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SLやディーゼル列車が山間を抜け、海岸線を走る。消えゆくローカル鉄道の原風景を訪ねて

水上賢治映画ライター
「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」より

 台湾から届いた「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」は、鉄道にまつわるドキュメンタリー映画だ。

 焦点を当てたのは、台湾南部の枋寮駅から台東駅までを結ぶ鉄道路線「南廻線」。

 これまでSLやディーゼル列車が走り、のどかでローカルな旅愁を誘う風景が続いて人気を集めていた同路線だが、2020年までに全線が電化されることに。

 大きな変貌を遂げることになった路線を4年に渡って記録している。

 と書くと鉄道にさほど興味のない方は一気に関心が低くなるかもしれない。でも、ちょっと待ってほしい。

 シャオ・ジュイジェン監督は、失われていく沿線の原風景を映像に刻みながら、南廻線に携わる鉄道員(※親子ともに鉄道員という一家も珍しくない)やその家族たち、撮り鉄をはじめとした南廻線を愛する人々もくまなく取材。さらに、山々が連なり路線開通まで苦難の連続だった南廻線の難工事に携わった人たちも見つけ出して証言を得ることで、日本で言えば「プロジェクトX」的な要素も盛り込まれた形に。そこに是枝裕和監督『幻の光』やホウ・シャオシェン監督『戯夢人生』などで知られる音楽家のチェン・ミンジャンをはじめとした台湾を代表する腕利きスタッフの確かな仕事が加えられ、ひじょうにドラマ性あふれる1作に仕上がっている。

 南廻線との出合いから、4年にわたる撮影の日々まで。

 インディペンデントのスタイルで30年以上にわたってドキュメンタリー映画を発表し続けるシャオ・ジュイジェン監督に訊く。全四回/第一回

「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」のシャオ・ジュイジェン監督 筆者撮影
「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」のシャオ・ジュイジェン監督 筆者撮影

日本に来たときも時間が許せば列車に乗って窓の外を眺めています(笑)

 はじめに今回のプロジェクトのスタートについてこう明かす。

「まず断っておきたいのですが、これまでわたしが発表してきたドキュメンタリー映画は、すべてインディペンデントのスタイルで撮っています。

 つまり、あるところから依頼されて、という作品はひとつもありません。

 今回の作品についても、南廻線に携わるいろいろな方からご協力をいただいたり、公的な援助を受けていたりしますけれども、南廻線の関係者や公的機関からお話をいただいたわけではありません。

 あくまでわたしが興味をもったことから、このプロジェクトはスタートしました。

 なぜ、鉄道をメインテーマにした作品を思いついたかというと、まずわたしが鉄道が好きということがあげられるかもしれません。

 といっても、作品にも登場いただいていますけど、鉄道写真を撮ることが生きがいといった熱烈な鉄道ファンではありません。

 鉄道や列車に乗って目的地までゆっくり移動しながら、車窓から変化する風景を眺めるのが好きなんです。

 車窓から眺めているとその町の特色や文化が見えてくるところがある。

 たとえば、ここは農村の風景がひたすら広がっているなとか、ここは漁村で船がいっぱいあるなとか、ここは若者が多いなとか、ここは老人が多いなとか目でいろいろなことを感じられる。

 さらにここは海が近いからか潮の香りがするなとか、ここは緑が多くて木々の匂いがするなとか、その町の匂いや雰囲気も感じることができる。

 列車に乗ることでいろいろなことが感じられるんですね。

 だから、わたしは列車が大好きです。日本に来たときも時間が許せば列車に乗って窓の外を眺めています(笑)。

 そういうこともあって、心のどこかにいつか『鉄道』についてのドキュメンタリー映画が撮れたらとの思いがありました」

「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」より
「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」より

鉄道は台湾の人々の生活と都市の発展に大きく寄与してきたのではないか

 そこから今回の作品へどうつながっていったのだろうか?

「そうですね。

 今回のメインのテーマになる『南廻線』も、わたしはなじみがあって何度か乗ったことがあります。

 この路線は、パイナップル畑が広がるエリアがあったり、線路の近くまで海が迫っているエリアがあったり、大自然の緑に包まれたエリアがあったり、と風光明媚な風景が広がっている。その大自然の中をSLやディーゼル列車がのんびりと走り抜けていく。そういった感じで旅情豊かな路線としてよく知られていました。

 ただ、全線の電化が決まりました。当然、その影響はあって沿線の風景は変化することになる。

 そのことを知ったとき、失われゆく沿線の原風景を記録してとどめておけないかとまず考えました。

 このことが今回のプロジェクトの出発点だったと思います。

 それから、台湾の鉄道の基礎は日本の植民地時代に作られたものです。その路線を基盤にしながら、徐々に鉄道網が構築されて、いろいろな都市が結ばれることで、町が発展してきた。

 そう考えると、鉄道は台湾の人々の生活と都市の発展に大きく寄与してきたのではないかと思いました。

 そこで『南廻線』を主題に、鉄道にかかわる人々、沿線の人々の暮らしなどに目を向けたとき、なにか台湾のいままであまり気づかなかったことが浮かびあがってくるのではないかと考えました。

 そういうことを考えながら、今回のプロジェクトに臨むことにしました」

(※第二回に続く)

「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」メインビジュアル
「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」メインビジュアル

「郷愁鉄路~台湾、こころの旅~」

監督:シャオ・ジュイジェン(蕭菊貞)

プロデューサー:チェン・ボーウェン(陳博文)、シェン・イーイン(沈邑頴)

音楽:チェン・ミンジャン(陳明章/陳明章音楽工作有限公司)/シェ・ユンヤー(謝韻雅/MIA)

編集:チェン・ボーウェン(陳博文)/チェン・ユーツォン(陳昱璁)

音響:ドゥ・ドゥーチー(杜篤之)/シェ・チンジュン(謝青㚬)

公式サイト https://on-the-train-movie.musashino-k.jp/

新宿武蔵野館ほか全国順次公開

筆者撮影以外の写真はすべて(C)Pineal Culture Studio

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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