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ラグビー日本代表、7トライで香港を41-0で撃破!「W杯仕様」の「スマートなラグビー」とは?

斉藤健仁スポーツライター
試合終了直後、リーダーを中心にミーティングする選手たち(撮影:斉藤健仁)

5月2日(土)、東京・秩父宮ラグビー場で「アジアラグビーチャンピオンシップ」第2戦、日本代表対香港代表が行われた。ワールドカップ(W杯)イヤーとなる今年、ラグビー日本代表としてホーム初戦となった。攻撃では7トライを挙げ、守っては相手を零封し41-0で快勝した。

◇「W杯仕様」のスマートな戦いとは?

試合後、日本代表を率いるエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)とPR畠山健介ゲームキャプテンは「良いアタックができた」と口を揃えた。その真意とは――。

就任4年目となるジョーンズHCが掲げてきたのはパス、キック、ランでスペースを攻める「スマートなラグビー」である。今シーズンの初戦となる韓国戦では56-31で勝利したものの、攻守ともにあまり冴えを見せることができなかった。だが、この試合は、昨年11月のマオリ・オールブラックスとの第2戦でも見られたような、相手のディフェンスに対して柔軟なプレーができたと言えよう。

それはまさしく、「W杯仕様」とも言える戦いだった。

ジョーンズHCは「ダイレクト(近場の選手にSHから一つのパスで攻撃する)とワイドと工夫して使うことができました。バリエーションのある試合を求めています。選手たちの意図、適応力には感心しています」、また「ターンオーバー後のリアクションが非常に良かった。以前よりも格段に良くなっている」と選手たちを称えた。

例えば、試合開始直後も、相手のキックオフしたボールをしっかり継続し、4次攻撃で相手のWTBが上がっていた裏のスペースにCTB田村優(NEC)がキックを蹴って、相手を背走させ、そのボールを相手がタッチに蹴ったことで、敵陣10mのマイボールラインアウトでリスタート(敵陣10mまで攻め込んだが、反則しトライには結びつかなかった)。

前半3分には敵陣のマイボールスクラムから、ボールを継続し、順目に攻めると思わせておいて、FB五郎丸歩(ヤマハ発動機)が逆サイドにライン参加し、WTB山田章仁(パナソニック/ウェスタン・フォース)にパスが通れば…という状況だった(この時、相手のディフェンスはFWばかりで大きなチャンスだった……)。

前半5分には相手のキックからのカウンター攻撃で、しっかりと選手全員がFWとBKといったポジションに関係なく、下がってポジショニングし、アタックラインを形成した。ボールを展開し、左サイドにいたPR三上正貴(東芝)、NO8ホラニ龍コリニアシ(パナソニック)とパスをつないで、最後は、WTB山田がライン際でおおきくゲインできるという状況を作り上げた。

◇自分たちの反則やミスでリズムを作れなかった

その後はキックだけでなく、クイックリスターやループプレーを交えてBKを中心に、相手のスペースを攻めて7トライを挙げた。だがWTB山田の先制トライが前半15分だったように、少し時間がかかってしまったのは、近場の攻撃でノットロールアウェイの反則やハンドリングエラーなどを繰り返してしまったこと。また、本来優位だったはずのスクラムを上手くコントロールできなかったことが要因だった。

「リズムを作らければいけないときに、個人のスキルでできなかったところが少々残念。ミスが多かったことを修正することを考えないといけない」とジョーンズHCが言えば、PR畠山も「(ラックの)2人目、3人目の判断、精度の部分を修正しないといけない」と課題を口にした。

エディー・ジャパンの戦術は拙著「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)が詳しい
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◇前の試合よりも組織ディフェンスが機能

ただアタックだけでなくディフェンスでも相手を零封するなど、チームとして組織ディフェンスが初戦の韓国戦よりも機能した。インサイドブレイクされるシーンもなく、個々のタックルもしっかりと相手に体を当てて、タックルでは2人目は早くダブルタックルできたシーンも多々あった。

チームとしてコミュニケーションが取れてきたことや、4月の宮崎合宿でリーグラグビー(13人制ラグビー)の元プロ選手だったスポットコーチのマックス・マニックス氏の下、タックルの個人スキルを向上してきた成果だ。「選手たちを誇りに思います。オーガナイズされて良いパフォーマンスできました」(PR畠山) 「今日の試合は(ディフェンスコーチの)リー・ジョーンズはハッピーでしょう」(ジョーンズHC)

前日練習後の囲み会見で「(初戦の)韓国戦のような試合は2度としない」とジョーンズHCがキッパリと言った通り、「エディー・ジャパン」がワールドカップに向けて、41-0と快勝し、2週間で修正した姿を披露してホームのファンを安堵させた試合となったと言えよう。

◇5月9日の韓国戦ではより進化した姿を!

ジョーンズHCも「(ワールドカップで100%と考えると)韓国戦は20%、香港戦は21%に上がったくらいですが、ポジティブなことです。本来、求めているところからはまだ遠いいですが、試合の中で様々なことを試している。大きなステップではないですが、間違いなくステップを積み重ねている」と納得の表情を見せていた。

ただ9月のワールドカップ本番まで残り10試合。残された時間はさほど多くない。

日本代表の今シーズン3試合目は5月9日(土)に福岡・レベルファイブスタジアムに、韓国代表を迎え撃つ。「試合ごとにテーマが違う」とLO伊藤鐘史(神戸製鋼)が言うが、セットプレーから相手を圧倒し、相手のスピードあるBK陣に自由にプレーさせないような、より成長した姿を期待したい。

※関連リンク

「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)

スポーツライター

ラグビーとサッカーを中心に新聞、雑誌、Web等で執筆。大学(西洋史学専攻)卒業後、印刷会社を経てスポーツライターに。サッカーは「ピッチ外」、ラグビーは「ピッチ内」を中心に取材(エディージャパン全57試合を現地取材)。「高校生スポーツ」「Rugby Japan 365」の記者も務める。「ラグビー『観戦力』が高まる」「ラグビーは頭脳が9割」「高校ラグビーは頭脳が9割」「日本ラグビーの戦術・システムを教えましょう」(4冊とも東邦出版)「世界のサッカー愛称のひみつ」(光文社)「世界最強のGK論」(出版芸術社)など著書多数。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。1975年生まれ。

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