三浦皇成騎手、大怪我の復帰から1年。復帰日、そしてこの1年を振り返る!!
三浦皇成騎手、1年前の復帰を語る
「しっかりと下準備はしていたつもりでしたけど、実際に乗ってみたら何か地に足がつかない感じでフワフワしていました」
2017年8月12日を振り返り、そう語ったのは騎手の三浦皇成。そこからさらに遡る事1年、16年8月14日に落馬。大怪我を負って1年間の休養を余儀なくされていた。
「ボキッという音が聞こえて馬がバランスを崩しました。馬場に投げ出された後、うしろから走ってきた馬がぶつかって、一気に息苦しくなりました」
骨盤と肋骨を骨折。9本も折れた肋骨のうち3本が肺に突き刺さった。
その後、5回に及ぶ手術。そしてリハビリ。三浦皇成がターフに姿を戻すまでに要した期間は丁度1年。冒頭に記したように昨年の8月12日に復帰。あれからまた1年が経とうとしている。
「復帰週は何かフワフワしていた」と語る三浦だが、復帰したその日にいきなり2勝。次の日も最初のレースに勝利し、騎乗機会3連勝をマークしてみせた。
「良い馬を用意してくださった関係者の方と、実力のあった馬のお陰で、感謝しかありませんでした」
まずはそう口にした後、更に続けた。
「ただ、それ以外の何か見えない力も働いていたような気がしました」
同じ週にはいきなり重賞での騎乗依頼も受けた。エルムSに出走した矢作芳人厩舎のドリームキラリだ。単勝38・3倍の8番人気。低評価ではあったが、臆することなく押して果敢にハナを奪うと、直線もまだ先頭。最後の最後に捉まったものの、レコード決着に0秒1差の3着と粘ってみせた。
「怪我で1年も休んでいた人間を乗せてくださるだけでも感謝しかありませんでした。『よく頑張ってくれた』と皆さんに言ってもらえたけど、何とか結果で応えたかっただけに、負けた事は残念に感じました」
そんな1週目の競馬は気付いたら終わっていたと語る。そして、家族の下に戻った時に「諦めないで良かった」と感じたと言う。
「正直、苦しかった1年間を思い出し、胸が熱くなる思いがしました」
復帰後の姿勢を見てくれていた人たちに助けられ……
しかし、感慨にふけっている場合ではないとすぐに気付いた。1週目が終わるとすぐに次の週がやってきた。その次の週も、そのまた次の週も同じ。復帰した三浦に休んでいる時間はなかった。
それでも、乗りたくても乗れなかった1年間を思い起こせば、幸せだった。だから、彼は努力を怠らない姿勢を貫いた。
「中途半端はしたくないと考え、毎日、毎週、課題を持って競馬と向き合うようにしました。『昨日はこうだったからこうしよう』とか『先週はどうだったからこうしなければ』という感じで肉体面も思考面も1つずつパズルのピースをはめ込んでいく感じで向き合ったんです」
レースだけでなく、調教中もトレーニングもそういう思いで臨んだ。それでいて疲れは残さないようにも考えなければいけなかった。そうすると、週末までの日にちは足りないくらいに感じたと言う。
そんな彼の姿勢をみてくれている人もいた。
11月11日の武蔵野S(G3)ではインカンテーション陣営から突然の騎乗依頼が舞い込んだ。三浦は期待に応える騎乗でこれを勝利。復帰後初となる重賞制覇を飾った。
また、いずれも勝利するには及ばなかったが有馬記念(G1)ではブレスジャーニー、年が明け、今年の大阪杯(G1)ではシュヴァルグランの鞍上をそれぞれ任された。
「ビッグレースで僕を指名していただけた。チャンスをくださった関係者の皆さんには本当に感謝しかありません。また、乗せていただける状況にまでなれた事が嬉しかったです」
そう語る三浦は、とくに大阪杯での代打騎乗が「自分にとっても大きなターニングポイントになった」と続ける。
「大魔神さん(オーナーの佐々木主浩)に対し、結果を出して応えられなかった事は申し訳ないし、悔しい想いで一杯です。
ただ、乗せていただけた事で自分の騎手人生には大きな経験になりました。この悔しさを無駄にしないように今後い生かさなければいけないと考えているし、ここ1番でもっと勝負強くなるためには何が足りないのか、改めて考えるようになりました」
その後、これもまた代打騎乗となったクリンチャーの天皇賞(春)。好騎乗ではあったが、ここも3着に敗れた。
「クリンチャーは皆に『好騎乗だった』と言っていただけました。でも、勝てなかったという事ではこれも同じ。まだまだ自分に何かが足りないわけで、トップジョッキーになるためにはその足りない何かを埋めていかなければいけないんです」
1年間の長さは同じではない
天皇賞は敗れたものの、その翌週にはスズカデヴィアスを駆って新潟大賞典を優勝。復帰後、2つ目となる重賞勝利もマークした。
また、7月14日にはこんな事もあった。この日の福島競馬第5レースの新馬戦で三浦が騎乗したのはヨークテソーロという牝馬。彼女の母MasayaはイギリスのC・ブリテン厩舎にいた馬だが、10年に彼はかの地に長期で滞在。ニューマーケット競馬場でこの馬に跨り、2着という成績を残していたのだ。
筆者である私は当時たまたま現地に行っており、7ストーン12ポンド(約49・9キログラム)の斤量のこの馬に乗るため、汗取りをしながらもトレーニングする三浦の姿を目の当たりにしていた。
「今回の新馬は当時の僕を知っている方から依頼を受けての騎乗になりました」
結果、この新馬戦を三浦は見事に勝利した。努力がいつの日か報われる事を改めて知っただろう。
「この1年間、色々ありました。重賞を2つも勝てたのも良かったです。でも、もちろん満足しているわけではありません。もっともっと勝てるように努力を続けていかなくてはいけない事は分かっています」
今週末は札幌競馬場でエルムSが行われる。大怪我から2年、復帰から丁度1年ということになる。今年、三浦は戦いの場を新潟に移したため、日曜日は関屋記念でロードクエストの手綱を取ることになる。
「復帰してからの1年はアッと言う間でした」
ベッドに横たわっていたその前の1年との充実度の違いが、彼にそう感じさせたのか。いや、アインシュタインではないが、時間は一定に時を刻んではいないのだ。誰でもそう。楽しい時間は刹那的に過ぎる。動き出した時計を再び止める事無く、三浦にはこれからも矢のごとき時間を生きて欲しい。そんな生き様の中に、G1制覇という最高の瞬間は宿していると思えるから……。
(文中敬称略、写真提供=平松さとし)