物価高で老後資金が4000万円必要になる?ホントのところどうなの?
2019年に世間を騒然とさせた「老後資金2000万円問題」を覚えている人も多いでしょう。今後は物価高により老後資金が4000万円必要になるというニュースがあり、話題になりました。今回は老後資金4000万円問題について考えます。
■そもそも公的年金だけでは老後生活できない
まずは前提として公的年金はどのような考えで支給されるかを確認しましょう。日本の公的年金は昭和17年(1942年)に労働者年金保険という名称で現在の厚生年金保険が始まりました。昭和36年(1961年)には国民年金がスタートし、国民皆年金が実現しました。当時は、国民年金と厚生年金、公務員の共済年金は別々の年金制度でした。
昭和60年頃の厚生年金は、手取りの7割程度(68%)が支給されていました。当時のままでは将来的に手取りの8割(83%)が支給され、かつ配偶者の国民年金を含めると、現役時代の手取りの1.1倍(110%)の年金が支給されると試算されました。年金暮らしの方が豊かになってしまう制度だったわけです。
このような状況から、昭和60年(1985年)に今に通じる、1階部分が国民年金(基礎年金)、2階部分が厚生年金か共済年金という2階建ての年金制度に変化します。なお、現在のiDeCoや企業型確定拠出年金は3階部分になります。
昭和60年時点で、老後生活の原資は7公3民であり、現役時代の生活を維持するには、公助7割、自助3割となっていたことがわかります。なお、自助3割とは、生活に占める支出の割合の3割は貯蓄の取り崩しだと考えるといいでしょう。
老後資金2000万円問題が発表された当時、マスコミが散々騒いだ「公的年金だけで生活できないのか!?」といった煽りは、FP資格を保有している全国の200万人を超えるFP試験合格者はもちろん、多くの働く人にとっては「年金だけで生活できるとはそもそも考えていない」という感想だったでしょう。ただ、あらためて「年金だけで生活は難しい」ということを世に知らしめることで、今につながるiDeCoの増額や旧NISAから新NISAへの改定につながっているという意味では効果的なレポートであったと言えるでしょう。
●参照資料 公的年金制度の歴史
出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/000955291.pdf
その後、少子高齢化が進展し、保険料収入と年金支払いのバランスが不安視される中色々と改善が図られましたが、2019年度の公的年金の所得代替率は61.7%となり、手取りの6割しか年金を受取れていない状況になりました。
7公3民が6公4民になったのです。税金の負担が減るのであれば、嬉しい改善ですが年金の受給額という意味では改悪です。3割の自助が4割に増えたということは、自助の割合が3割増しになったということであり、今までよりも3割多く貯蓄する必要があるといった意味だと考えてください。公助では7割が6割に減ったことで、15%程度負担を減らすことに「成功」しています。
そして公的年金の状況を5年ごとに説明する、「財政検証」においては、公的年金の支給割合である所得代替率は5割と示されています。なんと、支給率はさらに低下しています。5公5民です。現役時代の生活費の5割相当を、貯蓄から取り崩す必要があります。
5割の支給率を維持する前提は
・物価が上昇すること
・年金の運用がプラスであること
・経済成長が続くこと
・出生率が向上すること
などとなっています。
物価上昇と年金の運用がプラスになるという点は達成できそうです。経済成長が続くというのは、経済成長の実感ではなく、机上の計算ですから達成できる可能性はあります。ただ、出生率はどうでしょう。出生率が維持できないと将来の年金保険料の負担者の母数が減りますので、現役世代の負担が増えることになります。
既に「ムリゲー」と言われている日本の少子化対策が、公的年金の水準維持の1つの要件になっている点が、筆者にとっては公的年金の将来的な保険料増加か給付削減にいずれかにつながるようで恐ろしく感じています。
100年安心と言われた公的年金は、100年安定させるために支給率を減らしてきました。100年安心とは、私たちが人生100年時代を安心して暮らせるための制度という説明ではなく、公的年金は今後100年持続可能であるという意味だったのです。100年後には政策関係者は誰も生きていないでしょうから、色々なことを先送りして、自分たちは逃げ切ったと将来評価されることになるでしょう。
●参考資料 2019(令和元)年財政検証結果のポイント
出典:厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/content/000540198.pdf
■老後資金2000万円の計算根拠
さて本題の老後資金2000万円問題では、年金収入が20.9万円、生活における支出が26.4万円となり、毎月5.5万円の預金取り崩しが発生。老後30年間で月5.5万円×360か月=1980万円の預貯金が必要だという計算です。
ここで質問です。あなたは現在26.4万円で生活できていますか?将来26.4万円で生活できそうですか?
■老後資金4000万円の計算根拠は?
毎年の物価上昇が3.5%であった場合、
10年後に物価は1.41倍になります。
20年後に物価は1.99倍になります。
つまり、老後資金として必要であった2000万円は20年後には2倍の4000万円になっているというのです。なお、30年後には2.8倍の5600万円が必要になり、40年後には3.96倍の7920万円が必要になります。
2000万円を年率3.5%複利で運用すると、20年後に4000万円、30年後に5600万円、40年後に8000万円が必要になります。2000万円どころか、4000万円ですら足りなくなる計算です。
他にも懸念点はありますが、単純計算では上記のようになります。インフレ下では、物価上昇を想定した老後資金の準備が必要なようです。