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離婚弁護士から見たドラマ『リコカツ』にみる「リアルリコカツ=離婚準備」の最新事情とは

後藤千絵フェリーチェ法律事務所 弁護士
(写真:アフロ)

毎週金曜よる10時からTBS金曜ドラマ枠で放送中のドラマ「リコカツ」

ドラマは北川景子さん演じるファッション編集者の「水口咲」と、永山瑛太さん演じる自衛官の「緒原紘一」が運命的な出会いをして、交際ゼロのスピード結婚をするところから始まります。

ところが結婚後すぐに、価値観や生活習慣の違いで意見が食い違い、2人は大げんか。

新婚早々、2人は離婚を決意することになりますが、周囲から盛んに結婚を祝福された手前すぐには結婚が破綻したことを打ち明けられず、当分の間同居しながら、離婚に向けた準備「リコカツ」を進めていくことに―。

そんな中、徐々にお互いが惹かれあっていくというドラマです。

Twitterでも、「仕事を持つ夫婦の今後が気になる」「離婚でこういうやりとり、リアルにしたことがある!」と話題になっています。

当初、離婚には同意していたものの、紆余曲折があり、一転して本当に新婚生活をはじめようとするなど、2人の気持ちが揺れ動く様子が丁寧に描かれていて、キュンとしたり切なくなったり。ハラハラドキドキ、見終わった後すぐ、次回が待ち遠しくなります。

さて、「リコカツ」(離婚に向けた準備活動)ですが、「リアルにリコカツをする」場合には、実際のところ、どんなところに気をつければよいのでしょうか?

今回は、離婚を専門にする弁護士としての立場から「リアルリコカツ」について書いてみようと思います。

1 リコカツで最も大切なこと

リコカツで最も大切なこと―それは、相手に「本当に離婚する気があるのか?」を確認することです。

つまり「離婚」に対して心から「同意」をしているかどうか。

実は、離婚に対する真の「同意」があるかどうかは、スムーズに離婚を進めるために非常に重要なポイントなのです。

相手の「同意」さえあれば離婚ができますが、同意が得られない場合には、調停を経て裁判で法的手続きによる離婚を進めることになります。

そこでは「法定離婚事由」に該当しなければ離婚は認められません。

法定離婚事由は以下の5つとなっています。

1.配偶者に不貞な行為があったとき

2.配偶者から悪意で遺棄されたとき

3.配偶者の生死が三年以上明らかでないとき

4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき

5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

いくら片方が離婚したいと思っても、相手の同意が得られないために、離婚ができないケースはたくさんあるのです。

一方、お互い表面上は、「もうあなたとは離婚するわ!」「こっちこそすぐにでも離婚してやる!」なんて言っていても、本当は「離婚なんて絶対したくない」と思っているケースもよくあります。

売り言葉に買い言葉で離婚するなんて言ってみたけれど、まだまだ相手には未練があるし、なんだかんだ言っても別れたくない……。

離婚には同意しているのに、条件面でケチをつけてきたり、過剰な要求をしてきたりする場合は、本当は離婚なんてしたくないと思っている可能性があります。

もちろん、ただ単に嫌がらせをしたいだけかもしれません。

離婚届を提出する当日になって、「やっぱりやーめた!」と言って離婚をドタキャンした女性もいます。

ドタキャンされた相手は当然パニック。

離婚したくない、と言いだす相手に対して、なぜ急にそんなことを言うのか全く理解できず、むしろ恐怖すら感じたとのこと。

このように、配偶者が「心から離婚に同意しているのか」を見極めることは、ものすごく大切なことなのです。

ドラマでは主人公の心の移り変わりがまさに面白いところなのですが、リアルでは笑えない展開になることも珍しくありません。

ちなみに、相手に離婚を切り出すときのちょっとした秘訣なのですが、

なぜ離婚したいのか?と相手に理由を聞かれたときは、必ず、自分を主語にして話をしてみてください。

つまり、「あなたのそんなところが嫌なの!」と相手を責めるのではなく、「私はもう結婚生活を続けるのは難しいと思う」「私が結婚生活に向いてなかったみたい。ごめんなさい」です。

相手を責めてはいけません。

というのも、DVやモラハラ、不倫等は別として、一般的に離婚は片方が100%悪いということはないからです。相手を一方的に責めても、相手は納得しませんし、それどころか気分を害して対立が激化することは本当によくあります。

離婚を円満かつスピーディーに解決したいなら、相手に対する不満はグッと我慢して、冷静に話をすることが重要です。

2 リアルリコカツではずせない3つのチェックポイント

①住む家のこと

離婚を考えたとき、まず「離婚後の住む家をどうするか」という問題があります。

つまり、このまま今の家に住み続けるのか、それとも家を出るのか、選択を迫られることになるのです。

離婚の前段階としてまず「別居」がありますが、「別居」をするか、別居をせずに離婚をするのか―いずれにしても住む家の問題は、避けては通れないと言ってもいいでしょう。ドラマでも、夫が家の売却を考える場面がありましたね。

自ら家を出る場合は、引越し費用や新たに家を借りるための敷金や礼金を確保しておかないといけませんし、これらの出費もバカになりません。(この点、実家に戻る場合は、費用はかなり抑えられます)

現在の家に住み続けることを希望する場合は、賃貸住宅なら比較的問題は少ないですが、すでに不動産を購入済の場合は、名義がどちらになっているのか(もしくは共有名義なのか)、まだローンが残っているか、ローンの名義は誰か、オーバーローン(家の価値よりローンの残額が多いケース)かどうか、など問題が山積みです。

一度、専門家に相談してみるとよいでしょう。

②お金のこと

女性に関しては、離婚すると、一般的に収入が少なくなります。ドラマでは、咲は雑誌や小説を手がける編集者なので、それなりの収入があると想定されますので、離婚を考えやすい状況にありました。

しかし、ご主人の収入に頼って生活をしてきた場合には、収入源がなくなるわけですから、収入を得るためになんらかの対策を講じなければなりません。就活をすることを視野にいれる必要もあるでしょう。

とは言え、就活といっても、すぐには納得のできる職場にはなかなかめぐり会えないもの。

そう考えると、離婚の際にもらうお金は多い方がいいですよね。

離婚するときは、一刻も早く離婚したいと言って、財産関係を疎かにする方がいらっしゃいますが、もう少し粘っておけば離婚後の生活がもっと安定したのにと、弁護士としてもどかしい気持ちになることがよくあります。

お金にがめついと思われたくないという気持ちから、少し言いだしにくい財産やお金のこと。

ですが、専門家にも相談しながら、事前に下調べをしておいた方が絶対にいいです。特に、預貯金や株、保険などの夫婦の財産は、あらかじめ把握しておくようにしてください。

③お子さんのこと

お子さんがいらっしゃる方にとっては、離婚をするにあたり、一番の懸念はお子さんのことでしょう。

例えば、父親なら「親権は母親に譲ってもよいが、面会交流の約束はきちんと守ってもらえるのか?」とか。

母親なら「養育費を確実に支払ってもらうためにはどうすればよいのか?」「離婚して子供の苗字が変わったり、転校を余儀なくされるといった子供に影響を与えそうなことはできるかぎり避けたい」等々。

愛する子供に対する親の心配は尽きません。

親権を持たない親とお子さんとの面会交流に関しては、離婚に際して、夫婦で十分に協議し、できれば書面に残しておくことをおススメいたします。

実際に面会交流がうまくいくことで、養育費がスムーズに支払われているケースはよくみられます。やはり人間は感情の生き物ですから、会わせてももらえない子供の養育費は支払いたくないと思ってしまうからです。

また転校や苗字の変更などの問題に関しても、できれば夫婦間でよく話し合い、離婚はお子さんの負担の少ない3月中にするとか、お子さんを最優先に、お子さんファーストで考えることが重要です。

3 リアルリコカツを成功させるために

リコカツを成功させるためには、今一度、ご自身の気持ちを客観的に見て、「本当に離婚する覚悟はできているか?」「一時の気の迷いで意地の張り合いになっていないか?」ということをじっくり考えてみていただきたいと思います。

せっかく一緒になった相手ですから、できれば離婚せず、末永く結婚生活を続けていくに越したことはありません。

また、仮に離婚という選択をするとしても、みんなハッピーになれる『幸せな離婚』を選択していただきたいと思います。

それには、まず、「この人と離婚をしても後悔しないか?」「結婚生活を続けて、苦楽をともにする価値のある相手なのか?」を冷静に見極めることが重要です。

その見極めは自分にしかできません。

相手が配偶者としてふさわしいかどうかを見極めるための時間―その時間こそ、リコカツを成功させる鍵です。

そして、一度離婚すると決断したなら、後はもう迷うことなく離婚のための準備を始めてください。

私のアドバイスもぜひ参考にしていただき、「リアルリコカツ」を成功させていただきたいと思います。

フェリーチェ法律事務所 弁護士

京都生まれ。大阪大学文学部卒業後、大手損害保険会社に入社するも、5年で退職。大手予備校での講師職を経て、30歳を過ぎてから法律の道に進むことを決意。派遣社員やアルバイトなどさまざまな職業に就きながら勉強を続け、2008年に弁護士になる。荒木法律事務所を経て、2017年にスタッフ全員が女性であるフェリーチェ法律事務所設立。離婚・DV・慰謝料・財産分与・親権・養育費・面会交流・相続問題など、家族の事案をもっとも得意とする。なかでも、離婚は女性を中心に、年間300件、のべ3,000人の相談に乗っている。

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