カネロ対サンダースの勝負を行方を左右するカギとは? S・ミドル級3冠戦の展望
5月8日 アメリカ テキサス州アーリントン
AT&Tスタジアム
WBAスーパー、WBC、WBO世界スーパーミドル級タイトル戦
WBAスーパー、WBC王者
サウル・“カネロ”・アルバレス(メキシコ/30歳/55勝(36KO)1敗2分)
12回戦
WBO王者
ビリー・ジョー・サンダース(イギリス/31歳/30戦全勝(14KO))
ボクシングのビッグイベントが戻ってくる夜
今週末、アーリントンのAT&Tスタジアムで行われる興行は“Boxing is Back”の趣を感じさせる大イベントになりそうだ。
カネロ対サンダース戦の前売り券販売は快調で、エディ・ハーン・プロモーターによると7万人をゆうに超えるファンが集まりそうだとか。アメリカ国内の室内興行の史上最多観客数は1978年、ニューオリンズのスーパードームで開催されたモハメド・アリ(アメリカ)対レオン・スピンクス(アメリカ)戦の63.352人。今戦ではそれを上回る数の観客を飲み込むことが濃厚だという。
「これまで私が関わった中でも最大級のイベントになる。AT&Tスタジアムには7万人以上が集まる。パンデミック開始以降のスポーツイベントでは最大の観衆。土曜日の雰囲気は忘れられないものになるだろう」
6日の会見時、ハーンは高らかにそう宣言していた。
実際にテキサスは政府がもう大丈夫だと判断して商業活動の全面再開を後押しし、AT&Tスタジアムの隣にあるテキサス・レンジャーズ(MLB)の本拠地グローブ・ライフ・フィールドにはすでに4万人近い観客が動員されている。8日の試合当日も、現場は2019年にタイムトラベルしたような空気感になりそうだ。
アーリントンにマッチルーム・スポーツが作り上げた“バブル(隔離空間)”にも、最近では最大数のメディアが集まってきた。
おかげで取材活動も競争がより激しくなり、筆者が“バブル”到着前に確約をもらっていたカネロの単独インタビューはグループセッションに変更になってしまった。残念ではあったが、考えようによってはこれも“ノーマル”への大きな一歩。先の読めない取材体制が戻ってきたことは、長く続くパンデミックも少しずつ先が見え、より正常な形でのボクシング興行に近づいている証と言えるのかもしれない。
やはりカネロ有利ではあるが
こうしてトンネルの向こうに光が見えた中で行われるスーパーミドル級の3冠戦はいったいどんな展開、結果になるのか。どのような観点から考えようと、今が旬のカネロの優位はやはり動かし難い。
最近のカネロはプレッシャーのかけ方のうまさに磨きがかかった感がある。守備意識を忘れず、カウンターも混じえながら、前に出て相手を追い詰めるようになった。今のカネロに勝つためには特別なパフォーマンスが必要。ブランクがちで、試合ごとのアップ&ダウンが激しいサンダースにそれができるかは疑問の残るところだろう。
とはいえ、よく言われている通り、スピード、フットワークを備えたサウスポーのサンダースはカネロに苦戦を強いる可能性があるのは事実ではある。
よく引き合いに出されるのが、カネロが7〜8年前にエリスランディ・ララ(キューバ)、オースティン・トラウト(アメリカ)というベテランサウスポーに味わった苦戦と、サンダースが約3年半前のデビッド・レミュー(カナダ)戦で経験した圧勝劇だ。新陳代謝の激しいスポーツ界で、これらはすべて昔の話。前述した通りのカネロの成長を考えれば、”レミュー戦の出来のサンダースであれば、スキルフルなサウスポーへの対処が不得意なカネロを苦しめられる”という見方は短絡すぎるのかもしれない。
「もう誰かに何かを示そうとする必要はない。私が向上し続けていることはこれまで見せてきた通り。ただ勝ち続けるだけだ」
6日の囲み取材時、カネロもそう語って自身の上達をアピールしていた。
ただ、本人がどう言おうと、ララ戦以降、カネロは同タイプのサウスポーとは一度も戦っていないことを忘れるべきではない。つまり、苦手タイプを克服したとリング上で証明されたわけではないということ。この部分に、今戦の最大の興味が存在すると考えているのは筆者だけではないはずである。
大舞台にふさわしい好試合への期待
試合前に大きめのリングサイズを要求したサンダースが大舞台で万全のコンディションを作り、ハンドスピードと快足をいかして好スタートを切れれば少々面白くなる。スーパーミドル級で5戦目を迎えた31歳の英国人には、ミドル級では減量苦ゆえに中盤以降に息切れしたダニエル・ジェイコブス(アメリカ)のようなスタミナの不安はない。アゴに爆弾を抱えていたセルゲイ・コバレフ(ロシア)のような致命的な弱点もない。
これらの要素から、サンダースが少なくとも中盤までは必死に手数を出し、それほど大きな差がつかないまま後半戦にもつれ込んでも不思議はないように思える。
いずれにしても、今戦は判定勝負が有力。カネロは強打者ではあるが、カラム・スミス(イギリス)、ジェイコブス、ゲンナディ・ゴロフキン(カザフスタン)、フリオ・セサール・チャベス・ジュニア(メキシコ)、ミゲール・コット(プエルトリコ)、ララ、トラウトといったトップファイターのほとんどとは判定勝負になり、KOに迫るシーンもなかったことが示す通り、“KOマシーン”の称号が相応しい選手ではない。サンダースも終了ゴングに駆け込むことはできるのではないか。
すべての後で、結局は2〜6ポイント差程度でカネロの判定勝ちではないかと思うが、どちらかといえばサンダースの頑張りが目立つ内容になったとしても特に驚かない。
せっかくの“史上最大級の興行”なのだから、スミス戦のようなワンサイドファイトになって欲しくはない。終盤まで勝敗が読めない流れになり、AT&Tスタジアムの大観衆がどよめくような展開になることを、ここでは願望も込めて予想しておきたい。