようだが、米国の選手が映し出された時はグラフィックで挿入されていた星条旗がモザイク処理されていた。

 スポーツに政治を介入する限り、また、自国中心に陥り、北朝鮮の選手よりも優れた外国の選手の競技をありのままストレートに国民に伝えない限り、北朝鮮のスポーツに未来はない。

 北朝鮮の意に反して、朝鮮半島では「不変の敵国」の韓国こそが「スポーツ強国」である。

 その韓国も48年前の1976年のモントリオール大会では金と銀は北朝鮮と同じ1個で、銅が北朝鮮よりも4個多かっただけで大して変わらなかった。

 いつどこで、差が開いたのか、金正恩(キム・ジョンウン)総書記は一度、胸に手を当てて考えてみたらどうだろうか?

 というのも、政権が発足してから3年目の2015年3月に開催された日本の国体にあたる全国体育人大会に宛てた「スポーツ大国建設に向けた綱領指針」で金総書記は「祖国の名誉を掛け戦い、勝ち取った一つ一つの金メダルは勝利の信心を与えてくれる千金よりも貴重な財富である」と選手らにハッパをかけていたからである。

 あれから9年、一向に成績が上がらないのである。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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