神宮大会は、来春のセンバツ出場が確実な地区大会優勝の10校が集結して行われる。したがって、センバツの前哨戦という位置づけになり、各校にとっては全国レベルを肌で感じるまたとない機会とも言える。今年の甲子園で優勝した春夏の王者同士が、新チームになって激突する一戦は、近年の神宮大会でもまれに見る大激戦となった。

春と夏の甲子園王者同士が激突

　センバツ王者の大阪桐蔭（近畿）は、エースの前田悠伍（2年・主将＝タイトル写真）が健在で、総入れ替えとなった野手陣も、試合を重ねるごとに調子を上げている。対する夏の覇者、仙台育英（宮城＝東北）は、甲子園で投げた3投手や、上位打者など多くの優勝メンバーを残し夏春連覇も狙える陣容で、神宮大会準決勝第1試合は熱戦が期待された。

仙台育英は中盤の交代機で逆転許す

　試合は、立ち上がりから制球に苦しむ前田を攻めた仙台育英が1回、6番・寺田賢生（2年）の適時打で先制する。さらに2回にも無死満塁から1点を追加するが、大阪桐蔭も3回に、仙台育英先発の左腕・仁田陽翔（2年）から3番・徳丸快晴（1年）の適時打で追い上げる。その後は仙台育英が得意の継投で大阪桐蔭の反撃を断つが、6回、二番手の右腕・高橋煌稀（2年）が突如乱れ、1死満塁で、三番手の左腕・田中優飛（2年）にスイッチ。左打者が続く場面での投入は頷けるが、いずれも左打者の2番・山田太成（2年）に逆転打を浴び、4番・南川幸輝（2年）の犠飛で一挙3点を奪われた。

前田が9回の猛追を辛くも振り切る

　前田は7、8回を三者凡退に抑え、8回に1点を加えた大阪桐蔭が5－2で逃げ切るかと思われたが、初戦の沖縄尚学（九州）に9回裏、5点を奪って逆転サヨナラを演じている仙台育英がまたも粘りを見せる。甲子園でも活躍した橋本航河（2年）、山田脩也（2年=主将）の１、2番コンビが好機を演出すると、3番・湯浅桜翼（おうすけ＝1年）の適時打でまず1点。4番・斎藤陽（ひなた＝2年）も犠飛で続いて1点差に詰め寄るが、最後は前田が渾身の141キロ直球で見逃し三振にしとめ、5－4で辛くも猛追を振り切った。とても秋の試合とは思えない。これがそのまま甲子園の決勝でもおかしくないくらいのハイレベルな攻防だった。

やはり前田は神宮のマウンドが合わない？

　前田は161球の完投で6安打4失点。三振は6個にとどまり、10四死球を与えた。この内容からも、いかに苦しい投球だったかがうかがわれる。前回も少し触れたが、前田にはこの神宮のマウンドが合わないように思う。この日は直球の走りこそ良かった（最速は144キロ）が高めに浮くことが多く、低めに厳しい球審だったこともあり、変化球の制球にも苦労した。いつもより修正に時間がかかったのは、マウンドのせいだったかもしれない。近畿大会の彦根総合（滋賀）戦とよく似た傾向にあったが、9回に打たれたのは球数の多さと、仙台育英の底力だろう。それでも勝ち切るのが、前田の非凡なところだ。

豪華投手陣の仙台育英、今後の役割分担は？

　仙台育英は、継投機につけ込まれた。140キロオーバーの5投手を擁し、この日は甲子園優勝メンバーの3人も投げたが、やはり継投は難しい。左打者が多い大阪桐蔭対策として、仁田の先発は予想通りだったが、4回途中での交代になった。直後のピンチをしのいだ主戦格の高橋には、須江航監督（39）も長いイニングを期待したと思うが6回、突然、制球がおかしくなり、逆転のきっかけを与えた。4人目で投げた湯田統真（2年）も8回に1点を失い、突き放されたが、結果的にはこれが勝敗を左右した。力のある投手を多く擁するため、ピンチで代えやすい反面、その日の調子で打たれることもある。特にリードしている展開での逃げ切り継投は、現在の野球（プロも含め）で、最も難しいとされる。センバツまでに役割分担を明確にするか、須江監督の采配に注目している。

残念だった不可解判定

　この試合では、残念な不可解判定があった。仙台育英の2回、無死満塁の場面で、三塁線のゴロを処理した三塁手が本塁へ送球し、併殺を狙って捕手が一塁へ転送（セーフ）した。三塁手はベースを跨いで投げたが、これを審判がベースタッチ（2塁走者のフォースアウト）とみなしたため、生還が認められてしまった。もし、ベースを踏んでいれば、守備側は3塁走者の挟殺プレーを試みるはずで、大阪桐蔭の西谷浩一監督（53）もそれを根拠に何度も質したが、判定は覆らなかった。テレビでは何度もスロー再生されたが明らかに踏んでおらず、この1点が勝敗に直結しなかったのが、せめてもの救いだった。

大阪桐蔭は前田以外に5人の140キロ超え

　ここまでの試合を見る限り、この2校がセンバツで優勝争いの中心になるのは間違いない。大阪桐蔭は中一日で決勝へ進む。疲労を考えれば、決勝での前田の登板は厳しいだろう。大阪桐蔭にも、前田以外に5人の140キロ超えの投手がいる。これまで前田に頼りっぱなしだったチームが、一皮むけられるか。史上初の神宮大会連覇を果たし、センバツ連覇へつながるような試合を見せてもらいたい。