12週間ぶりに値下りしたガソリン価格、鍵を握る新型コロナウイルス
資源エネルギー庁の「石油製品価格調査」によると、1月29日時点のレギュラーガソリンの全国平均価格は1リットル=151.5円となり、12週間ぶりに値下りした。
昨年9月17日の142.9円をボトムに、今年1月5日には150円の節目を突破し、前週には2018年11月26日以来となる約1年3ヵ月ぶりの高値を更新していた。米中通商合意の実現で世界経済の見通しが改善したことで、原油調達コストが大きく値上がりしていた結果である。年明け後は、更に中東で米国とイランの全面戦争も警戒される状態になったことが更に原油価格を押し上げ、ガソリン価格もどこまで上がるのか分からないとの緊張感に包まれていたが、比較的早い段階で急激なガソリン価格高には歯止めが掛かり始めている。
■原油価格は3週間前から急落している
なぜガソリン価格の高騰に歯止めが掛かっているのかは、原油価格をみれば一目瞭然である。指標となるNY原油先物価格は、昨年10月上旬時点では1バレル=50ドル台前半で取引されていたが、米中通商合意の実現で世界的な株高傾向が加速すると、原油価格も急伸地合に転じ、年末時点では61.06ドルまで値上がりしていた。このタイミングで中東のイラクにおいて米国とイランが一触即発の状態に陥る中、中東からの原油供給が途絶える最悪の事態も警戒され、1月8日には一時65.65ドルまで急伸する展開になっていた。
ここまではメディアでも大きく取り上げられていたが、実はその後の原油価格は急落しているのだ。米国とイランが全面的な軍事衝突に陥る事態が回避される一方、依然として脆弱な世界経済環境から2020年上期の国際原油需給は供給過剰状態になるとの予想が、国際エネルギー機関(IEA)などから相次いで示された結果である。
しかも、このタイミングで発生したのが中国・武漢から広がりを見せている新型コロナウイルスの感染被害であり、1月27日の原油価格は52.13ドルまで値下りしているのである。3週間に満たない期間で原油価格は最大で13.52ドル、率にして20.6%も急落しており、これがガソリン価格に対しても強力なディスカウント圧力として機能している。
ガソリン小売価格には、原油調達コスト以外にも精製コストや各種税金が加算されるため、原油価格の20%安がそのまま全て反映される訳ではない。ただ、国内指標となる東京商品取引所(TOCOM)のガソリン先物価格も、期近物では1月8日の1キロリットル=6万2,400円をピークに、29日安値は5万3,280円となり、1リットル当たりで最大9.12円の下落圧力が発生している。
実際には、ガソリン先物価格のピークが小売価格に全て反映されている訳ではないため、この9.12円安がそのまま実現する訳ではない。ただ、現在の先物価格は概ね10月上旬時点の水準まで下落しているため、現時点で145円割れまでは正当化できないが、146~148円水準までの値下りであれば、十分に許容できる。ガソリン価格の値上がりが再び話題になり始めているが、給油時期を急ぐ必要性はなく、むしろ必要な時まで給油時期は先送りした方が良いだろう。
■今後の鍵を握るのは中国経済の行方
今後のガソリン価格動向の鍵を握るのは、新型コロナウイルスの感染被害の深刻度である。本稿執筆時点では中国本土のみで死者132人、感染者5,000人超と報告されているが、更に脅威が増していけば実体経済、そして石油需要にも深刻な影響が生じる可能性があるためだ。
中国政府が団体旅行の規制を行ったことで、既に飛行機の運航には多数のキャンセルが報告されており、ジェット燃料の需要が大きく落ち込む可能性がある。また、中国経済活動全体が冷え込む事態になると、幅広い分野で原油・石油製品需要が失われる可能性もある。実際に、石油輸出国機構(OPEC)内部でも、中国の需要減退に備えるために協調減産期間の延長、減産幅の拡大など、対策が必要ではないかとの議論が浮上し始めている。
仮に、こうした警戒感が杞憂に終われば、瞬間的なパニック状態で必要以上に原油価格が値下がりしている状態と評価され、ガソリン価格に対する下押し圧力は一時的なものに留まることになる。一方、新型コロナウイルスで中国経済が本格的に冷え込む事態になれば、ガソリン価格は長期低迷局面に移行することになる。
昨年の中国国内総生産(GDP)は、29年ぶりの低い伸び率に留まったが、米中貿易摩擦に続いて新型コロナウイルスのショックが直撃すると、中国はもちろん日本経済にとっても無視できないインパクトが生じる可能性がある。新型コロナウイルスも、一見するとガソリン価格とは無縁の出来事のようだが、現在の国際原油市場においては最大の関心事になっている。